35:心配と安心と
本日もよろしくお願いします。
ガドは丸太椅子へ深く腰掛けたまま、ふっと笑った。
「まあ、俺な、昔から新人見るの好きなんだよ」
レオンは少し意外そうな顔をする。
「……そうなんですか?」
「ああ」
ガドは訓練場の方へ視線を向けた。
木剣を振る新人。
怒鳴る先輩冒険者。
ぎこちない足運び。
どこにでもある光景。
「年長者の趣味みてえなもんだ」
「誰が伸びるか、誰が潰れそうか、誰が変な死に方しそうか。なんとなく見てる」
軽い口調だった。
だが、その言葉には妙な重みがあった。
「……レオン、お前も割と昔から見てたぞ」
レオンは少し目を見開く。
「最初は、妙に気ぃ遣うガキだなって思ってた」
「……否定しづらいです」
「でも、ちゃんと周り見れてた」
ガドは続ける。
「支援役ってのはな、“自分以外を見る癖”がねえと務まらねえ。だからお前、多分長く生き残るタイプだと思ってた」
一拍置いて。
「……まあ、ちょっと生き急ぎ始めた時は心配したがな」
しばらく沈黙。
風が吹く。
訓練場の木剣の音が遠くで響いていた。
その後、ガドがぽつりと言う。
「……正直、少し気にしてたんだよ」
「?」
「お前のこと」
レオンは静かに視線を向ける。
ガドは頬を掻いた。
「あの昇格試験落ちた辺りからな」
「……」
「なんつーか、“生き急いでる”感じしてた」
その言葉に、
レオンは少しだけ目を伏せた。
否定できない。
依頼を詰め込み、
無理にでも前へ進もうとしていた。
焦っていた。
置いていかれたくなくて。
「若いやつって、時々いるんだよ」
ガドが言う。
「“立ち止まったら終わる”みたいな顔するやつ」
「……」
「でもな、そういうやつほど無茶して死ぬ。だから少し心配だった」
ガドはそう言って笑う。
「けど、最近はいい顔してる」
レオンは少し驚いた。
「町防衛の時からかな」
「あの辺りから、お前」
“前向いて戦えてる顔”になった。
以前みたいな、
焦燥だけの顔じゃない。
ちゃんと、積み重ねながら前へ進もうとしている。
「だからまあ」
ガドは肩を回す。
「安心して上がれるかなって」
“上がる”。
冒険者を辞めることを、この人はそう言った。
終わる、じゃなく。
⸻
次へ行く。
そういう響きだった。
ガドが立ち上がる。
傷んだ脚を庇うように。
それでも背中は大きい。
「お前、多分まだ強くなるぞ」
レオンは黙って聞く。
「でも、“強くなる”ってのはな」
ガドは笑った。
「別に、無茶することじゃねえからな」
夕陽が差す。
長い影。
レオンはその背中を見ながら思う。
冒険者には、色んな終わり方がある。
死ぬ者。
壊れる者。
消える者。
でもきっと。
こういう終わり方は、
悪くない。
「……今度、稽古つけてください」
するとガドは吹き出した。
「引退したオッサンを働かせる気か?」
「たまにでいいので」
「しゃーねえな」
笑い声が、静かな裏庭に響く。
その光景はどこか穏やかで。
少しだけ、
未来を感じさせる時間だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ガドはいいキャラクターになってくれたと思います。
引き際が美しいキャラは筆者の癖なので、この話結構気に入っています。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




