14.引かれ合う運命
騎士団の駐屯地を辞めて2年が経過した。
辞めた後、私は幸運にもリリアちゃんの文具を買った大きな文具店に再就職できた。
住み込みだったし、給料も騎士団の駐屯地よりは劣るが一人で暮らして貯金もできそうだったので即決した。
室内にキッチンと湯浴み場も併設していたという理由も大きい。
賄いは無いが、好きな時間に食べられるのをメリットと捉えている。
ここで働けることになったから、騎士団を辞められたようなものだ。
「今日はこれください」
ただ1つ、問題は、リリアちゃんが日参することか。……あそこを出た意味ある?
「銅貨1枚です」
今日の購入は鉛筆1本のようだ。
ちなみに私は店主さんのご厚意で裏方に徹しているので会ってはいない。今応対しているのは先輩店員であるヨハンナさんだ。
リリアちゃんに直接会わないだけは意味があったと思いたい。
リリアちゃんは何故か毎日やって来て、店内をうろうろしては小さな物を購入する。
まとめて買えばいいのに、鉛筆1本、用紙を1枚、という風にちまちま買って行くのだ。
買わない日もあるが、大抵何かを買って行く。
何かを探している風だがヨハンナさんが話し掛けようとするとサッと逃げて行く。
ダガートさんは何をしているんだろう、と思うが、もう会わない人のことだ。私には関係無い。
「いやあ、悪いね。長いこと留守にしちゃって」
「店主さん」
この文具店の店主さんは、温厚なお爺ちゃんだ。
若い頃は騎士をしていたらしく、身体つきがとても丈夫そうだ。
奥様はおらず、1人で息子を育て上げたらしい。
ちなみに今は別に暮らしていて、めったに会うことは無いらしい。
店主さんはよく文具の買い付けで長いこと留守にする。
今回はひと月ほどいなくなっていた。
「孫がね、学び舎に通いだしたもんだから、気に入るかな、って思って沢山買っちゃった」
「今回は長かったですもんね」
「あ、店長お帰りなさい。お孫さんが毎日来てましたよ」
ヨハンナさんが裏に戻って来た。店主さんのお孫さん、近くに住んでるんだ。
だが、店主さんが親しくしている子なんてこの2年間で見たことあったかな?
「そうか」
「さっきも鉛筆1本買って行きました」
……なんだか、そこはかとなく嫌な予感がして背筋がゾクッとしてしまった。
「そうかぁ。あの子学び舎に行きだしたからなぁ。もう2年目になるか?」
ああ、神様。どうしてですか?
「まとめて買えばいいのに、ちょこちょこ買ってるのは店長に会いに来てたんですかね」
「恥ずかしがりやさんなのかねぇ、リリアは」
まさか、まさかじゃない。
ようやくホッと永住できる場所が見つかったと思ったのに、どうしてまたリリアちゃんの関係者の場所なのよ。
「また明日も来ると思うので、店長対応してください」
「分かった分かった。お土産もやらないとな」
ニコニコと笑う店主さんとリリアちゃんはきっと良好な関係だろう。
目に入れても痛くないくらいに可愛いというのが見てとれる。
初めての孫だろうか。騎士の関係者? 昔騎士だと言っていたから、父親の方になるのかしら。
だとしたら息子はもう……。そのことは知っているのだろうか。
店主さんは時折息子の自慢話を聞かせてくれる。
文具店の3階が私の住む部屋があるフロアで、店主さんが住むフロアも隔てた場所にある。
だから料理など余ったら持って行って、一緒に食べたりしていたのだ。
言われてみれば、息子さんに会ったことは無い。
それは彼が亡くなっているからということで辻褄が合う。
だが、こんな温厚で常識的な店主さんの息子さんが、隠し子を作るなんて考えにくい。
不貞とは全く縁が無いような顔をしているではないか。
……としたら、シアラの関係?
でも、シアラは天涯孤独だとダリオが言っていた。だから自分が支えたいのだと。
ゔ、いやなことを思い出してしまったわ。
この2年間、ダリオにも遭遇していない。
チラッと見かけたことはある。以前見たときよりも肉付きは良くなっていた気がするから、誰かいい人でも見つけたのかもしれない。……こちらももう、私には関係の無いことだ。
「エルシーさん」
「ふぁいっ!?」
「エルシーさんにもお土産あるからね」
「あ、ありがとう、ございます」
ニコニコ笑う穏やかな店主さんにやっぱり不貞した2人とは関係無いんじゃないかと思えてくる。
これ以上考えても行き詰まって嫌な思考になってしまうので、私は裏へ作業しに戻ることにした。
「お、リリアー」
「おじさん、帰ってたの」
ニコニコ顔の店主さんとは裏腹に、リリアちゃんはあまり嬉しくなさそうな顔をしている。
以前はもっと笑ったりしていた気がするけどな……と、私が気にしても仕方がないのに、こうして見えてしまうから気になってしょうがない。
神様はどうして私をこんな風にリリアちゃんの近くに身を置かせたがるのだろうか。
ちらりとリリアちゃんを見てみる。
学び舎へ通い出して2年くらいだから、今は8歳かな?
当たり前だがあの頃よりも成長して少し背も伸びた。
服はギルダさんに見繕ってもらっているのかな。
ダガートさんは着れたら何でもいいだろう、とか言ってそうで、思わずふふ、と笑いが漏れた。
「……あ」
「え?」
リリアちゃんと目が合った。気がする。
空色の瞳が大きく見開かれ、店主さんをよけて私に近付いて来る。
私は思わずサッと身を隠し、リリアちゃんが入って来れない裏方に引っ込んだ。
キョロキョロと辺りを見回し、誰かを探している風だ。そういえば、以前母親がいたからと街中を駆けて行った事があったっけ。
「リリア、どうした?」
「うううん、なんでもない。また来るね、おじさん」
「ああ、いつでもおいで」
店主さんは大きな手でリリアちゃんの頭を撫でる。
その時に見せた悲しそうな表情が、私が悪いことをしているみたいで小さく胸が痛んだ。




