103:観測者の魔眼
本日もよろしくお願いします。
「……他に何か、思い出した事はありますか?」
ヴァイスが静かに問う。
既に日は落ちていた。
研究室内へ灯された魔導灯だけが、
薄暗く室内を照らしている。
カイルが腕を組んだ。
「いや、俺はもう大体話したと思うぜ」
ゼインも頷く。
「俺もだ」
マークが、
整理した資料へ目を通しながら口を開く。
「こちらから提供出来る情報は、ほぼ出し切ったかと」
ヴァイスは数秒黙る。
その後。
「……なるほど」
静かな声。
そして。
「では本日の聴取はここまでにしましょう」
研究員達が、
露骨に安堵した顔を見せた。
完全に疲弊していた。
だが。
ヴァイスだけは、まだ思考が止まっていない目をしている。
その視線が、不意にレオンへ向く。
「ただ」
空気が少し変わる。
「レオン・アルバーン君」
「君とは、もう少しだけ個人的に話がしたい」
レオンが僅かに目を瞬かせる。
カイルが横を見る。
ゼインも、
少しだけ眉を寄せた。
ヴァイスは続ける。
「これは四つ腕の聴取とは別件。私個人の興味ですよ」
笑う。
だが、その目だけは、妙に真剣だった。
「他の皆さんは本日は解散で結構です。
宿泊手配はこちらで済ませていますので」
カイルが、
少しだけレオンを見る。
「……大丈夫か?」
「え?」
「いや、なんかこの人と二人きりって怖くねぇか?」
小声だった。
だが。
ヴァイスには聞こえていた。
「酷い言われようですねぇ」
笑顔。
でも否定はしない。
ゼインが鼻を鳴らす。
「まぁ、程々にな」
「善処します」
ヴァイスが即答した。
全く信用出来なかった。
やがて、全員が研究室を後にする。
重い扉が閉まる。
静寂。
残ったのは、
レオンとヴァイスだけだった。
ヴァイスは、
しばらく何も言わない。
ただ、魔眼だけが、
静かにレオンを見ている。
そして。
「……まず一つ」
低い声。
「私の魔眼について説明しておきましょう」
レオンが少し驚く。
ヴァイスは、
ゆっくり自分の右目へ触れた。
淡い紫色。
静かに光っている。
「これは後天性の魔眼です。
生まれつき持っていたものではありません」
静かな声。
「昔、異常個体と接触した際に発現しました」
レオンの表情が変わる。
ヴァイスは続ける。
「魔力の量や質、流れ、循環。
そういったものを、ある程度視認出来る」
「異常個体研究において、非常に役立っています」
淡々とした説明。
だが、そこに滲む執着は隠せない。
レオンは、少し迷いながら口を開いた。
「……異常個体って、魔眼を発現させるようなものなんですか?」
ヴァイスは、少しだけ考えるように目を細めた。
「正直、私にも分かりません」
意外な返答だった。
「ですが、私が接触した個体は、常に莫大な魔力を放出し続けていました」
「周囲の空間そのものが歪むような、異常な魔力量でしたよ」
静かな声。
「恐らく私は、長時間その魔力へ曝され続けた」
ヴァイスが、静かに魔眼へ触れる。
淡い紫色が、僅かに揺らいだ。
「そして気付けば、この目が発現していた」
「……まぁ」
ヴァイスが小さく笑う。
「発現していなければ、そのまま死んでいたでしょうねぇ」
レオンは、
言葉を失った。
ヴァイスは、どこか遠くを見るように続ける。
「私は、故郷をそれに滅ぼされた」
静かな声。
「家族も、友人も、村も」
「全て、食われた」
研究室の空気が、重くなる。
「……最後に残ったのは、私だけでした」
レオンが息を呑む。
ヴァイスは続けた。
「奇妙な個体でした。
形状としては人型に近かった」
「ですが、明らかに人ではない」
魔眼が、
薄く光る。
「……あまりにも変質し過ぎていて、元が何の生物だったのかすら分からなかったのです」
静寂。
「そして」
ヴァイスが、
ゆっくり自分の右目へ触れる。
「この魔眼が発現した直後でした」
「そいつは、私を見た」
低い声。
「正確には、この目を」
レオンの背筋へ、
冷たいものが走る。
「そして、指を差して」
一瞬。
ヴァイスが黙る。
「……何かを呻いたんです」
「言語だったのかすら、分からない」
ヴァイスの魔眼が、
静かに細まる。
「ですが、そいつは、私の存在を認識していた」
静寂。
「その後、何故か去って行った」
「理由は分かりません」
「何故、私だけ生かされたのかも」
ヴァイスが笑う。
静かに。
「だから私は、知りたいんですよ」
「異常個体とは何なのか」
「どこへ至ろうとしているのか」
そして。
魔眼が、再びレオンを見る。
「さて」
低い声。
「君は、他人から魔力について何か言われた事は?」
レオンが少し眉を寄せる。
「……魔力が少し変わってるとは、何度か」
ヴァイスが頷く。
「でしょうねぇ」
静かな声。
「私は召喚士についても、かなりの文献を読み込んでいます。実際に召喚士家系の方に話を聞いたこともあります」
何故召喚士についてを、と聞こうとすると先回りしたようにヴァイスが言う。
「何が役に立つか分かりませんから、調べられる事象は可能な限り頭に入れるようにしています。
それに召喚士は数が少ない職業ですから、記録自体も少ないんですよ」
机上へ置かれた資料。
その一部には、召喚術式らしき図も見えていた。
「普通なら、君程度の魔力量があれば、
妖精鳥以外との契約も成立していておかしくない」
「ですが君は違う」
「契約先が極端に固定されている」
「にも関わらず」
魔眼が細まる。
「契約数は4羽と、異様に多い」
レオンは黙る。
ヴァイスは続けた。
「しかも、君の魔力は妙に安定している」
「普通の召喚士とも違う」
「勿論異常個体の魔獣とも違う」
「ですが――」
一瞬。
研究室の空気が冷えた。
「私に見える貴方の魔力は、異常個体の魔力に、かなり近い」
レオンの呼吸が止まる。
ヴァイスは、
静かにレオンを見ていた。
「荒々しさは無い。侵食性も低い」
「ですが、性質そのものが近い」
低い声。
「まるで、最初から適応しているかのようだ」
レオンは、
返す言葉が見つからなかった。
ヴァイスが、
小さく笑う。
「安心してください」
「君を異常個体だと言うつもりはありません」
「ですが」
魔眼が、
静かに光る。
「君の魔力は、あれに少し似ているんですよ」
その瞬間。
レオンの背筋へ、
冷たいものが走った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
さて、何故レオンが妖精鳥としか契約が出来ないのか、異常個体に近いと言われたレオンの心境や如何に。
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