21.回復薬作り
ダガートさんから回復魔法を習うようになって3日目。
私は自分の魔力量の低さにゲンナリとしていた。
辛うじてリリアちゃんがまたケガをしてきたら治せるかな、くらいの量だ。
大怪我とかになると無理じゃないかな。
「エルシーさん魔力量は少ないけど呑み込みは早いからもうすぐでマスターできそうだな」
「本当ですか? なんとなくでしか感覚が掴めませんが」
先日諜報員さんが言っていた原理を反芻しながら魔法を放つ。
『相手の魔力回路を読み取りながら不純物を取り除いて癒やしの効果を流し込む』
諜報員さんくらいの使い手になると、「治れ〜」でいけるらしい。羨ましい。
ちなみに彼は簡単なものしか使えなかったが、上級を覚える必要があったから覚えたらしい。
その理由が奥様と息子さんに関係があるそうだから愛情いっぱいで羨ましい。
世の中こういう男性もいるのだな、と感心する。
奥様はどんな方だろう。
きっと何でもできるスーパーウーマンみたいなんだろうなぁ。
「よし、今日はここまでにしておこう。この後アスティの奥さんが来るそうだから」
「奥様がですか?」
「ああ。先日言っていた回復薬の作り方をレクチャーしに来てくれるそうだ」
諜報員さんの奥様の回復薬は、騎士団の中でも好評らしい。
普通の回復薬の効果の何倍もあって、その分お値段はするけれど期待値を裏切らないのだとか。
諜報員さんは回復薬を私に作って欲しいと言っていた。
奥様ほどの効果は無いかもしれないが、リリアちゃんの傷を癒せるくらいの効果はあるだろう。
私にできることがあるならば、と引き受けた。
「騎士団としても、回復薬はいくつあってもいい。常備できるならありがたい」
「とはいえ、ご覧の通り魔力量はそんなに多くないのでお役に立てるか分かりませんが……」
「大丈夫だ。エルシーさんは気付いていないかもしれないが、食事に微量ながらバフが掛かっていたんだ」
「バフ……ですか?」
「ああ。体力回復だったり、魔力回復だったり、素早さアップだったり、効果はまちまちだが食事にバフを掛けられる才能はあるんだ。料理も上手いし、材料さえあれば回復薬が手に入るならそっちの方がオトクなんだ。だからぜひ覚えてもらえると助かる。もちろん報酬も出す」
バフというものが、騎士団の皆さんのためになっていたのだろうか。
何もできないと思っていたが、自分にもできることはあるのだと少し嬉しくなった。
「こんにちは〜。回復薬を伝授してほしい方はどなたかしら?」
そこへ優しい女性の声がした。
振り返ると扉の所に女性が立っていた。
「シーラさん、ようこそ」
「ダガートさん、お久しぶりです」
その女性はふわふわの髪を靡かせてこちらに向かって来る。
ダガートさんの知り合いと先程の言葉からして、諜報員さんの奥様だろう。
ダガートさんと握手を交わし、くるりと向き直る。
「はじめまして、シーラといいます。回復薬を習いたいのはあなたかしら?」
「は、はいっ! エルシーといいます。よろしくお願いします!」
慌てて頭を下げて挨拶をする。
優しくて、朗らかで、何だかいい匂いがするオトナの女性に緊張してしまって手が震えている。
「あははっ、可愛いなぁ。よろしくね。早速だけどダガートさん、回復薬の材料はありますか?」
「ああ。作業場に案内するよ」
頭を上げてシーラさんの様子を窺う。
目が合って、微笑まれた。
この世の悲しみとか、苦しみとか知らないような幸せオーラに胸がきゅっとなる。
今まで悩んだことなさそうで羨ましいな。
「エルシーさんは回復薬っていうか、薬草とか扱った経験はある?」
「い、いえ、全く、未経験です」
「そっか。まあ、回復薬は基本中の基本で簡単だけど、応用となったら間違えたりもするから気を付けてね」
「は、はぁ……」
「ふふふっ、私ね、夫に熱冷ましの薬を作ろうとして、材料を間違えたことがあるの。そしたら、夫が子どもになっちゃって。あのときは焦ったなぁ」
シーラさんでも失敗することがあるのか、と何だか肩の力が抜けた気がする。
ちなみに毒消しの処方で戻ったらしい。
トラブルがあっても冷静に対処できる判断力はさすがオトナの女性だ。
ダガートさんに作業場に案内してもらってからは、シーラさんと2人きりになった。
ダガートさんは騎士さんに呼ばれて戻って行った。
「アスティに聞いたけれど、最近この辺りの魔物の動きが活発らしいわね」
「そうなんですか? 全く気付きませんでした」
「街の人が気付かないレベルってことは、騎士団がしっかり街を守っている証拠だわ。それでも全くケガをしないこともないだろうから、エルシーさんが回復薬を作れるようになったら常備薬として使えるわ。だから一緒に頑張りましょうね」
シーラさんの言葉に気を引き締める。
リリアちゃんの傷を癒やす薬を作るはずが、何だか大事になっている気もするわ。
だが誰かの役に立てるのはやはり嬉しいことだ。
「回復薬は、この釜に薬草と純水を入れて煮詰めていくの。これは薬を作る人がみんなやること。で、違いができるのは魔力を込める行程でなんだけど、『ケガが治りますように』って願いを込めながら混ぜるの」
シーラさんが釜に煮詰めた薬草水に魔力を込めていく。
「途中であんな効果があれば〜とか、こんな効果が欲しい〜とかあれば念じていく。そしたら、バフ付きの回復薬になるわ。……できた」
あっという間に回復薬ができてしまった。
できたものを小瓶に詰めていく。
それは透き通ってキレイな色をしていた。
「すごい……回復薬ってこんなキレイな色をしているんですね」
「効果が高いほど透き通るらしいわ。エルシーさんもやってみて」
シーラさんに促されて私も同じくやってみる。
薬草を入れて純水と混ぜ煮詰める。
そして魔力を込めていく。
……結構、吸い取られるみたいになってる気がする。
「いい感じ。そのまま願いを込めて」
願い……ケガが早く治りますように。
痛くありませんように。
釜の中がポゥッと光った。それを小瓶に詰めていく。
「でき……た」
「エルシーさん本当に初めて作ったの? 結構効果高そうよ。見て、キレイに透き通ってる」
小瓶を持ち上げると、光に反射してキラキラと光っていた。
私でもこんなにキレイな回復薬を作れた、と感動した。
「ありがとうございます、シーラさん」
「どういたしまして。よし、このまま応用編いっちゃおう」
それからシーラさんに褒められながら回復薬を作っていった。
成功したものもあれば失敗したものもある。
回復魔法は苦手だが、回復薬作りは割といけるんじゃないかってくらいいい感じの物が作れたと思う。
「中々筋がいいわ。私の弟子になる?」
「ぜひ!」
それに楽しくて自分に向いているかもしれない、と思い始めていた。
「エルシーさん」
振り向くと、また小さな傷を作ってきたリリアちゃんの姿があった。




