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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
王都研究所編

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133/135

133:成長

本日もよろしくお願いします。

王都魔術研究院。


ヴァイスの研究室には、紙を捲る音だけが響いていた。


「――ですからですねェ」


ヴァイスは机いっぱいへ広げた資料を指差す。


「妖精鳥という召喚獣は、召喚士であれば一度は名前を聞く程度には有名なんですよォ」


レオンは頷いた。


「俺も最初に契約した召喚獣でした」


「ええ」


ヴァイスも頷く。


「契約難度は低い上に維持魔力も少ない。

支援能力も微々たるものですが、汎用性が高い」


「初心者向けとしては非常に優秀な召喚獣です」


紙へ簡単な鳥の絵を描く。


「ですが。」


ペン先が止まる。


「妖精鳥だけで戦う召喚士は、私は知りません。」


レオンは静かに聞いていた。


「大抵は、もっと大型の召喚獣や、攻撃能力に優れた召喚獣と契約します。」


「妖精鳥は?」


「保険ですねェ。」


即答だった。


「大型召喚獣で魔力を使い切った際の補助、あるいは、探索中の簡単な支援」


「その程度の運用が一般的と聞きます」


ヴァイスは笑う。


「妖精鳥だけでここまで戦ってきた召喚士という時点で、君はかなり珍しい存在なんですよォ」


レオンは苦笑した。


「好きでそうなった訳じゃないんですけどね」


「ええ」


ヴァイスは当然のように頷く。


「契約できなかったのですから」


静寂。


やがてヴァイスは新しい紙を取り出した。


「では次です」


今度は円を描く。


そこから一本の線を伸ばす。


「召喚士が魔力を使う場面というのは、実は極めて少ない」


「契約時」


一本線を引く。


「そして召喚・顕現時」


もう一本線を引く。


「基本的にはこの二つだけです」


レオンが首を傾げる。


「維持は?」


「最低限ですよォ」


ヴァイスは答えた。


「召喚時にまとめて魔力を与え、その魔力を召喚獣が消費しながら活動し、無くなれば帰る」


「戦闘中ずっと魔力を送り続けることも不可能ではありませんが...」


肩を竦める。


「効率が悪過ぎる」


手を交差させながら続ける。


「召喚士自身が先に倒れますから、普通はやりません」


レオンは小さく息を呑む。


「……俺は、やっていました」


ヴァイスが即答する。


「それも日常的に」


餌を与えるように。


休憩中

歩きながら

暇さえあれば


「妖精鳥へ魔力を流していた」


レオンは少し照れ臭そうに笑った。


「当たり前だと思ってました」


「ええ」


ヴァイスも笑う。


「そこが一番おかしいんですよォ」


研究室へ静かな笑いが漏れた。


ヴァイスは机へ肘を付き、少しだけ真面目な顔になる。


「他の召喚士にも聞きました」


紙の束を振りながら続ける。


「妖精鳥について、返ってきた答えは全員ほぼ同じです」


紙へ三つほど丸を書く。


「命令を聞く。」


「補助する。」


「魔力が尽きたら帰る。」


レオンは思わず妖精鳥を見る。


肩へ止まっていた妖精鳥も、不思議そうに首を傾げていた。


「……うちのとは全然違いますね」


「ですねェ」


ヴァイスも妖精鳥を見る。


「君の妖精鳥には意思があります。」


「呼べば反応するし、君を見て鳴く。どうやら機嫌まであるようですねェ」


「そして」


魔眼が細くなる。


「君を心配しているようにも見える」


レオンは思い返す。


初めて契約した日。


あの頃は。


ここまで感情豊かではなかった気がする。


「最初は……」


レオンがゆっくり言う。


「もっと命令を聞くだけだったと思います」


ヴァイスは面白そうに頷いた。


「ほう?」


紙へ小さな鳥を描く。


その横へ、少し大きな鳥。


さらに今の妖精鳥。


三段階。


「魔獣は成長します。」


「長く生き、魔力を蓄え、より大きく」


「そして、より強く。」


「もちろん召喚獣とは別の存在です」


「ですが」


