02:一羽から始まった
初作品です。
誤字脱字、矛盾などあるかもしれませんが、
生暖かい目で見ていただけますと幸いです。
ギルドの訓練場は昼でも人が少ない。
その隅で、レオン・アルバーンは一人、魔導書を開いていた。
「……もう一度」
小さく呟く。
手をかざし、魔力を練る。
だが――
何も起きない。
「……違う」
ページをめくる。
書き込みだらけの古い魔導書。
新品ではない。
元からあったものでもない。
彼が“受け継いだ”ものだった。
⸻
「またやってるのか」
声をかけてきたのは、ギルドの古参魔術師だった。
「召喚は向いてないって、何度も言っただろ」
レオンは顔を上げる。
「……まだ分からないので」
「分かるさ」
古参魔術師はあっさり言った。
「召喚は“呼べるかどうか”がすべてだ。才能の分野だよ」
厳しい言葉だった。
だが、どこか事実でもあった。
レオンは視線を落とす。
「……それでも」
言葉は続かない。
⸻
――5年前。
まだ何者でもなかった頃、
レオンはこのギルドの門を叩いた。
剣の腕は並以下。
魔力量は人並みより少し上程度ではあったが、
魔術の適性は中途半端。
何か一つ、秀でたものがあればよかった。
だが、なかった。
「……無理だろ」
当時、そう言われたことは一度ではない。
それでも、彼は残った。
理由は単純だった。
――やめる理由も、なかったから。
⸻
転機は、偶然だった。
倉庫の整理を手伝っていた時、埃をかぶった一冊の本を見つけた。
分厚く、古びた魔導書。
タイトルは擦れて読めない。
「それ、失敗作の本だぞ」
誰かが言った。
「召喚術の入門書らしいが、使えたやつがいない」
レオンは、その本を手に取った。
なぜか、少しだけ“引っかかる”ものがあった。
⸻
その日から、彼はそれを読み続けた。
内容は難解で、断片的で、不完全だった。
召喚式も歪で、効率が悪い。
“だから誰も使わなかった”。
それでも――
「……ここ、繋がる」
レオンは、少しずつ理解していった。
完璧な術式ではない。
だが、工夫すれば“使えるかもしれない”。
⸻
何度も失敗した。
何十回、何百回。
魔力は空回りし、何も起きない。
それでもやめなかった。
そしてある日――
「……来てくれ」
初めて、形になった。
小さな光。
かすかな羽音。
手のひらほどの、小さな存在。
「……」
それは、とても弱かった。
風が吹けば消えそうなほど。
戦力にはならない。
誰が見ても“失敗作”だった。
⸻
「……ありがとう」
それでもレオンは、そう言った。
その日からだった。
彼が召喚した存在に、必ず礼を言うようになったのは。
⸻
現在。
訓練場。
レオンは再び手をかざす。
「フェアリーバード」
光が、現れる。
一羽。
そして、少し遅れて――二羽目。
さらに時間差で、三羽目。
完全同時ではない。
効率も悪い。
だが確実に、“できている”。
⸻
「……遅いし、弱いし、不完全だ」
自分で分かっている。
理想の召喚士とは違う。
だが――
「その分、切らさなければいい」
彼はページに書き込む。
“同時展開:成功(遅延あり)”
“持続時間:改善の余地あり”
淡々と。
地道に。
⸻
その様子を、さっきの古参魔術師が遠くから見ていた。
「……あいつ、まだやってるのか」
呆れたように呟く。
だがその目は、少しだけ変わっていた。
「才能はない。だが――」
言葉は途中で止まる。
代わりに、ふっと笑った。
「……面倒なやつだな」
⸻
夕方。
レオンは魔導書を閉じる。
妖精鳥が肩に乗る。
最初に呼んだ“あの一羽”と、同じ種類。
だが、もう別物だった。
「……少しは、形になってきたか」
小さく呟く。
答えはない。
だが、確かな手応えはある。
⸻
ギルドに戻ると、数人の冒険者が彼を見ていた。
昨日とは少し違う視線。
「おい、あいつ……」
「例の支援のやつだろ?」
「なんか、変なことやってるらしいな」
評価はまだ曖昧だ。
⸻
レオンは気づかないふりをして、掲示板に向かう。
そして、いつも通り依頼を選ぶ。
派手ではないもの。
だが確実に積み重なるもの。
⸻
肩の妖精鳥が、小さく光る。
レオンはそれを一瞥し、静かに言った。
「……行こうか」
⸻
一羽から始まった力は、まだ小さい。
未完成で、不格好で、効率も悪い。
それでも――
確かに、誰かを支える力になり始めていた。




