108:追跡音
本日もよろしくお願いします。
夜は長かった。
骨鳥の襲撃は、
結局その後一度も無かった。
だが。
静かだった訳でもない。
ジャラ……
時折。
森の奥、あるいは木々の上。
微かに、金属同士が擦れ合う音だけが響く。
まるで、こちらの様子を窺っているかのように。
その度に、空気が張り詰めた。
だが。
骨鳥は姿を現さない。
夜が深まるにつれ、
逆にその不気味さだけが増していった。
⸻
そして。
やがて空が白み始める。
木々の隙間から、
薄い朝日が差し込んだ。
レオンは小さく息を吐く。
夜が終わる。
それだけで、
張り詰めていた感覚が少し緩んだ。
その時。
「さて」
ヴァイスが立ち上がった。
白衣へ付着した土を払いながら、
淡々と口を開く。
「そろそろ撤退しましょう」
ゼインが眉を寄せる。
「……追わねぇのか?」
低い声。
「今なら向こうも消耗してる可能性があるが......」
ヴァイスは首を横へ振った。
「今回はあくまで調査です」
即答だった。
「骨鳥の現状は十分確認出来ました」
「戦闘能力。異形化傾向。再生構造。知性反応」
指折り数える。
「加えて」
ヴァイスが、
横へ置かれた布袋を見る。
その中には、
昨夜戦闘時に回収した骨片や羽根が入っていた。
黒く変質した羽。
異様に硬い骨。
「サンプルも確保済みです」
魔眼が細まる。
「確かに今あれを仕留められるのであれば良いですが、戦力的に足りないと思いますねぇ」
「それに、これ以上の接触は、得られる成果に対して危険が大き過ぎます」
シエラが小さく肩を竦めた。
「まぁ、私は賛成。正直あれと森の中で追いかけっこしたくないし」
マークも頷く。
「骨鳥は強敵です。今の状態での深追いは危険でしょう」
ドルガも短く口を開いた。
「マークと同意見だ」
だが。
ゼインだけは、
少し納得していない顔だった。
「……チッ」
小さく舌打ちする。
脳裏へ浮かぶのは、
骨鳥の翼へ埋め込まれていた剣。
食われたCランク冒険者。
そこまで親しかった訳ではない。
しかし、それでも、あの異形をこのまま放置するのは、不愉快だった。
だが。
数秒後。
ゼインは小さく息を吐いた。
「……まぁ、仕方ねぇか」
戦斧を背負い直す。
「今回は調査だったな」
ヴァイスが満足そうに頷いた。
「理解が早くて助かります」
「お前が言うと妙に腹が立つな」
ゼインがぼそりと返す。
その後。
一行は撤退準備を始めた。
簡易結界を解除し荷物をまとめる。
痕跡を出来る限り消しながら、
慎重に森を進む。
朝の森は、
夜より幾分静かだった。
鳥の鳴き声。
風の音。
昨夜の異様な空気が、
嘘みたいに感じる。
だが。
レオンだけは、
妙な違和感を覚えていた。
何かが、ずっとこちらを見ている気がする。
「……レオン?」
カイルが小声で聞く。
「どうした」
「……いえ」
言葉を濁す。
嫌な感覚だが消えない。
だが、根拠もない。
その時だった。
ジャラ……
全員の足が止まる。
背後。
まだ、遠い。
だが、確かに聞こえた。
金属音。
森の奥。
誰も動かない。
シエラが、
静かに双剣へ手を掛ける。
ドルガが後方警戒へ回る。
ゼインの目が細まった。
再び。
ジャラ……
今度は、少し近い。
まるで。
一定距離を保ちながら、
付いて来ているようだった。
レオンの背筋へ、
冷たいものが走る。
ヴァイスが目を細め、静かに後方を見つめている。
その顔から、笑みが消えていた。
そして。
珍しく。
額へ薄く汗が浮かんでいる。
「……これは」
低い声。
「......まずい、ですねぇ」
その呟きだけが、
静かな森へ落ちた。
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