ペン先が止まる。


「君の妖精鳥は、長年、君から魔力を受け取り続けた」


「そして、骨鳥との戦いを境に、一回り成長した」


「今も、その姿のままです」


レオンは肩の妖精鳥を見る。


確かに。


以前より大きい。


羽艶も違う。


存在感そのものが増している。


「私は。」


ヴァイスが静かに言う。


「妖精鳥自身も成長したと考えています。」


静寂が流れた。


レオンはしばらく妖精鳥を見つめていた。


そして、小さく呟く。


「……ありがとう。」


ピィ。


妖精鳥が短く鳴いた。


まるで返事をするように。


その様子を見て、ヴァイスは小さく笑った。


「君達は、普通の召喚士と召喚獣ではありません」


「長年かけて、共生関係を築いた」


「家族のような関係になったとでも言うべきでしょうかねぇ」


レオンは妖精鳥を見る。


妖精鳥も首を傾げる。


ヴァイスはその様子を見ながら、小さく笑った。


「実はですねェ」


「私は最初、妖精鳥が君の魔力を欲しているだけだと思っていたんですよ」


「ですが違った」


「骨鳥との戦いを見て、考えを改めました」


レオンが首を傾げる。


「何が違ったんですか?」


「君が倒れかけた時です」


ヴァイスは即答した。


「あの時、妖精鳥は魔力を欲しがっていませんでした」


静寂。


「むしろ逆です」


「君を守ろうとしていた」


「君がゼインさんへ支援を飛ばした瞬間」


「妖精鳥は、自ら魔力の流れを繋いだように私には見えました」


レオンは息を呑む。


ヴァイスは続ける。


「もし妖精鳥が本能だけで動く召喚獣なら」


「契約者が弱れば、自分も消える」


「それだけです」


「ですが」


「君の妖精鳥は違った」


「君を生かす事を優先した」


「だから私は、家族という表現を使いました」


「単純な利害関係では説明が付かないんですよォ」


レオンは何も言えなかった。


肩へ止まる妖精鳥が、小さく頬へ擦り寄ってくる。


その温もりは、以前よりも少しだけ強く感じた。


レオンは改めて気になっていた事を口にする。


「……俺、異常個体みたいになったりしませんか」


研究室が静かになった。


ヴァイスは少しだけ考える。


「可能性だけで言えば、ゼロとは言えません。」


レオンの表情が固まる。


だがヴァイスはすぐに続けた。


「ただし。異常個体になる、と断定もできません」


「魔力は人体へ影響します。」


「瞳の色や髪の色」


「魔眼や特殊な感覚、魔術適性。」


「人は長い年月を掛けて、少しずつ魔力の影響を受けています」


「それ自体は珍しい事ではありません」


ヴァイスは自分の魔眼を指差す。


「私もそうです。」


そして。


「ゼインさんは魔力の流れを感覚的に把握していましたねェ」


レオンは静かに頷いた。


「あれも一種の変質です」


「良い方向への変化か、悪い方向への変化か」


「その違いしかありません」


少し間を置いて。


ヴァイスは本棚から一冊の古びた資料を取り出した。


羊皮紙は黄ばんでいる。


「ですが、過去には」


「魔力の影響を受け過ぎたと思われる人間の記録も残っています」


レオンが息を呑む。


「人間の……?」


「ええ」


ヴァイスはページをめくる。


「記録は極めて少ない上に、曖昧です」


「魔力暴走だったのか、病だったのか」


「異常個体と同種の現象だったのか」


「誰にも分かりません」


本を閉じる。


「ですから私は断言しません」


「...ですが」


魔眼が真っ直ぐレオンを見る。


「君のような症例を直接見るのは初めてです」


「だから知りたい」


「これから君がどう変化していくのか」


研究者としての好奇心だった。


だが、その目には打算だけではない色も宿っていた。


レオンは妖精鳥を見た。


妖精鳥もまた、レオンを見返していた。


「……よろしくな」


小さく笑う。


妖精鳥は嬉しそうに羽を震わせた。


その姿を見て、ヴァイスは静かに呟く。


「君達は、どこまで成長するのでしょうねェ……」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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