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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード


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37/52

37:視界

本日もよろしくお願いします。

訓練場の朝


「……うわ、本当に気持ち悪そうな顔してる」


開口一番、訓練場へ入ってきたリオがそう言った。


「……否定は、できません」


レオン・アルバーンは木箱に腰掛けたまま、

げっそりした顔で返した。


額には汗。

顔色も悪い。


その肩には、淡銀色の四羽目の妖精鳥。


ぴ。



どこか他人事みたいに鳴いている。


「また視覚共有か?」


「はい……」


リオは苦笑した。


異常個体戦から数日。

リオはまだ怪我の療養中だった。


腕の骨折は治りきっていない。

そのため現在はリハビリ期間。


結果として。


「暇だから付き合ってやるよ」


という流れで、最近はレオンと一緒に訓練場へ来ることが増えていた。



「で、今回は何秒だった?」


「……八秒です」


「伸びてんじゃん」


「その後、盛大に吐きましたけど」


「だろうなあ」


リオは普通に納得した。


四羽目の妖精鳥の能力は、


“感覚共有”。


正確には、妖精鳥側の視覚情報をレオンの脳へ直接流し込む。


理論上は強力だ。


上空視点。

死角確認。

広域把握。


戦場全体を見渡せる。


だが。


「普通に頭おかしくなるよな、これ」


リオが言う。

本当にその通りだった。


最初の問題は、視界が二重になること。


自分の目。

そして妖精鳥の視界。


二つが同時に流れ込む。


しかも、角度が違うし、距離感も違う。


自分は地面に立っているのに、

脳の半分は上空を飛んでいる。


結果。


「……酔うんですよね」


「そりゃ酔う」


初日は三秒で転倒した。

二日目は歩こうとして壁にぶつかった。


今日は八秒。


その後、盛大に吐いた。


「召喚士って大変だな……」


リオが少し引いた顔をする。


「他の召喚士がどうかはわかりませんけど、僕もここまでとは思いませんでした」


ただ、レオン自身、可能性は感じていた。


一瞬だけ、戦場全体が“見える”感覚。


あれは確かに、強い。



「問題は、情報量なんですよね」


レオンは水を飲みながら言う。


「全部見えすぎる」


上空から見ると、情報が一気に増える。


人の位置。

動き。

遮蔽物。

死角。


全部同時。


だから脳が処理しきれない。


「戦闘中なんかもっと無理そうだな」


「はい」


静止状態で八秒。


動きながらならもっと短い。


しかも。


「疲れてる時ほど酷いです」


昨日、魔力消耗状態で試した時は、

五秒で頭痛が来た。


視界がブレ、平衡感覚が狂う。


かなり危険だった。



「でもまあ」


リオが笑う。


「完成したら滅茶苦茶強そう」


レオンもそれは否定しなかった。



「おー、やってんな」


聞き慣れた声に振り向く。


ガドだった。


その後ろには、


木剣と木盾を持った新人冒険者たち。


「……教官、本当にやってるんですね」


レオンが少し驚く。


「意外そうな顔すんな」


ガドは笑う。

すでにギルド実技教官として動き始めていたらしい。


「今日は新人の盾役訓練だ」


後ろの新人たちは、ガドをかなり真面目に見ていた。

どうやら評判は良いらしい。


「で?」


ガドがレオンを見る。


「新しい鳥はどうだ」


「かなり難しいです」


「だろうな」


即答だった。


ガドは少し考えてから言う。


「視界二つあるんだろ?」


「はい」


「そりゃ脳が混乱する」


当然みたいに言う。


「人間ってのはな、“見たいもん”だけ見るようにできてんだ。全部見ようとすると逆に処理落ちするんだよ」


レオンは少し考える。


「……必要な情報だけ拾う?」


「分からんけど多分な」


ガドは肩をすくめた。


「まあ、慣れだろ」


「雑」


リオが笑う。


「俺は門外漢だからな!」


ガドは豪快に笑った。


でも、レオンは少しだけ納得していた。

確かに今の自分は、


“全部見よう”としている。


だから潰れる。

戦場でも同じだ。

全部を完璧に処理することなんてできない。


必要な情報を拾う。


それが多分、この能力の本質。


夕方。

最後にもう一度だけ試す。


深呼吸。


妖精鳥が飛ぶ。


視界共有。


酔う。

頭が揺れる。


だが、今度は少し違った。


全部を見ない。


見るのは、


“人”。


リオ。

ガド。

新人たち。


位置だけ。

動きだけ。


それだけに集中する。


すると。


「……あ」


少しだけ、酔いが軽い。


三秒。

五秒。

八秒。


十秒。


「お?」


リオが気づく。


レオンは視界共有を切った。

まだ気持ち悪い。


でも。


立っていられる。


「……できた」


ほんの少し。

本当に少しだけ。


前へ進めた感覚。


ガドはそれを見て、

どこか満足そうに笑った。


「やっぱお前、積み重ねるタイプだな」


夕陽が訓練場を染める。


遠くでは新人たちの声。


その中でレオンは、

新しい力を少しずつ自分のものにし始めていた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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