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足りない召喚士の戦い方  作者: トリバード
知識の探究

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102/135

102:異常の段階

本日もよろしくお願いします。

聴取は想像以上に長かった。


「で!!その時四つ腕はどちらを優先していました!?」


「視線は!?誰を見ていました!?前衛ですか!?後衛ですか!?」


「攻撃を受けた際の反応は!?学習傾向はありましたか!?」


ヴァイスの質問は止まらない。


朝から始まった聴取は、

気付けば既に夕方近くまで続いていた。


机へ積み上がる資料。

記録用魔導具。

紙束。


研究員達も、途中から半ば死んだ顔で書き取り続けている。


だが、ヴァイスだけは、

全く疲れた様子が無い。


むしろ、時間が経つほどに異様な熱量が増していた。


「なるほどなるほどなるほど!!やはり通常個体とは行動原理が違う!!」


「単純な捕食ではない!!役割理解!!脅威判定!!群れの統率を行う個体と比較しても、より高度な戦力分析まで行っている可能性が高い!!!」


ヴァイスが、机へ大量の資料を叩き付ける。


その勢いで、インク瓶が倒れた。


だが本人は気にしない。


「実に興味深い!!!」


カイルが、少し疲れた顔で椅子へ寄り掛かった。


「……元気だなこの人」


「研究対象を前にするとこうなるんですよ」


記録を取っていた研究員が、

倒れたインク瓶を片付けながら小声で呟いた。


完全に慣れていた。


その時、ヴァイスの魔眼が、

不意にレオンへ向く。


「君」


また急に止まる。


先程までの高揚が、一瞬で消えた。


「他の異常個体と遭遇した事は?」


静かな声。


だが、妙に鋭い。


レオンは少し考える。


「……あります」


カイルが横を見る。


ヴァイスの魔眼が、僅かに細まった。


「ほう」


レオンは静かに続けた。


「以前、狼型の異常個体と遭遇しました」


「最終的にはなんとか討伐出来ましたけど……」


自然と、あの戦いを思い出す。


巨大な狼。


膨れ上がった魔力。


異常な速度。


そして最後の魔石の炸裂。


「四つ腕とは全然違いました」


レオンが言う。


「強かったです」


「でも、理性的ではなかった」


「興奮しているというか……、力に酔ってるみたいな感じで」


「周囲を壊しながら、ただ暴れていた印象です」


研究室が静まる。


レオンは、言葉を選びながら続けた。


「……でも四つ腕は違った」


「狡猾でした」


「ちゃんと見て、考えて、優先順位を決めて動いていたように見えました」


「明らかに、理性がありました」


数秒の沈黙。


さっきまで騒がしかったヴァイスが、

急に黙る。


研究員達も反応を止めた。


ヴァイスは、

静かにレオンを見ている。


魔眼だけが、

淡く光っていた。


そして。


「……なるほど」


低い声。


今までとは違う。


興奮の熱ではなく、

冷たい思考の声だった。


ヴァイスが、

ゆっくり椅子へ座る。


「やはり、段階がありますね」


研究室の空気が変わる。


誰も口を挟まない。


ヴァイスは、

静かな口調のまま続けた。


「現在確認されている異常個体には、

いくつかの共通傾向があります」


落ち着いている。


だからこそ逆に、

不気味だった。


「まず第一に、

異常個体は通常個体の中でも、

特に強い魔力を持つ個体から発生しやすい」


「無論、全てが異常化する訳ではありません」


「異常個体化の条件はわかっていません」


ヴァイスの指が、

机上の資料を滑る。


「そして異常個体化直後の個体は、

極めて不安定だ」


「急激な力の増大による万能感、高揚感、陶酔など、それらに精神が呑まれるのでしょう」


静かな説明。


だが、その内容は重い。


「結果、暴走する個体が多い」


レオンの脳裏へ、

大狼の姿が過る。


確かに。


あれは理性より、

衝動で動いていた。


ヴァイスは続ける。


「ですが、大半はそこで終わる」


「異常な魔力へ肉体が耐え切れず、崩壊する」


「あるいは」


紫色の魔眼が、

静かに細まる。


「体内魔石が砕け散り、死亡する」


カイルが眉を寄せた。


「……魔石が壊れるのか」


「異常個体は極めて不安定な存在ですからね」


ヴァイスが答える。


「君が討伐した狼型も、恐らくこの段階だったのでしょう」


レオンは、

静かに息を呑んだ。


もし。


あの大狼が、

暴走を乗り越えていたら。


そう考えるだけで、

背筋が冷える。


そして。


ヴァイスが、

ゆっくり立ち上がる。


「ですが」


研究室が静まり返る。


「極稀に、長期間生存する個体が存在する」


魔眼が光る。


「異常化へ適応した個体です」


「そういった個体は、

時間経過と共に変質していく」


「より強く、より狡猾に、より異形へ」


ヴァイスの指が資料の挿絵をなぞる。


四本腕。

異様な肉体。


「異形化もその一種でしょう」


「通常個体の原型を留められなくなる程、肉体構造そのものが変質していく」


低い声。


「そして四つ腕は、恐らくその段階に到達している」


カイルが腕を組む。


「……つまり、あれはかなり長く生きてるって事か」


「ええ」


ヴァイスが頷く。


「持ち帰って来ていただいた腕を確認しましたが、骨折痕や傷痕などから推測するに、相当長い年月を生きた個体でしょうね」


一呼吸置いて。


「つまり、何度も死線を潜り抜けている」


研究室の空気が、重くなる。


ヴァイスだけが笑った。


「いやぁ……実に、興味深い」


その笑顔に。


レオンは、

僅かな寒気を覚えていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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