126:価値観
本日もよろしくお願いします。
つい先程まで死闘が繰り広げられていた森とは思えないほどの静寂に包まれている。
骨鳥が逃げ去った方向を見つめながら、誰もすぐには動かなかった。
ジャラジャラと鳴り続けていた不快な金属音も、もう聞こえない。
残されたのは。
巨大な下半身。
焼け焦げた肉。
蠢く異形の組織。
そして、辺り一面へ散らばった無数の遺品だった。
「……生きて帰れたな」
カイルが空を見上げながら呟く。
シエラも木へ寄りかかりながら息を吐いた。
「本当にね……」
両肩を負傷し、血を流しすぎている。
それでも生きている。
それだけで十分だった。
だが、その空気をぶち壊した男がいた。
「全て、回収しますよォ!!!!」
ヴァイスだった。
血塗れのまま、満面の笑みで、
目の前の骨鳥の残骸へ駆け寄っていく。
「触手組織!!異常増殖骨格!!焼損部位!!魔力循環経路!!実に素晴らしい!!!」
シエラが露骨に嫌そうな顔をする。
「うわ……」
カイルも引いていた。
「元気だなコイツ……」
ヴァイスは聞いていない。
既に解体を始めようとしていた。
その瞬間だった。
「待て」
低い声。
ゼインだった。
ヴァイスが手を止めて、振り返る。
ゼインは散乱した地面を見ていた。
武器。
指輪。
鎧の欠片。
冒険者証。
骨鳥が喰らった者達の遺品。
その全てを。
「先にこっちだ」
静かな声だった。
だが有無を言わせない響きがある。
ヴァイスが眉を顰めた。
「何故です?」
即答だった。
「こちらの方が遥かに価値がある」
骨鳥の残骸を指差す。
「こんな異常個体のサンプルなど二度と手に入りませんよ?遺品など後で良いでしょう」
空気が冷えた。
シエラの目が細くなる。
カイルが眉を顰める。
ドルガは無言。
マークは静かに目を伏せた。
ゼインが一歩前へ出る。
「違ぇな」
短い言葉に、ヴァイスが首を傾げた。
「何がです?」
「全部だ」
即答だった。
ゼインは地面へ落ちていた冒険者証を拾い上げる。
泥だらけだった。
傷だらけだった。
だが、名前は読めた。
誰かが生きていた証だった。
「こいつらは素材じゃねぇ」
ヴァイスは黙る。
ゼインは続ける。
「骨鳥が喰った奴らだ」
静かな声。
「家族が居る奴もいる、仲間が居る奴もいる、帰りを待ってる奴もいる」
冒険者証を握る手へ力が入る。
「だから全て持ち帰る」
ヴァイスは数秒黙った。
そして。
「理解は出来ます」
そう言った。
だが。
次の言葉は変わらない。
「しかし優先順位が違う」
紫色の魔眼が光る。
「この骨鳥は冒険者史へ残る発見ですよ」
「失われれば二度と調べられない」
「遺品は替えが利きます」
その瞬間だった。
ドゴン。
鈍い音が響いた。
ドルガがスレッジハンマーを地面へ置いた音だった。
ヴァイスが視線を向ける。
ドルガは言う。
「利かん」
低い声。
それだけだった。
だが重い。
シエラも鼻を鳴らす。
「ドルガと同意見」
カイルも頷く。
「流石にそれはねぇわ」
マークも静かに口を開く。
「ヴァイスさん、今回ばかりは私も同意出来ません」
ヴァイスが目を瞬かせる。
一人、また一人。
全員が反対側へ立っていた。
その事実へようやく気付く。
「……ほぉ」
少しだけ不満そうだった。
だが。
ゼインが最後に言った。
「素材も持って帰る」
ヴァイスが顔を上げる。
「ただし」
ゼインは周囲へ散らばった遺品を見る。
「先に遺品だ」
静寂。
数秒後。
ヴァイスは深く溜息を吐いた。
「……分かりましたよォ」
不満そうだった。
本当に不満そうだった。
だが折れた。
「全く」
肩を竦める。
「冒険者という生き物は合理性に欠けますねぇ」
その瞬間、シエラが笑った。
「そういう生き物なのよ」
カイルも肩を竦める。
「だから冒険者なんだろ」
ゼインは何も言わない。
ただ、再び地面へ落ちていた冒険者証を拾い始めた。
レオンもしゃがみ込む。
指輪を拾う。
壊れた短剣を拾う。
誰かの痕跡を拾う。
その横で、ヴァイスも結局は手伝い始めていた。
「まぁ、この遺品もサンプルといえばサンプルですからね......」
自身を無理矢理納得させるように、文句を言いながら。
実に不満そうに。
それでも。
誰よりも丁寧に。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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