100:派遣要請
本日もよろしくお願いします。
リスベル冒険者ギルド。
昼前。
依頼確認を終えたレオンへ、
受付嬢が少し真面目な表情で声を掛けてきた。
「レオンさん、ギルド長がお呼びです」
「……ギルド長、ですか?」
レオンが少し目を瞬かせる。
普段なら、こういった連絡は受付経由で済む事が多い。
ギルド長直々。
しかも、会議室呼び出し。
少し嫌な予感がした。
受付嬢は、小さく苦笑する。
「奥の会議室でお待ちです」
「分かりました」
レオンは軽く頭を下げ、ギルド奥へ向かった。
⸻
重い扉を開いたその瞬間。
「おう」
聞き覚えのある声。
室内には、ギルド長。
そして、カイルが居た。
「カイルさん?」
レオンが少し驚く。
カイルも片手を上げた。
「よう」
「急に呼ばれてな」
カイルは以前の戦闘で大怪我を負っていたはずだ。
「怪我の方はもう大丈夫なんですか?」
「おう、昔から身体だけは丈夫だからな。もうバッチリだ」
レオンは、
そこでようやく察する。
自分だけじゃなく、カイルまで呼ばれている、ということは。
嫌な予感が少し強くなった。
ギルド長が椅子へ深く座り直す。
「二人とも座れ」
低い声。
レオンとカイルが向かい側へ腰掛けた。
短い沈黙。
その後、
ギルド長が口を開く。
「王都から派遣要請が来ている」
レオンが僅かに目を見開く。
王都。
その単語だけで依頼の重さが分かる。
カイルが腕を組む。
「……俺ら2人ってことは...、四つ腕絡みか」
「そうだ」
ギルド長が頷く。
「グランディアで回収された、異常個体の腕。
あれが王国異常個体研究施設へ運び込まれた」
「現在、王都の研究所で解析が進められている」
レオンの表情が少し硬くなる。
自然と、あの戦いを思い出していた。
森。
血の臭い。
四本腕の異形。
そして。
人間みたいな動き。
ギルド長は続ける。
「研究所の連中が、現場情報の追加収集を希望していてな。その中で、黒狼の牙からの推薦があったらしく、お前達二人へ要請が来た」
レオンが、
少し困惑したように顔を上げる。
「……僕ですか?」
「カイルさんは分かりますけど。
あの時、一番近くで戦ってましたし」
カイルが鼻を鳴らす。
「お前もだろ」
「いや、僕は後ろでしたし……」
すると。
ギルド長が、机へ肘を置いた。
「交戦の情報も必要だが、異常個体が“何を見ていたか”を知りたいらしい」
「カイルは1番近くで接敵してる。
そんでレオンは後方から詳しく見てただろ?
報告書の内容が1番詳しかったのはお前だよ」
レオンが黙る。
カイルが横を見る。
「まぁ、確かに見てた量はお前の方が多かったな」
「……そんな大した事じゃ」
「いや、大した事だろ」
珍しく、
カイルが真顔だった。
「俺は前線で動くので精一杯だった。
でもお前は、全体見ながら動いてただろ」
短い言葉。
だが、レオンは返せなかった。
ギルド長が咳払いする。
「それと」
「王都の連中はかなり急いでるらしい」
その直後。
窓の外から、重い駆動音が聞こえた。
レオンが視線を向ける。
ギルド前。
そこには。
通常の馬車より細長い、
黒塗りの大型高速馬車が停まっていた。
車体側面には、王国の紋章。
馬も普通ではない。
魔力強化された大型軍馬。
カイルが眉を上げる。
「……随分な歓迎だな」
「ああ」
ギルド長が頷く。
「既に迎えが来てる」
「準備が出来次第、そのまま王都へ向かってもらう」
レオンは、静かに馬車を見る。
王都。
異常個体研究施設。
四つ腕。
そして、何故か、自分への派遣要請。
嫌な予感は、まだ消えない。
だが、断れる空気でもなかった。
レオンは小さく息を吐く。
「……分かりました」
カイルも立ち上がる。
「ま、行くしかねぇか」
ギルド長が頷いた。
「詳細は向こうで直接聞け。詳しい内容は俺も知らん」
レオンとカイルは、会議室を後にする。
そのまま、荷物をまとめ、ギルド正面へ。
高速馬車の扉が開く。
中には既に、王都側の護衛らしき人物の姿も見えた。
レオンは一度だけ、振り返る。
見慣れたリスベルの街並み。
自分がずっと活動していた場所。
ついこの間は、灰爪と駆け回っていた場所。
その景色を目へ焼き付けるように見た後。
静かに馬車へ乗り込んだ。
扉が閉まる。
直後。
魔力駆動音と共に、高速馬車が走り出した。
王都へ向けて。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
100話目になります。
ようやく王都編に突入です。
続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると励みになります。




