25:異常個体
本日もよろしくお願いします。
山道を進みながら、レオン・アルバーンは周囲を見ていた。
静かすぎる。
風はある。
木々も揺れている。
だが、“生き物の気配”が薄い。
「……変だな」
前を歩く重戦士が呟いた。
Cランクパーティ《灰羽》の前衛。
名をダグラス。
「魔物が少なすぎる」
本来この辺りは、
低級魔物が頻繁に出る区域だ。
だが今日は違う。
「縄張り争いでもあったか?」
弓手が言う。
リオが首を振る。
「いや……」
その時だった。
「止まってください」
レオンが口を開く。
全員が足を止める。
少し先。
岩陰。
そこにあったのは――
“何かに引き裂かれた”魔物の死骸。
しかも、一体ではない。
「……なんだこれ」
ダグラスの顔が険しくなる。
傷跡が異常だった。
噛み跡。
爪痕。
だが、どれも深すぎる。
「大型個体……?」
回復術師が呟く。
レオンはしゃがみ込む。
(違う)
ただ強いだけじゃない。
“暴れている”。
周囲の木々まで抉れていた。
リオも表情を消していた。
「これ、報告にあった魔物じゃないな」
⸻
「なあ」
移動を再開した後、弓手の青年がレオンへ話しかけた。
「お前、まだDランクなんだっけ」
「……はい」
「意外だな」
悪意はない。
純粋な感想だった。
リオが笑う。
「まあ、レオンはちょっと特殊だから」
ダグラスが肩をすくめた。
「DとCの間って、かなり分厚い壁があるからな」
その言葉に、レオンは少しだけ視線を上げた。
⸻
冒険者ランク。
Fランク。
駆け出し。
武器の扱いを覚え、生き残る段階。
⸻
Eランク。
新人。
才能ある者なら、数ヶ月から半年でDへ上がる。
⸻
そしてDランク。
“中堅手前”。
ここで、多くの冒険者が止まり始める。
依頼難度が上がり、単純な実力だけでは通用しなくなる。
連携。
判断。
生存能力。
そういった“冒険者としての総合力”が問われる領域。
だが、本当に大きい壁はその先。
⸻
Cランク。
“一端の冒険者”。
ギルドから正式に、
“危険地帯を任せられる”と認められる層。
ここへ到達できる者は多くない。
そして――
ここが終着点になる者が最も多い。
ガドのように。
実力、経験、判断力。
全てを積み上げた先の到達点。
⸻
さらに上。
Bランク。
そこまで行けば、
もはや人間としての完成域に近い。
⸻
そしてAランク以上。
“人外”。
災害級魔物と単独で渡り合う化け物たち。
普通の冒険者が一生関わらない領域。
⸻
「C以上になるとさ」
リオが軽く言う。
「“生き残れるか”じゃなく、“状況変えられるか”が求められるんだよな」
レオンは、その言葉を静かに聞いていた。
⸻
さらに奥へ進む。
すると今度は、木々そのものが抉れていた。
まるで巨大な何かが突っ込んだみたいに。
「……おい」
ダグラスの声が低くなる。
その先。
巨大な足跡。
普通の狼型の倍以上。
しかも。
「魔力痕が濃すぎる……」
レオンが呟く。
空気が重い。
まるで、魔境近辺みたいに。
リオも真顔になる。
「これ、完全に異常個体だな」
⸻
異常個体。
通常種から逸脱した存在。
異常な魔力。
異常な身体能力。
時には、既存の生態を超える。
そして何より厄介なのが――
“予測できない”。
⸻
風が止む。
静寂。
その直後だった。
“来た”。
横。
岩壁。
轟音。
巨大な影が飛び出す。
「散開!」
リオが叫ぶ。
間一髪。
さっきまでいた場所が砕ける。
現れたのは――
漆黒の狼型。
だが普通じゃない。
大きい。
速い。
そして。
“目が赤い”。
異様な魔力が溢れていた。
⸻
「速っ――!」
弓手が叫ぶ。
次の瞬間。
狼が消える。
いや。
速すぎて見えない。
「リオ!」
レオンが叫ぶ。
金属音。
リオが剣で受けていた。
だが――
「っ……!」
吹き飛ばされる。
地面を滑る。
その腕から血が落ちた。
初めてだった。
リオが、真正面から押し負けた。
空気が凍る。
レオンは即座に理解する。
(まずい)
これは、
今までの相手とは違う。
そして同時に。
昇格試験で言われた言葉が蘇る。
⸻
“主軸になれていない”。
⸻
レオンは魔導書を開いた。
妖精鳥が、静かに舞い上がる。
戦場が、
再び動き始めようとしていた。
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