113:出来ること
本日もよろしくお願いします。
ジャラ……
木々の向こうから、
微かに金属音が鳴る。
姿は見えない。
だが、骨鳥はまだ近くに潜んでいる。
森の空気は、
張り詰めたままだった。
ドルガが大盾を地面へ立てた。
深い亀裂。
骨鳥の一撃を受けた部分は、
明らかに歪んでいた。
「……長くは保たんな」
低い声。
盾の表面を確認しながら呟く。
「何度も受ければ割れるな......」
マークが小さく息を吐いた。
「シエラ、肩を見せて下さい」
シエラは舌打ちしながら、
裂けた左肩へ布を巻き付けていた。
骨翼が掠めた部分。
傷は深い。
血は止まり切っていない。
「大丈夫よ」
そう言いながら、
右手で無理矢理布を締める。
だが。
左手で剣を握った瞬間、
眉が僅かに歪んだ。
「……力が入らないわね」
低い声。
「左はもう死んでると思って」
ゼインが口元の血を拭う。
「俺はシエラよりマシだ」
戦斧を肩へ担ぎ直す。
「まだ動ける」
その直後。
マークの治癒術式が、
半ば強引にゼインへ叩き込まれた。
淡い光。
「うぉっ!?」
「黙って治されて下さい」
マークが珍しく強めに言う。
「肋骨に来ています。次まともに受ければ危険です」
ゼインが顔を顰める。
「……チッ」
だが、否定はしなかった。
ドルガが静かに口を開く。
「攻撃が通らん訳ではない」
低い声。
「だが、速過ぎる」
盾へ走る亀裂を指でなぞる。
「あの速度で、あの質量だ。対応が追いつかん」
シエラも頷いた。
「しかも地形を完全に使いこなしてるのも厄介ね。
木々を盾にして死角へ入り続けてるのよ」
カイルが周囲を警戒しながら呟く。
「……正直、一発まともに食らったら終わりって感覚だな」
槍を握る手へ、自然と力が入っていた。
「避け続けるしかねぇ」
その言葉へ、誰も反論しなかった。
静かな空気。
ジャラ……
また遠くで音が鳴る。
まだ近い。
森のどこかから、こちらを窺っている。
ゼインが低く言う。
「で、どうする」
戦斧を握り直す。
「このまま下がり続けるか」
黒い視線が森へ向く。
「それとも、どっかで迎え撃つかだ」
ドルガが腕を組む。
「迎撃なら地形選びが必要だ」
「この森は向こうに有利過ぎる」
マークも頷いた。
「開けた場所まで出られれば、まだ対応しやすいですが……」
「そこまで辿り着ける保証がありません」
シエラが小さく息を吐く。
「正直、また森の中であれに奇襲され続けるのは御免なんだけど」
「でも立ち止まれば、もっと危ないわね」
誰も即答出来ない。
撤退。
迎撃。
どちらにも危険がある。
その中で。
ヴァイスは、会話へ加わっていなかった。
魔眼。
淡い紫色。
静かに。
ずっと。
レオンを見ている。
レオンは、それに気付いていない。
ただ。
自分の手を見つめていた。
震えている。
何も出来なかった。
いや、違う。
出来る事はあったはずだ。
なのに。
考えて。
迷って。
遅れた。
四羽目で見ようとした。
敵を把握しようとした。
それが。
判断を鈍らせた。
レオンは奥歯を噛み締める。
今の自分に、
何が出来る。
骨鳥は速い。
広域強化は難しい。
弱体補助も当てられない。
四羽目を使う余裕も無い。
なら。
何をする。
支援役として。
今。
この場で。
自分に出来る事は。
静かな思考。
その横で。
ヴァイスの魔眼だけが、
静かに細められていた。
まるで。
レオンの中で起き始めている“何か”を、
観察しているかのように。
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