128:ギルドへの道
本日もよろしくお願いします。
王都の門を潜った瞬間、レオンはようやく肩の力を抜いた。
石畳。
行き交う人々。
露店の呼び込み。
日常の景色。
数日ぶりのはずなのに、随分長く離れていたような気がする。
「帰ってきたなぁ……」
思わず漏れた言葉だった。
「そうねぇ」
シエラも同意する。
だが次の瞬間、両肩へ痛みが走ったらしい。
「痛っ」
「大丈夫か?」
カイルが苦笑する。
「大丈夫じゃない」
即答だった。
「帰ったら最低でも三日は寝る」
「この前の時も聞いたぞ」
「今回は本気よ」
そんなやり取りを聞きながら、ゼインが鼻を鳴らす。
「まずはギルドだ」
戦斧を肩へ担ぐ。
「報告終わるまで終わりじゃねぇ」
「鬼か」
シエラが即座に返した。
⸻
その後ろで、ヴァイスだけは全く別の意味で落ち着きが無かった。
「早く研究室へ持ち込みたいですねぇ」
荷車を見る。
「まず触手組織を分解して〜魔力循環経路を解析して〜再生機構の検証も必要ですねぇ......あと異形化前後の組織比較も――」
誰も聞いていない。
聞いていないが、ヴァイスは止まらない。
「特にあの個体は素晴らしい」
目が輝いていた。
「魔石を半壊させても活動を継続したんですよ?普通なら有り得ません。実に興味深い!最高ですねぇ!!」
「うるせぇ」
ゼインが即座に切り捨てた。
ヴァイスは不満そうだった。
⸻
王都中央区へ近付くにつれ、人通りが増えていく。
当然、黒狼の牙へ気付く者もいた。
「あれ、黒狼の牙じゃないか?」
「本当だ」
「戻ってきたのか」
「シエラさん、ボロボロじゃねぇか?」
視線が集まる。
そして、荷車へも。
「なんだあれ」
「魔獣素材か?」
「でかいな……」
ざわめきが広がる。
骨鳥の下半身。
異形の骨。
大量の遺品。
目立たない訳がない。
レオンは少しだけ居心地の悪さを感じた。
だが、ゼイン達は気にしていない。
慣れているのだろう。
堂々と歩いている。
⸻
「レオン君」
不意に声を掛けられた。
ヴァイスだった。
珍しく興奮を抑えた声だった。
「はい?」
レオンが振り向く。
ヴァイスは少しだけ考えるような顔をする。
その後。
「後日、少し時間を頂けませんか?」
レオンが首を傾げる。
「俺ですか?」
「君です」
即答だった。
魔眼が細くなる。
「骨鳥も非常に興味深い存在でした」
「ですが」
そこで一度言葉を切る。
そして。
「私は君に対しても非常に興味があります」
異常個体の素材を眺めている時のような目に、レオンが固まった。
なんだか言い方が怖い。
シエラが吹き出す。
「言い方」
「私にその気はありませんよォ」
ヴァイスは不満そうだった。
「真面目な話です」
そして再びレオンを見る。
「召喚獣との繋がり」
レオンは背筋を伸ばした。
「骨鳥との共鳴や、魔力経路の変化、そして急激な活性化」
紫色の魔眼が細まる。
「あくまで仮説ですが、君の身に起きた変化について、少し見えてきた物があります」
レオンの表情が変わる。
「本当ですか?」
「ええ」
ヴァイスが頷く。
「まだ確証はありません。ですが調べる価値は大いにある」
ヴァイスはレオンの反応を伺うように問いかける。
「君自身も、気になっているでしょう?」
それは否定出来なかった。
骨鳥との戦いで起きた変化。
妖精鳥との繋がり。
以前とは明らかに違う感覚。
理由が分かるなら知りたい。
そう思う自分がいる。
「まぁ」
その時。
ゼインが横から口を挟んだ。
「気になるなら聞いてみりゃいい」
戦斧を肩へ担ぐ。
「お前の事だ」
それだけだった。
止めもしない。
勧めもしない。
ただ選択を委ねる。
レオンは少しだけ笑った。
「そうですね」
その時だった。
「ただし」
シエラが割り込む。
「研究室に閉じ込められそうになったら逃げなさいよ」
「失礼ですねぇ」
ヴァイスが抗議する。
「失礼じゃないわ」
即答だった。
カイルが吹き出す。
「それは俺も思う」
マークも苦笑した。
「否定し切れないのが問題ですね」
ドルガは何も言わない。
だが、小さく頷いていた。
ヴァイスだけが不満そうだった。
「皆さん、私を何だと思っているんですかねぇ……」
誰も答えなかった。
⸻
やがて、巨大な建物が見えてくる。
冒険者ギルド王都本部。
リスベルのギルドの3倍以上の大きさはある。
ゼインが歩みを止めた。
「さて」
口元が歪む。
「面倒な時間だ」
カイルが露骨に嫌そうな顔をした。
「報告かぁ……」
シエラもため息を吐く。
「絶対長くなるわよね」
マークは苦笑。
ドルガは無言。
そして、ヴァイスだけが笑った。
「楽しみですねぇ」
その笑顔を見て、レオンは何となく確信する。
恐らく、本当に面倒な事になる。
骨鳥との戦いは終わった。
だが。
骨鳥が残したものは、まだ終わっていなかった。
一行は冒険者ギルドの扉を押し開けた。
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