125:狩る者、狩られる者
本日もよろしくお願いします。
骨鳥の眼孔が、初めて恐怖を宿した。
ゼインはそれを見た。
そして笑う。
獰猛に、狼のように。
「......怖いか?」
低い声。
振りかぶった戦斧へ、自身の魔力に加え、赤い妖精鳥の魔力も共に流れ込む。
体内を巡る魔力は未だ暴走するような勢いだった。
心臓が脈打つ。
筋肉が軋む。
雷鉄鉱が吼える。
バチバチと激しい放電が戦斧を包んだ。
「......そら、いくぞ?」
その言葉を理解したのか、骨鳥が後退る。
初めてだった。
あの異形が、戦略からでは無く、恐怖で距離を取ろうとしている。
「逃す訳がねぇだろ」
轟ッ!!
ゼインが迫る。
骨鳥も反射的に飛び退こうとした。
その瞬間だった。
地面が崩れる。
ズブリ。
骨鳥の脚が沈んだ。
泥。
「今です!!」
マークが骨鳥の逃げ道を塞ぐように、泥沼を設置していた。
泥沼に足を取られた骨鳥が、無理矢理飛び上がろうとする。
だが、遅い。
恐怖が判断を鈍らせていた。
今までの骨鳥なら間違いなく避けられていただろう。
ギィィィッ!!
骨鳥が暴れる。
骨片。
金属片。
遺品。
ありったけを撒き散らす。
だが狙いが定まらない。
指輪が飛ぶ。
剣の破片が飛ぶ。
骨槍が飛ぶ。
その全てがバラバラだった。
ドルガがハンマーを振るう。
カイルが槍で叩き落とす。
マークの土壁が防ぐ。
誰一人として崩れない。
骨鳥だけが、完全に崩れていた。
「終わりだ」
ゼインが言う。
静かな声だった。
怒鳴りもしない。
ただ、確信していた。
「敵討ちってわけじゃねぇ」
戦斧を構える。
骨鳥の胸。
そこだけを見据えて。
「柄じゃねぇしな」
踏み込む。
「だが、お前は」
さらに加速する。
「ここで」
雷光が爆ぜる。
「殺す」
轟ッ!!!!
戦斧が振り抜かれた。
雷鉄鉱が吼える。
放電。
閃光。
雷光が骨鳥の胸を抉り取る。
露出した肉が焼ける。
黒い触手が弾け飛ぶ。
再生が、止まる。
骨鳥が絶叫した。
ギィィィィィィィィィィッ!!!!
遅い。
もう遅い。
ゼインの刃が届く。
胸。
左側。
ヴァイスが示した場所。
魔力の源。
その一点へ、戦斧が叩き込まれた。
そして、骨鳥が両断された。
胸から斜めに。
肩口から腹部まで。
骨。
肉。
触手。
遺品。
全てをまとめて切り裂きながら。
巨大な身体が二つに割れる。
轟音と共に地面へ落下した。
静寂の中、荒い呼吸だけが響く。
ゼインが戦斧を肩へ担ぐ。
「終わったか」
シエラが息を吐く。
「今度こそね……」
ドルガもハンマーを下ろした。
カイルがその場へ座り込む。
レオンも息を吐いた。
勝った。
そう思った、次の瞬間だった。
ギチッ
嫌な音が鳴る。
誰も反応出来なかった。
ギチ
ギチギチギチギチ――
ヴァイスだけが目を見開く。
「……は?」
上半身だった。
胸から上。
骨鳥の頭部側。
そこだけが動いている。
裂かれた断面から、
肉を食い破るかのように黒い触手が溢れ出す。
狂ったように。
無秩序に。
だが必死に。
まるで生き延びようとするかのように。
「おいおいマジか……」
カイルの声が引き攣る。
魔力の源は両断された。
心臓も半ば吹き飛んでいる。
なのに、死なない。
骨鳥の眼孔が動く。
ゼインを見る。
レオンを見る。
そして、逃げる。
ギシャァァァァッ!!!
絶叫と共に。
両断された下半身を捨て、触手だけで森の奥へ飛び込んだ。
速い。
異常な速度だった。
「おい待て!!」
ゼインが追おうとする。
だが、間に合わない。
木々の奥へ。
闇の中へ。
骨鳥の姿が消える。
切り裂かれた巨大な下半身。
散乱した遺品。
焼け焦げた肉。
そして、未だ微かに脈動する異形の組織。
それだけを残して。
静寂。
数秒後。
ヴァイスが震え始めた。
「ハ……」
誰も見ていない。
だが、彼は笑っていた。
「ハハ……」
肩を震わせる。
魔眼は残された異形へ釘付けだった。
「素晴らしい……」
歓喜。
狂気。
研究者としての本能からか、その全てが滲み出る。
「過剰再生を繰り返す異常個体、いや、特異個体の組織ですよォ!!!!」
森へ絶叫が響いた。
ゼインが顔を顰める。
シエラは頭を抱える。
カイルは呆れたように空を見上げた。
レオンは深く息を吐く。
討伐は失敗した。
だが。
勝った。
少なくとも。
狩られる側では、もうなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




