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38話 正しさゆえの傲慢

「アローラ先生が来られていないので、私が今回試験官として進行させていただきます」


 13時15分。戦術広場の真ん中にB組が揃いアローラを待っていたが、彼の姿はなぜかなかった。A組の試験の時にも不在だったようで、理由は体調がすぐれないというものだった。ソフィリア自身も体調が悪いので気持ちがすごくわかるが、私も頑張っているのだから先生も頑張ってほしいという欲張りな感情に駆られてしまった。


 代わりとしてA組試験の際も監督官をしていたA組担当のレムリアという教師がそう話す。

 黒っぽい綺麗な髪が天井の明かりに照らされてなびく。ここまできれいな髪だとソフィリアも見惚れてしまうほどだった。水色の綺麗な瞳が各生徒の顔を見ていき出席確認をとっていく。


「全員、いますね。私も一応攻防魔法と体術の担当なので試験官としては十二分かとはおもいます。ので、決してローズさんやアローラ先生がおられないからと油断しないように」


 ニコッと笑う彼女を見てA組の担任も結構怖いほうだなと感じる。ローズとはまた違った雰囲気だ。職員室で見たときはそう強く感じなかったが。


「それじゃあ時間もないのでさっそく始めます。一組目は位置についてください。ストレッチは終わってますね? 40秒後に開始します」


 そこから怒涛のような試験が始まる。

 流れとしては走ってマナを溜めて何かの容器にマナを放出させるという単純なものだった。

 だが当人たちはかなり辛そうで、走りは余裕だった生徒がマナのテストで脱力して失神しかけていたのを見たときは鳥肌が立った。息を瓶に吹きかけているように見えるが、実際はマナをあそこに放出しているのだろう。ゲートがなくマナも見えない彼女にとってその行動は摩訶不思議なものだった。


「あいつ、やっぱり口だけで大したことなかったな」

「え?」


 クレーシアが広場の端で待機しているときにふとそうつぶやいた。恐らくエレニアとニーナのことだろう。彼女たちも走り終わりマナのテストも終わったようだ。二人ともかなりしんどそうな顔つきだ。

 クレーシアはそう言った後に嫌味っぽくこう続けた。


「あいつ、アンジェリーナのマナ見てみろよ。マナが瓶の中で暴れてる。人間のゲートはマナを吸った後普通は活性化せず落ち着かせるようにできてるんだ。次の魔法を行使させやすいようにな。だからマナを放出した直後は波が出ないように一定の動きをするものだけど、あいつのはあっちこっちに行ってる。あれじゃあいざ魔法を行使したときにも活性化のせいでうまくいかないだろうな」


 そう言って鼻で笑う彼にソフィリアは少し苛立ちを覚える。

 だって彼女は実技枠で合格したのだ、彼からしてみればそんなことどうしたということだろうが、ソフィリアにとってはそれはとてもすごいことだ。彼は知らないだろうけど、知っている彼女からすればその言い方は癇に障る。


「そんなこと、ないと思います。ニーナさんはすごい人なんです、きっと今日は調子が悪かっただけ、だと・・・思います」


 意見したことが途中で怖くなり言葉が切れ切れになってしまったが、言いたいことを言ったソフィリアは視線を地面にずらして腰を下ろす。

 見下ろすような形になったクレーシアはニーナのほうを見ながら眉を細めて言う。


「お前ら、この学校でやっていけるのか?」

「え?」

「本番でも調子が悪かったっていうのか? 魔獣に襲われたときにもマナが活性化するから襲うの少し待ってもらっていいですかなんて言うのか? 馬鹿か、そんなことあるはずない。死ぬときは一瞬だ、こういういざとなったときにそんな言い訳並べるやつがこの学園で得られるものなんてない。さっさと消えればいいのに」

「・・・すみません」


 正直正論だった。言い方は嫌な感じだが彼が言うことはもっともだ。実際ソフィリアはアリーナ大倉庫で魔獣に襲われたときに何もできなかった。ヴィアトリクスがいなければここに彼女はいない、ただ運が良かっただけ。次また同じことが起きたとして彼女はクレド症だからという理由で黙って殺されるのか、或いは誰かを見殺しにするのか。


 その時が来たらソフィリアは、どうするのか。

 彼が言っていることは正しい、その正しさを彼女は受け止めなければいけない。


「そうですね、クレーシアさんのおっしゃる通り、です」

「わかればいいんだよ。あの揉めてる馬鹿にもそれをお前から教えてやってくれ」


 言うと彼は人差し指でニーナのいるほうを指す。


 かなり揉めているのか、ニーナが珍しく顔を赤くしてレムリアに何か話している。顔がすごく真剣だ。


「はっ、自分の結果が納得いかないだってさ。一度決まった結果に文句を言うほどなさけないものはないな。お前もそう思うだろ」

「でも、ニーナさんは頑張ってます」

「は?」

「頑張ってる人に、そんなこと言うのは酷いと、思います・・・」


 ソフィリアはおもむろにそう彼に訴える。彼女は再度立ち上がり、彼に正面向く。目線は合わせられないが、きちんと向きを合わせて彼に言葉を伝えた。


「クレーシアさんはもっと、人に歩み寄ってあげたらどうですか・・・? そうすればクレーシアさんの言っていること、わかってくれると、思います」


「お前、さっき僕が言っていたこと聞いてたのか? そういうやつは僕の意見なんてわかるはずもない、目障りだから消えろって言ってるんだ。つくづくお前たちを見てるとそう思う」


「意見はわかります・・・! 伝え方を、工夫したほうがいいと言ってるだけで―」

「わかったわかった、もういいよお前。別に僕もお前がペアになったからってだけで話してるけどお前に興味あるわけじゃないから。というかなんで僕もこんなに必死になって・・・」


 イライラしたように彼は漏らしてどこかに行ってしまった。

 ソフィリアはスッとニーナのいるほうに目を向けた。話す声が聞こえないので彼女に近づいてみる。そういえばここまで離れているのになぜ彼は彼女たちの会話が聞こえたのか・・・。走りながらそう感じたが今はどうでもよかった。


「気持ちはわかります。でももう試験は終わったから、次につなげなさい」

「あと一回だけお願いできませんか・・・?! 調子が悪かっただけでもう一度チャンスを・・・!」

「くどいです、試験時間もタダでさえ超過しているのですからあなたの再試験に時間を割いている暇はありません。次、4組目位置に付きなさい」


 レムリアとニーナはほぼ口論のような形で話していた。エレニアは止めようとするが、彼女は必死さのあまり彼女の腕を振りほどこうと乱雑になっている。


 あんなニーナは初めてだ。


「ニーナ、少し休もう? 成績にはそこまで影響しないからきっと大丈夫だよ」

「そうだとしても、やっぱり・・・」


 そこでソフィリアと二人の目が合う。ソフィリアは「うっ」という鈍い声を出して硬直する。


「ソフィちゃん」


 彼女のパッと出た呼び名になぜかソフィリアは胸がほっとした。























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