106:夜襲
「来るぞッ!!」
ゼインの怒声が響いた瞬間。
骨鳥が、
森を裂くような速度で突っ込んできた。
速い。
レオンの視界から、
一瞬で消える。
「――ッ!!」
直後。
凄まじい衝撃音。
ゼインの戦斧と、
骨鳥の嘴が激突した。
火花。
ジャラジャラ、と、
翼へ埋め込まれた金属片が鳴る。
「チッ……!」
ゼインが踏み止まる。
重い。
嘴の一撃とは思えない。
大型魔獣の突進そのものだった。
その横から。
シエラが飛び込む。
「はぁッ!!」
双剣が閃く。
骨鳥の脚へ斬撃が走った。
だが。
硬い。
骨へ直接刃が当たったような感触。
シエラが眉を寄せる。
「……ッ、硬っ……!」
その瞬間。
骨鳥の翼が広がる。
ジャラッ――!!
無数の金属片が鳴った。
「シエラ下がれ!!」
マークの声。
次の瞬間。
骨鳥の翼から、
大量の羽根が撃ち出された。
いや。
羽根じゃない。
骨だった。
細く鋭い骨片。
それが矢のように周囲へ撒き散らされる。
シエラが咄嗟に後退。
ドルガが前へ出た。
巨大盾が地面へ叩き込まれる。
ガガガガガッ!!
凄まじい音。
骨片が盾へ突き刺さる。
だが。
止まらない。
数本が盾を貫通した。
「……おいおい」
カイルが顔を引き攣らせる。
「今の、
普通に盾抜いただろ……」
ドルガの腕から血が流れていた。
深くはない。
だが。
分厚い大楯を、貫通した。
明らかに異常。
「レオン!!」
ゼインの声。
「強化寄越せ!!」
「は、はい!!」
レオンが妖精鳥を展開する。
一羽目。
赤い目が光る。
直後。
ゼインの身体能力が跳ね上がった。
地面を砕く踏み込み。
雷鉄鉱の戦斧が、
雷光を纏う。
「――オラァッ!!」
轟音。
戦斧が骨鳥の右翼を斬り裂いた。
肉が飛ぶ。
羽が散る。
確かな手応え。
だが。
次の瞬間だった。
裂けた翼。
その断面から。
黒い触手が溢れ出した。
「……ッ!?」
レオンが息を呑む。
蠢く黒。
それが、
無理矢理肉と骨を引き寄せる。
だが。
戻らない。
代わりに。
骨が増殖した。
バキ、バキバキッ――
嫌な音。
翼だったものが、
変形していく。
羽毛ではない。
密集した骨。
無数の細骨が、
無理矢理翼の形を作っていく。
「……なんだよ、
それ……」
カイルが顔を引き攣らせる。
骨鳥が吠えた。
「ギッ、ァァアアア――!!」
人の悲鳴みたいな鳴き声。
森が震える。
そして。
再び消えた。
「上!!」
シエラの叫び。
直後。
骨鳥が木々の上から急降下してきた。
速い。
夜。
森。
視界が悪い。
レオンは追い切れない。
「くっ……!」
四羽目を飛ばそうとして、
止まる。
駄目だ。
上へ出した瞬間、
狙われる。
森の中では視界共有も機能しづらい。
しかも相手は飛行型。
「レオン!!」
カイルが叫ぶ。
骨鳥が、
一直線にレオンへ向かっていた。
「ッ!!」
反応が遅れる。
見えない。
速過ぎる。
その瞬間。
レオンの前へ、
黒い闇が広がった。
ヴァイスだった。
「沈め」
低い声。
闇が、
骨鳥へ絡み付く。
瞬間。
骨鳥の動きが僅かに鈍った。
「ギィッ!?」
魔力の流れ。
それを無理矢理乱されている。
ヴァイスの魔眼が、
鋭く光った。
「なるほど……
循環系は四つ腕より未熟ですか」
観察していた。
完全に。
レオンが咄嗟に後退。
その直後。
ドルガの大盾が振り抜かれる。
轟音。
骨鳥が横へ吹き飛んだ。
だが。
木へ叩き付けられた直後。
黒い触手が、
無理矢理身体を支える。
「……再生が速過ぎる」
マークが低く呟く。
「いや」
ヴァイスが静かに言った。
魔眼が細まる。
「あれは再生ではない」
骨鳥の身体。
そこでは今も、
肉と骨が歪に増殖している。
「異形化が、
損傷を埋め合わせているだけです」
低い声。
「だから形が安定していない」
その瞬間。
骨鳥が、
再びこちらを見る。
黒い眼孔。
そこから。
掠れた声が漏れた。
「……ニ、ゲ……」
レオンの背筋が凍る。
次の瞬間。
骨鳥が、
森の奥へ飛び退いた。
「逃がすか!!」
ゼインが踏み込もうとする。
だが。
ヴァイスが片手を上げた。
「待ちなさい」
低い声。
骨鳥は木々の上。
こちらを見下ろしている。
逃げる訳ではない。
観察している。
そして。
ジャラ……と、
翼の金属片を鳴らした。
不気味な音。
その直後。
骨鳥が、
夜空へ飛び上がる。
森の闇へ消えた。
静寂。
誰も、
すぐには動けなかった。
やがて。
ゼインが舌打ちする。
「……クソが」
怒りが滲んでいた。
シエラが、
ゆっくり息を吐く。
「今の、
調査対象ってレベルだった?」
「十分調査出来たでしょう」
ヴァイスだけが、
静かに笑っていた。
魔眼が、
未だ森の奥を見ている。
「……非常に興味深い」
その声に。
レオンは、
嫌な寒気を覚えていた。




