34:盾を置く日
本日もよろしくお願いします。
呼び出しがあった。
「ガドさんが?」
昼下がり。
ギルド受付でそう聞かされて、レオンは少し首を傾げた。
「はい。裏庭にいると思いますよ」
受付嬢が微笑む。
「……珍しいですね」
普段のガドは、ギルド酒場か依頼掲示板前にいることが多い。
裏庭。
そこは新人冒険者が訓練に使う場所だった。
⸻
レオンが向かうと――
「お、来たか」
木陰。
丸太椅子に腰掛けたガドが片手を上げた。
その隣には、大盾。
長年使い込まれた傷だらけの、
それでいて手入れの行き届いた、
彼の相棒。
「話って何ですか?」
レオンが近づく。
するとガドは少しだけ空を見上げた。
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「……俺、引退するわ」
⸻
レオンは目を瞬かせた。
「……急ですね」
「まあな」
ガドが笑う。
「でも、前から考えてた」
ガド・バレイン。
四十五歳。
冒険者としては、かなり年長だ。
もちろんガドよりも年上の冒険者もいる。
だが、前線職として長く戦い続けられる人間は少ない。
特に大盾使い。
“受ける”役割は、身体への負担が大きすぎる。
「最近、分かるんだよ」
ガドは自分の左脚を軽く叩いた。
「反応が遅ぇ」
「……」
「若い頃なら間に合ってた一歩が、間に合わねえ」
軽く言っている。
だが、それがどれだけ重い話かはレオンにも分かった。
「この前の町防衛戦見ててもな」
ガドは苦笑する。
「昔の俺なら、もっと前で踏ん張れてたって思っちまった」
町へ押し寄せた魔物の群れ。
あの時、ガドも最前線の一角に立っていた。
だが実際には、若い冒険者たちを支える側に回る場面の方が多かった。
「衰えってのは、ある日急に来るんじゃねえ」
「少しずつ、“できねえこと”が増えるんだ」
冒険者にとって、
“衰えを自覚する”のは酷く残酷だ。
それでもガドは、どこか吹っ切れた顔をしていた。
「で、完全に暇になるのも性に合わねえからな」
ガドは続ける。
「町の自警組織に入ることになった」
リスベルの衛兵隊は人数が少ない。
そのため、元冒険者中心の補助組織が存在する。
巡回や避難誘導、低級魔物対処など、正規衛兵の補佐役のような役回りだ。
「あと、ギルドでたまに実技教官もやる」
「教官、ですか」
「あんま似合わねえなって顔すんなよな」
ガドが笑う。
「体動かすことしか取り柄ねえからな、俺」
でも、レオンは思った。
多分この人は、“教える側”に向いている。
強さだけじゃない。
失敗も。
衰えも。
生き残る難しさも。
全部知っているから。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ガドは正ヒロインです()
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