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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
王都研究所編

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132/138

132:停滞する魔力

本日もよろしくお願いします。


ようやく実生活のゴタゴタがマシになってきました。

王都魔術研究院。


その一角にある研究棟へ足を踏み入れた瞬間、レオンは少しだけ後悔した。


薬品の匂い。

古い紙の匂い。


そして、見たくない物の数々。

廊下の両脇には標本が並んでいた。

魔獣の骨に異形化した臓器。

瓶詰めにされた何か。


どれも見ない方が精神衛生上良さそうだった。


「……来るんじゃなかったかも」


ピィッ、と同感だとでも言うように妖精鳥が鳴く。


その時、奥の部屋から声が飛んできた。


「聞こえてますよォ」


ヴァイスだった。


「失礼ですねェ」



研究室へ入る。

酷い有様だった。


机の上には書類の山。

骨鳥の骨。

瓶詰めの触手。

意味の分からない器具。


辛うじて空いている部屋の一角に置かれた椅子へ座らされる。


そして、そこから一時間以上が経った。


レオンは少し後悔していた。


「――ですので、異常個体における魔力循環というものは非常に興味深いんですよォ」


ヴァイスは止まらない。

紙を広げ、図を書く。

また説明する。


骨鳥に四つ腕。

そして過去の異常個体の数々。


気付けば話は延々と続いていた。


「……はい」


レオンはとりあえず頷く。

半分も理解できていない。


ヴァイスは満足そうだった。


「よろしい」


全くよろしくないと思いながらも、反論する気力すら奪われていた。



「さて、そろそろレオンくんが飽きてきたようですし、本題へと入りましょうかねェ」


ヴァイスが椅子へ深く腰掛ける。


紫色の魔眼がレオンを見る。


「以前お話しましたねェ」


レオンは頷いた。


「俺の魔力が異常個体に似ているって話ですよね」


「そうです」


ヴァイスが指を鳴らす。


「正確には、似ている部分がある、ですがねェ」


紙へ人体図を書く。

その中へ線を引く。


「まず前提として、健康な人間の魔力は血液と似たようなもので、常に流れています」


一本の線。


淀みなく流れる。


「停滞しないし、滞留しない」


一瞬ヴァイスの魔眼がレオンの心臓あたりに向く。


「それが正常です」


そして、別の線を書く。


途中で膨らむ。

流れが止まる。

そして、再び流れる。


「ですが」


ヴァイスの指が止まる。


「君は違う」


「時々、止まって、溜まるんですよォ」


レオンが眉を顰める。


「自覚はありません」


「でしょうねェ」


ヴァイスは即答した。


「私の魔眼だから見える事です」


ペン先が図をなぞる。


「流れる、止まる、流れる、止まる、そしてまた流れる」


何度も繰り返す。


「君の魔力は、そういう動きをしています」



「異常個体も似ています」


静かな声だった。


研究室の空気が少し重くなる。


「停滞した魔力は淀みます」


ヴァイスは紙にぐちゃぐちゃと線が絡み合うような、無法則の絵を描く。


「濃縮され、圧縮されます」


「そして暴れ始める」


骨鳥の骨を持ち上げる。


「異形化に異常再生、そして暴走」


「程度の差はありますが、本質は同じです」


レオンは骨鳥を思い出す。


あの触手。

あの再生。

あの異形。


「じゃあ俺も……」


思わず口を開く。


ヴァイスは首を横へ振った。


「恐らく違います」



「何故なら」


ヴァイスが新しい図を書く。


停滞した場所。


そこから外へ伸びる線。


「君は流している」


レオンが首を傾げる。


「何をです?」


「魔力を、ですよォ」


当然のように答えた。


「妖精鳥へ」


静寂。


レオンは目を瞬かせる。


「妖精鳥へ?」


「ええ」


ヴァイスが頷く。


「君、昔からやっているでしょう?普段から魔力を与える行為を」


レオンは少し考える。

そして頷いた。


当たり前の事だった。


暇な時。

休憩中。

寝る前。


何となく。


餌をやるかの如く、妖精鳥へ魔力を流していた。



「普通はやりません」


ヴァイスが言った。


レオンが固まる。


「……え?」


「やりません」


即答だった。


「召喚獣との契約維持に必要な魔力や、呼び出す際の顕現に使用する魔力はあります」


「ですがレオンくんのように頻繁に、餌やりみたいな真似はしません」


「少なくとも私は聞いた事がありませんねェ」


レオンは言葉を失う。


ずっと当たり前だと思っていた。



「最初は妖精鳥の特性かと思いました」


ヴァイスが続ける。


「ですが違う」


魔眼が細まる。


「骨鳥戦で確信しました」


そして、机へ指を置く。


「君の妖精鳥は」


一拍。


「君の停滞魔力を喰っていたんですよ」


研究室が静まり返る。



「だから君は異常個体にならなかった」


「だから停滞が解消されていた」


「だから、生きていた」


「少なくとも、今までは」


レオンは言葉を失う。


頭の中で過去が繋がる。


誰とも契約出来なかったのに、妖精鳥だけは契約出来た。


そしてそいつは、ずっと魔力を欲しがった。


そして、骨鳥戦で突然変化した。



「じゃあ……」


レオンがゆっくり口を開く。


「今なら他の召喚獣とも契約出来るんですか?」


少しだけ期待していた。

ヴァイスは数秒考える。


そして。


「恐らく無理でしょうねェ」


あっさり言った。



「無理なんですか」


「ええ」


紙へ図を書く。


複数の線。


そして。


一本だけ極端に太い線。


「通常の召喚師は初めに複数の経路を作ります」


「ですが君は違う」


太い線を指差す。


「最初から今の今まで、妖精鳥だけです」



「長年かけて最適化されてしまった」


ヴァイスの声は静かだった。


「君の魔力回路は、妖精鳥へ魔力を流す事を前提に構築されている」


太い線から矢印を鳥の絵に向けて描く。


「今から他の召喚獣との経路を作るのは非常に難しいでしょう」


レオンは苦笑した。


少しだけ期待していた。


だが不思議と落胆は無かった。



「ですが」


ヴァイスが言う。


「代わりに、私は非常に興味深いものを見ました」


魔眼が細くなる。


「骨鳥戦の最後です」



「レオンくんは言っていましたよねェ?」


ヴァイスは矢印を書いた線をさらに太く肉付けしていく。


「一気に魔力が吸い取られていくようだ、と」


レオンが息を呑む。


「あの時、君から妖精鳥へ。そして妖精鳥からゼインへ」


指が図をなぞる。


「魔力が流れた」


「それまで停滞していた魔力が、一切滞ることなく、です」



ヴァイスが新しい線を引く。


真っ直ぐ。


鋭く。


勢いよく。


「速かった!強かった!!」


手を止め、レオンを見据えて言い放った。


「そして、何より美しかった!!!」


レオンが苦笑する。


「そこまでですか」


「そこまでです」


ヴァイスは満面の笑みだった。



「私は当初、骨鳥との共鳴が原因だと思っていました」


「勿論それもきっかけの一つだとは思います」


魔眼がレオンを見る。


そして。


静かに告げた。


「君と妖精鳥は」


一拍。


「ようやく本当の意味で契約したのかもしれませんねェ」


レオンは言葉を失った。


それは、今までの常識を覆す話だった。


そして、この日、ヴァイスが語った仮説はまだ終わらない。


妖精鳥とは何なのか。


何故レオンを選んだのか。


その話は、さらにレオンの予想を超えるものだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

新章開幕ですね。

続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。

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