115:共鳴
本日もよろしくお願いします。
ジャラ……
音が鳴る。
今度は近い。
木々の向こうで枝葉が揺れる。
だが、姿は見えない。
「来るぞ」
ゼインが戦斧を構える。
誰も返事はしない。
全員が理解していた。
骨鳥はまだ本気ではない。
こちらの消耗を待っている。
狩りだ。
獲物が弱るのを待つ、捕食者のそれだった。
ジャラ――
今度は右。
シエラが視線を向ける。
だが、違う。
「上だ!!」
ドルガが叫んだ。
次の瞬間。
骨鳥が落ちてきた。
轟音。
地面が爆ぜる。
土砂が舞う。
巨大な翼。
骨。
肉。
無数の遺品。
ジャラジャラと金属音を鳴らしながら、
異形が森へ降り立つ。
そして。
一直線。
狙いはシエラだった。
「チッ!!」
シエラが飛び退く。
一拍動きに間ができ、回避が僅かに遅れる。
骨鳥の嘴が迫る。
その瞬間。
黒い霧が噴き上がった。
ヴァイスだった。
「視界阻害」
低い声と共に闇が骨鳥の顔面を覆う。
骨鳥の動きが僅かに鈍る。
だが。
止まらない。
異常個体は闇の中を突っ切った。
「やはり無視ですか......!!」
ヴァイスが叫ぶ。
その手から黒い鎖が伸びる。
闇魔術。
魔力循環の阻害。
骨鳥の脚へ巻き付く。
骨鳥の速度が一瞬だけ落ちた。
「今です!!」
ドルガが前へ出る。
大盾。
轟音。
骨鳥の突進を無理矢理受け止める。
盾へ亀裂が走る。
ドルガの足が地面へ沈む。
だが。
止めた。
一瞬だけ。
その瞬間。
レオンは見た。
骨鳥。
異常個体。
その体内を流れる魔力。
黒い奔流。
濁流。
荒れ狂う川のような流れ。
ヴァイスの言葉が蘇る。
⸻
君の魔力は、
あれに少し似ているんですよ。
⸻
その瞬間だった。
ぞわりと、レオンの魔力が震えた。
何かが噛み合う。
骨鳥から漏れる魔力。
自分の魔力。
妖精鳥との繋がり。
その全てが。
一瞬だけ重なった。
「……え?」
赤い妖精鳥が現れる。
いつもと違う。
翼を広げた姿がいつもよりも大きい。
輪郭が濃い。
鮮明だった。
まるで。
今まで薄い糸で繋がっていたものが、
太い縄へ変わったような。
そんな感覚。
「レオン!?」
カイルが叫ぶ。
レオン自身も理解出来ない。
だが。
分かった。
今なら届く。
今なら。
もっと流せる。
もっと繋げられる。
「ゼインさん!!」
妖精鳥が飛ぶ。
鋭く、赤い光が一直線にゼインの元へ飛ぶ。
その瞬間。
ゼインの身体が沈んだ。
踏み込み。
いや、違う。
地面が砕けた。
轟音。
ゼイン自身が目を見開く。
「なっ――」
速い。
今までとは比べ物にならない。
筋力。
反応。
瞬発力。
全てが跳ね上がる。
戦斧が唸る。
雷鉄鉱が悲鳴を上げる。
そして。
ゼインが消えた。
骨鳥の眼孔が見開かれる。
間に合わない。
骨鳥が避け切れなかった。
轟ッ!!!
戦斧が振り抜かれる。
巨大な翼のその根元。
骨。
肉。
黒い触手。
全てをまとめて両断した。
無数の遺品が宙へ舞う。
指輪。
鎖。
短剣。
冒険者証。
そして。
巨大な翼そのものが、両断された。
骨鳥はもがき苦しみながら森の奥へと退いていく。
「……なんだ今のは......?」
カイルが呟く。
だが。
次の瞬間。
骨鳥が絶叫した。
ギィィィィィィィィッ!!!
裂けた断面。
そこから黒い触手が溢れ出す。
蠢き、絡み合う。
骨を引き寄せ、肉を繋ぐ。
再生?
いや、違う。
変質、異形化。
そう呼ぶに相応しい変化だった。
切断面から、
さらに歪な骨格が生え始めていた。
ヴァイスの魔眼が見開かれる。
「素晴らしい!!!」
歓喜と、狂気。
研究者の顔だった。
「やはりそうですかァ!!!」
その時だった。
レオンの視界が揺れた。
ぐらり。
膝が崩れる。
「……あ」
息が、出来ない。
魔力が、抜けていく。
身体が重い。
妖精鳥との繋がり。
無理矢理流し込んだ魔力。
反動。
今まで経験した事の無い消耗だった。
「レオン!!」
カイルが支える。
だが。
ヴァイスは見ていた。
骨鳥ではない。
レオンを。
その体内を流れる魔力。
妖精鳥との繋がり。
拡張された魔力経路。
異常個体との共鳴。
全てを。
魔眼が捉えていた。
そして。
ヴァイスが笑う。
乾いた笑いだった。
「ハ……」
小さく。
そして。
次第に大きく。
「ハハ……!!」
興奮。
紫色の魔眼が輝く。
「やはり……!!」
その視線は。
骨鳥ではない。
倒れかけているレオンだけを見ていた。
「実に興味深い……!!!」
⸻
ジャラ……
森の奥。
翼を失った骨鳥が、
初めて警戒するようにこちらを見ていた。
その視線の先には、レオンがいた。
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