121:魔力の源
本日もよろしくお願いします。
ジャラ……
森の奥から、骨鳥がゆっくりと距離を詰めてくる。
黒い眼孔は、
一瞬たりともレオンから離れない。
「来るわよ」
シエラが低く言う。
木へ背を預けながら、片腕で双剣を構えていた。
左肩は使えない。
だが。
目は死んでいない。
「上。右。いや……正面ね」
骨鳥の移動を追う。
レオンも頷く。
四羽目を出す余裕は無い。
だからこそ、今はシエラの観察力が頼りだった。
「マークさん」
「ええ」
短い返事。
次の瞬間。
地面へ魔法陣が浮かぶ。
水と土。
二つの属性が重なる。
森の地面が軋み、泥沼と化す。
骨鳥が降り立ちそうな場所へ、
次々と設置されていく。
「足を止めます」
マークが静かに言う。
さらに、空を見上げた。
魔力が流れる。
雲。
いや、水蒸気が集まり始める。
数秒後、雨が降った。
本物ではない。
魔術で生み出された擬似降雨。
細かな水滴が森へ降り注ぐ。
ゼインが眉を上げる。
「助かる」
短い言葉。
雷鉄鉱の戦斧へ、水滴が付着する。
微かな放電。
空気が震えた。
「少しでも通しやすくしたいので」
マークが答える。
「存分に暴れて下さい」
ゼインが笑った。
「任せろ」
⸻
ジャラァッ!!
骨鳥が動く。
骨片。
金属片。
遺品。
無数の飛来物が降り注ぐ。
ドルガが前へ出た。
盾。
轟音。
飛来物が弾け飛ぶ。
カイルも動く。
落ちていた骨槍を拾う。
投擲。
骨鳥が回避。
その間にゼインが踏み込む。
轟ッ!!
戦斧。
骨鳥が後退する。
だが。
決定打にはならない。
まだ遠い。
あと一歩。
届かない。
⸻
その後方。
ヴァイスの魔眼だけが、
戦場の別のものを見ていた。
骨鳥の身体。
その内側。
流れる魔力。
紫色の魔眼が細まる。
「……酷いですねぇ」
低い呟き。
魔力が荒れ狂っていた。
濁流。
嵐。
渦。
本来なら決まった流れがあるはずの魔力が、
骨鳥の体内では無秩序に暴れている。
まるで、肉体そのものが崩壊し続けいるようだった。
「見えるんですか」
レオンが聞くと、ヴァイスは頷いた。
「見えます」
魔眼は骨鳥を捉え続ける。
「ですが、酷過ぎる」
苦笑した。
「君達が持ち帰ってきたあの腕よりも遥かに酷い」
「魔石の位置すら曖昧です」
魔力が荒れ過ぎている。
どこが核なのかすら、判別が難しい。
だから、探るしかない。
⸻
ヴァイスの足元から闇が伸びた。
闇魔術特有の黒い霧が、黒い鎖に繋がれた漆黒の杭を形作っている。
四つ腕の腕を解析して作り上げた術式。
魔力循環阻害。
異形化そのものを鈍らせる為の魔術だった。
「試して、みますかねぇ」
そう言って、ヴァイスが前へ出た。
レオンが目を見開く。
「ヴァイスさん!?」
「大丈夫ですよ」
笑う。
嫌な笑みだった。
「少し命を捨ててくるだけですから」
そして。
走った。
研究者とは思えない速度だった。
⸻
ゼイン達へ攻撃を繰り出している中、
側面から近づくヴァイスに骨鳥が気付く。
黒い眼孔がヴァイスを見る。
カイルの横薙ぎの一撃が入り、一瞬だけ判断が遅れた。
その刹那、ヴァイスの手が前へ出る。
「捕まえました」
闇が放たれる。
漆黒の杭が一直線に飛ぶ。
骨鳥の胴体へ突き刺さった。
その瞬間、ヴァイスは握っていた鎖にありったけの魔力を一気に流し込んだ。
ギィィィィィッ!!
骨鳥が絶叫する。
明確な苦痛。
黒い触手が暴れ、異形化が乱れる。
骨と肉の接続が揺らぐ。
効いている。
確実に。
「やはり、効きますかァ!!」
ヴァイスが笑う。
歓喜していた。
だが。
次の瞬間、骨鳥の首が捻れる。
黒い眼孔。
ヴァイスを見る。
今度は完全に。
敵として、認識した。
「おや」
ヴァイスの笑みが僅かに引き攣る。
骨鳥の身体がブレた。
速い。
「ヴァイス!!」
ゼインが叫ぶ。
だが、間に合わない。
骨の翼と、そこに形作られた異形の槍。
それが横薙ぎに振り抜かれる。
ヴァイスの身体が吹き飛んだ。
木へ激突する。
嫌な音が響いた。
「がっ……!!」
血。
白衣が赤く染まる。
レオンの顔色が変わる。
だが、ヴァイスは倒れなかった。
血を吐きながら。
魔眼だけは骨鳥を追い続けていた。
そして、叫ぶ。
「見えましたァ!!」
紫色の魔眼が輝く。
「心臓ォ!!」
骨鳥の胸を見る。
そこだけ魔力の流れが違う。
濁流の中心。
全てが集まり、全てが流れ出している場所。
「左胸の、奥だァ!!」
血を吐きながら叫ぶ。
「ゴフッ......魔力のォ......源ォ!!」
⸻
ゼインの目が細まる。
骨鳥も理解した。
その瞬間。
異形が明確に胸部を庇う。
翼。
骨。
触手。
全てが胸の前へ集まり始める。
「……そういう事か」
ゼインが戦斧を握る。
笑う。
獰猛に。
「分かりやすくて助かるな」
⸻
その後方。
レオンは妖精鳥を飛ばしていた。
ドルガへ。
カイルへ。
支援。
補助。
戦線を維持する。
だが、違和感が消えない。
魔力が流れる。
いや、流される。
妖精鳥が、勝手に持っていく。
「ッ……」
頭が痛い。
魔力の消耗もある。
しかし、それ以上に、制御が問題だった。
太くなった繋がり。
強過ぎる流れ。
まだ扱い切れていない。
それでも。
止められない。
止まれば。
誰かが死ぬ。
⸻
シエラが低く言う。
「上よ」
レオンが視線を向ける。
「次は左」
位置を共有する。
骨鳥。
仲間。
距離。
地形。
全てを頭へ叩き込む。
戦場を把握する。
繋ぐ。
それが自分の役割だ。
⸻
ジャラァァッ!!
骨鳥が再び翼を広げた。
今度は違う。
胸を守るように。
明確な意思を持って。
レオンはそれを見た。
そして理解した。
勝ち筋は見えた。
後は、そこへ辿り着けるかどうかだけだった。
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