118:認識
本日もよろしくお願いします。
ジャラァ――
今までで一番大きな金属音が、
森へ響いた。
その直後だった。
木々の上。
枝葉の隙間から、
巨大な影が姿を現す。
骨鳥。
切断された翼。
その断面からは、黒い触手が幾重にも伸びていた。
骨を繋ぎ、肉を引き寄せ、無理矢理形を作っている。
完全な再生には程遠い。
だが、それでも飛んでいる。
異常だった。
ジャラ……
翼へ埋め込まれた遺品が揺れる。
骨鳥は距離を保っている。
襲ってこない。
ただ。
じっと見ていた。
レオンを。
レオンの背筋へ、
冷たいものが走る。
あの視線。
間違いない。
見られている。
観察されている。
ゼインが小さく鼻を鳴らした。
「……なるほどな」
低い声。
戦斧を肩へ担ぐ。
シエラが眉を寄せる。
「何がよ」
ゼインは骨鳥から目を離さない。
そして、僅かに口元を歪めた。
「分かったぜ」
静かな声。
「あのクソ鳥」
戦斧の柄を握る手へ力が入る。
「レオンを殺したいらしい」
空気が変わる。
その瞬間だった。
骨鳥の首が、僅かに傾く。
まるで、その言葉へ反応したかのように。
レオンの喉が鳴った。
カイルが露骨に顔を顰める。
「全然嬉しくねぇな、それ」
マークが小さく息を吐いた。
「先程の強化ですね」
静かな声。
「あの一撃で理解されたのでしょう」
ヴァイスも頷く。
魔眼が細まる。
「恐らく」
低い声。
「骨鳥は原因を認識しています」
「原因?」
シエラが聞き返す。
ヴァイスは骨鳥を見たまま答えた。
「翼を切断したのはゼインさんですが......」
魔眼が僅かに光る。
「その結果を生み出したのは、レオン君だ」
静寂。
「つまり彼にとって」
ヴァイスが小さく笑う。
「最優先で狙うべき対象が決まったのでしょうねぇ」
レオンの胃が重くなる。
全く嬉しくない。
だが。
否定も出来ない。
あの視線は、
確かに自分へ向いていた。
ドルガが一歩前へ出た。
重い足音。
大盾が持ち上がる。
その背中が、
自然とレオンの前へ来る。
「なら話は簡単だ」
低い声。
落ち着いていた。
まるで何でもない事を言うみたいに。
「狙いが分かっているなら」
盾を構える。
森の空気が張り詰める。
「受けるのも容易い」
レオンが目を見開く。
ドルガは振り返らない。
ただ。
盾を構えたまま立っている。
ゼインが笑った。
「違ぇねぇ」
戦斧を肩から下ろす。
重い鉄塊が地面を叩く。
「だったら後は」
シエラが双剣を握り直す。
左肩はまだ動かない。
それでも構える。
マークが術式を展開する。
足元へ魔法陣。
カイルが槍を回した。
「レオン」
短い声。
「今度も頼むぜ?」
レオンは小さく息を吐いた。
そして頷く。
「はい」
もう迷わない。
敵を見るな。
仲間を見ろ。
崩れそうな場所を繋げ。
それが今の自分に出来る事だ。
ジャラ……
骨鳥が動いた。
ゆっくりと翼を広げる。
骨。
肉。
黒い触手。
そして無数の遺品。
それら全てが擦れ合い、不気味な音を奏でる。
喉が蠢く。
裂けた肉の奥。
人間へ似始めた発声器官が震える。
そして、掠れた声が漏れた。
「……ニ……ゲ……ロ……」
誰かの断末魔。
誰かの最期の願い。
だが、今の骨鳥にとっては。
ただ、こちらの動揺を誘う為の動作に過ぎない。
次の瞬間。
轟ッ!!
骨鳥が空を裂いた。
一直線。
今度は迷いなく。
レオンへ向かって。
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