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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
療養と新しい力

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37/143

37:視界

本日もよろしくお願いします。

訓練場の朝


「……うわ、本当に気持ち悪そうな顔してる」


開口一番、訓練場へ入ってきたリオがそう言った。


「……否定は、できません」


レオン・アルバーンは木箱に腰掛けたまま、

げっそりした顔で返した。


額には汗。

顔色も悪い。


その肩には、淡銀色の四羽目の妖精鳥。

⸻


ぴ。


⸻


どこか他人事みたいに鳴いている。


「また視覚共有か?」


「はい……」


リオは苦笑した。


異常個体戦から数日。

リオはまだ怪我の療養中だった。


腕の骨折は治りきっていない。

そのため現在はリハビリ期間。


結果として。


「暇だから付き合ってやるよ」


という流れで、最近はレオンと一緒に訓練場へ来ることが増えていた。


⸻


「で、今回は何秒だった?」


「……八秒です」


「伸びてんじゃん」


「その後、盛大に吐きましたけど」


「だろうなあ」


リオは普通に納得した。


四羽目の妖精鳥の能力は、


“感覚共有”。


正確には、妖精鳥側の視覚情報をレオンの脳へ直接流し込む。


理論上は強力だ。


上空視点。

死角確認。

広域把握。


戦場全体を見渡せる。


だが。


「普通に頭おかしくなるよな、これ」


リオが言う。

本当にその通りだった。


最初の問題は、視界が二重になること。


自分の目。

そして妖精鳥の視界。


二つが同時に流れ込む。


しかも、角度が違うし、距離感も違う。


自分は地面に立っているのに、

脳の半分は上空を飛んでいる。


結果。


「……酔うんですよね」


「そりゃ酔う」


初日は三秒で転倒した。

二日目は歩こうとして壁にぶつかった。


今日は八秒。


その後、盛大に吐いた。


「召喚士って大変だな……」


リオが少し引いた顔をする。


「他の召喚士がどうかはわかりませんけど、僕もここまでとは思いませんでした」


ただ、レオン自身、可能性は感じていた。


一瞬だけ、戦場全体が“見える”感覚。


あれは確かに、強い。


⸻


「問題は、情報量なんですよね」


レオンは水を飲みながら言う。


「全部見えすぎる」


上空から見ると、情報が一気に増える。


人の位置。

動き。

遮蔽物。

死角。


全部同時。


だから脳が処理しきれない。


「戦闘中なんかもっと無理そうだな」


「はい」


静止状態で八秒。


動きながらならもっと短い。


しかも。


「疲れてる時ほど酷いです」


昨日、魔力消耗状態で試した時は、

五秒で頭痛が来た。


視界がブレ、平衡感覚が狂う。


かなり危険だった。



「でもまあ」


リオが笑う。


「完成したら滅茶苦茶強そう」


レオンもそれは否定しなかった。


⸻


「おー、やってんな」


聞き慣れた声に振り向く。


ガドだった。


その後ろには、


木剣と木盾を持った新人冒険者たち。


「……教官、本当にやってるんですね」


レオンが少し驚く。


「意外そうな顔すんな」


ガドは笑う。

すでにギルド実技教官として動き始めていたらしい。


「今日は新人の盾役訓練だ」


後ろの新人たちは、ガドをかなり真面目に見ていた。

どうやら評判は良いらしい。


「で?」


ガドがレオンを見る。


「新しい鳥はどうだ」


「かなり難しいです」


「だろうな」


即答だった。


ガドは少し考えてから言う。


「視界二つあるんだろ?」


「はい」


「そりゃ脳が混乱する」


当然みたいに言う。


「人間ってのはな、“見たいもん”だけ見るようにできてんだ。全部見ようとすると逆に処理落ちするんだよ」


レオンは少し考える。


「……必要な情報だけ拾う?」


「分からんけど多分な」


ガドは肩をすくめた。


「まあ、慣れだろ」


「雑」


リオが笑う。


「俺は門外漢だからな!」


ガドは豪快に笑った。


でも、レオンは少しだけ納得していた。

確かに今の自分は、


“全部見よう”としている。


だから潰れる。

戦場でも同じだ。

全部を完璧に処理することなんてできない。


必要な情報を拾う。


それが多分、この能力の本質。

⸻


夕方。

最後にもう一度だけ試す。


深呼吸。


妖精鳥が飛ぶ。


視界共有。


酔う。

頭が揺れる。


だが、今度は少し違った。


全部を見ない。


見るのは、


“人”。


リオ。

ガド。

新人たち。


位置だけ。

動きだけ。


それだけに集中する。


すると。


「……あ」


少しだけ、酔いが軽い。


三秒。

五秒。

八秒。


十秒。


「お?」


リオが気づく。


レオンは視界共有を切った。

まだ気持ち悪い。


でも。


立っていられる。


「……できた」


ほんの少し。

本当に少しだけ。


前へ進めた感覚。


ガドはそれを見て、

どこか満足そうに笑った。


「やっぱお前、積み重ねるタイプだな」


夕陽が訓練場を染める。


遠くでは新人たちの声。


その中でレオンは、

新しい力を少しずつ自分のものにし始めていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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