30:最期の攻撃、そして帰還
本日もよろしくお願いします。
異常個体の黒狼が崩れ落ち、その少しあと。
砕けた“核”から、赤黒い魔力が噴き出した。
「下が――」
リオが叫ぶ。
だが、遅い。
⸻
轟ッ――!!
⸻
暴風、そして爆ぜるような衝撃波が周囲を薙ぎ払った。
木々が揺れる。
岩が砕ける。
レオンは咄嗟に杖を突き立てる。
妖精鳥を全開で展開。
「耐えてくださいッ!」
ダグラスが盾を地面へ押し込む。
弓手と回復術師が身を伏せる。
だが。
「リオ!!」
一番近くにいたリオが吹き飛ばされた。
岩へ激突。
鈍い音。
「っ……!」
レオンが駆け寄る。
腕が、不自然に曲がっていた。
さらに、全身に裂傷。
風圧に混じった魔力片で切り裂かれたのだ。
血が滲む。
「骨、いってるな……」
ダグラスが顔をしかめた。
リオは苦笑する。
「いやー……最後に派手なの残してたなあ。意地が悪い時間差攻撃だよ全く...」
「喋らないでください」
レオンが即座に治癒支援を飛ばす。
完全治癒は無理だが、痛みは多少抑えられる。
回復術師も治療へ入る。
「応急固定します」
折れた腕を固定。
止血。
裂傷処置。
⸻
一通り終わった頃には、全員疲労困憊だった。
「……しかし、これ」
弓手が黒狼の死体を見る。
「完全に任務内容超えてるだろ」
今回の依頼は本来、《山岳地帯調査・護衛任務》。
最近増えている魔物異常の調査、そして、その調査員たちの護衛。
二班編成だった。
レオンたち“調査班”は、
異常の痕跡確認と原因調査を担当し、
別動の“護衛班”は、
荷運びや研究員の護衛を主目的として動いていた。
異常個体と遭遇したのは、調査範囲を広げたレオンたち側だった。
「戦闘音、かなり響いてたよな……」
ダグラスの呟きに、リオが頷く。
「護衛班、危険判断して下がったかもな」
当然の判断だった。
このレベルの戦闘に巻き込まれれば、普通は壊滅する。
帰りにはかなり時間がかかった。
リオは歩ける状態ではないため、ダグラスとレオンで支えながら進む必要があった。
「悪いな」
リオが苦笑する。
「……いつも前走ってる人の台詞じゃないですね」
レオンが返す。
「はは、違いねえ」
全員疲弊していた。
軽口でも叩いていないとやっていられない。
レオンも魔力がかなり減っている。
それでも、誰も死ななかった。
それだけは確かだった。
⸻
町近くまで戻った時だった。
「――いた!!」
前方から声。
護衛班だった。
数名の調査員と、護衛担当の冒険者たち。
彼らは戦闘音を聞き、危険を察知して町側へ後退していた。
その顔が、凍る。
「お、おい……」
レオンたちの姿を見たからだ。
全員ボロボロ。
ダグラスの鎧は砕け、弓手は血塗れ。
レオンのローブも裂けている。
そして。
リオ。
Cランク昇格直後の実力者が、
腕を固定された状態で支えられていた。
「なにがあったんだよ……」
護衛班の一人が呟く。
誰もすぐには答えなかった。
代わりに、ダグラスが後ろを親指で指す。
「異常個体」
空気が変わる。
「……は?」
「しかも、かなりヤバいやつ」
調査員の顔色が青くなる。
「討伐、したんですか……?」
沈黙。
そして。
「まあな」
傷だらけのリオが得意げに笑う。
その瞬間、護衛班全員の視線が変わった。
驚愕。
困惑。
そして、
少しの恐怖。
“Cランクが重傷を負う相手”。
それを理解したからだ。
⸻
リスベルへ戻った頃には、すでに夕暮れだった。
門兵がレオンたちを見て目を見開く。
「医療班呼べ!」
ギルド内も騒然となる。
「リオがやられた!?」
「異常個体ってなんだ!?」
「生きて帰ってきたのか……!?」
怒号。
ざわめき。
レオンはそこで初めて、周囲の視線を感じた。
以前とは違う。
“ただのDランクを見る目”じゃない。
その時、担架へ移されながら、リオが笑う。
「……だから言ったろ」
「お前、伸びるって」
レオンは何も返せなかった。
ただ、ギルド奥に運び込まれる黒狼の死体を見つめる。
あれは、間違いなく異常だった。
そして。
あんなものが、魔境側から流れ始めている。
その事実が、
静かに現実味を帯び始めていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は少し文章量が長くなってしまいました。
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