114:見るべきもの
本日もよろしくお願いします。
ジャラ……
森の奥。
木々の向こうから、また金属音が鳴る。
遠くない。
だが、近付き過ぎても来ない。
まるで。
こちらの消耗を待っているみたいだった。
ゼインが舌打ちする。
「クソ鳥が……」
戦斧を握り直す。
「完全に狩る側の動きしてやがる」
シエラが木へ背を預けながら、小さく息を吐いた。
左肩へ巻かれた布は、赤く血が滲み始めている。
「……で」
低い声。
「どうするのよ」
双剣を握り直す。
だが。
左手側だけ、
明らかに動きが鈍い。
「撤退続行?それとも、どっかで迎え撃つ?」
「迎撃は危険だ」
ドルガが低い声で答える。
「この森では向こうが有利過ぎる」
マークも頷く。
「ですが、このまま追われ続けるのも消耗が大きいですね。骨鳥は恐らくこちらの負傷者を理解しています」
静かな声。
「次は、シエラさんを重点的に狙って来るでしょう」
シエラが嫌そうに顔を顰めた。
「……否定出来ないのが腹立つわね」
カイルが槍を構えたまま周囲を警戒する。
「撤退は非現実的か......」
その言葉へ、
誰も反論しなかった。
骨鳥は強い。
単純な火力だけではない。
速い上に狡猾。
そして。
森での戦い方を熟知している。
長期間生存型異常個体。
その意味を、
嫌というほど理解させられていた。
静かな空気。
ジャラ……
また音。
少し位置が変わっている。
レオンは、
反射的にそちらを見た。
見えない。
枝葉。
木々。
朝靄。
どこにも居ない。
四羽目を出せれば。
そう思考しかけて、止まる。
レオンは小さく息を吐いた。
違う。
また、同じ事を考えている。
敵を見るな。
今の自分に、骨鳥を完全把握する事は出来ない。
なら、見るべきものは。
レオンの視線が、自然と仲間達へ向く。
ゼイン。
シエラ。
ドルガ。
マーク。
カイル。
皆、骨鳥を警戒している。
だが、視線は敵だけを追っていない。
互いの位置。
立ち位置。
距離。
動き。
誰かが崩れれば、即座に埋める為に。
その瞬間。
ジャラ――!!
音。
シエラが僅かに視線を左上へ向ける。
ドルガが盾を傾けた。
マークの術式が展開され始める。
レオンの背筋へ、電流のような感覚が走った。
「……左上から来る!!」
叫ぶ。
直後。
木々を裂いて、骨槍が飛来した。
ドルガが前へ出る。
盾。
轟音。
今度は間に合った。
レオンの呼吸が止まる。
違う。
骨鳥を見たんじゃない。
仲間の反応を見た。
その時だった。
ジャラァッ!!
今度は真正面。
骨鳥が木々を突き破って飛び込んでくる。
狙い。
シエラ。
「ッ……!!」
左肩が動かない。
回避が遅れる。
レオンの思考が動く。
回復か。
強化か。
違う。
今必要なのは。
「行けっ!!」
赤い妖精鳥が飛ぶ。
強化対象は、
シエラではない。
ゼインだった。
「ッ!!」
ゼインの目が見開かれる。
踏み込み速度が跳ね上がる。
戦斧。
轟ッ!!
骨鳥の突進軌道を、
真正面から叩き逸らした。
金属音。
骨が砕ける音。
ジャラァァッ!!
骨鳥が木々の間へ弾き飛ばされる。
だが。
止まらない。
空中で体勢を立て直し、
再び枝葉の中へ消える。
ジャラ……
また音だけが残る。
だが。
今度は違った。
ゼインが、
戦斧を構えたまま笑う。
「……いい補助だ」
短い言葉。
それだけだった。
だが。
レオンの胸へ、
強く刺さった。
敵を見るな。
全部を制御しようとするな。
崩れそうな場所を、繋げ。
その時。
レオンの魔力が僅かに揺らいだ。
赤い妖精鳥。
その輪郭が、一瞬だけ濃くなる。
ほんの僅か。
だが。
ヴァイスの魔眼だけは、
その変化を見逃さなかった。
静かに、紫色の光が、細められる。
まるで。
何かを確信したかのように。
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