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37話 緊張と杞憂

 結局ソフィリアは時刻ぎりぎりに会場に到着した。

 今日はなぜだが朝から調子が悪かった。なぜかはわからないが、朝食を終えたあたりで吐き気と頭痛がしてイオルノに診てもらったものの解決はせず、しばらく自室で寝ていた。


 起きたのは11時前、頭痛は引いたものの気持ちの悪さは変わらずゆっくりとした歩調で広場に向かった。


 まだ試験は終わっていないらしく、地下につながる大階段を降りた直後に声が聞こえてくる。試験も佳境なようで応援する声がここまで届いてきた。


 この声でさらに気分が悪くなってもいけないので、ソフィリアは直前まで休憩していることにした。場所は以前恩師から図らずとも教えてもらっていたのでそこを目指す。


「あれ、これって」


 右の廊下を突き進み奥へ行ったとき、壁つたいに直線の通路があるのだが一つの部屋の扉が開いていた。かすかに空いたその隙間から紫っぽいような色が廊下に漏れ出ているようだ。


 何かの試験の準備中なのかと思い空いた隙間から見る。


「・・・っ」


 彼女は言葉を出せず口に手を当てる。


 目の前にあるのはいつしか見たあの光景だ。

 アリーナ大倉庫で体験した悪夢。忘れかけていた記憶が鮮明に呼び起こされる。

 紫色の異彩を放つ大きな入り口、ゲート。その横には人影のようなものもあり、それは彼女には気づいていない。黒いコートのようなものを着ているようで、フードもかぶっているのでよく見えない。


 なぜここにもあるのだろう。もしかしたらここにもまた魔獣が現れるんじゃ・・・。


 そう思って彼女は急いで先生の元へ駆けて行こうとする。

 刹那、元来た道へ方向転換したときに誰かとぶつかる。


「す、すみません」

「いった・・・。ちゃんと前向いて歩けよ」


 目の前にいたのは彼女もよく知るクレーシア・ファナレクトだった。いつもの灰色っぽいマッシュ系の髪がぶつかった影響で左右に揺れる。

 彼は怒ったような口調でそうつぶやいた。


「クレーシアさん・・・、どうしてここに」

「どうしたはこっちのセリフだ。もう30分前だぞ、そろそろ準備始めないといけないのにどこほっつき歩いてんだよ。ゲートの活性化も時間かかるんだから早めにストレッチ始めとけ」

「え、あ、はい・・・?」

「何その返事、きもいな」


 唐突に悪口を言われて目に見えて落ち込むソフィリア。


 その時にさっきまでのことを想いだし我に返る。

 再度部屋の方向を見ると、先ほどまでのような異質な空間などなく、普通の更衣室の空間へ戻っていた。何の変哲もない、普通の部屋だ。念のため扉も開けて確認するが異常は見当たらない。


「なにしてんの?」


 しびれを切らしたのか、クレーシアが眉を細めていら立ったような声音でそういう。

 ソフィリアはたじたじになりながらも軽く事情を話してみる。


「この部屋で妙なものを見た気がするんですけど。あれ・・・?」

「そんなもの僕が来た時にはなかったぞ」

「でも、ここで魔法が使われてたような気が」

「そんなものないって・・・。そもそもそんな魔法校舎の中では禁止だ。わかったら早くいくぞ」


 試験が近づき明らかに焦っている彼が口早にそう促す。彼の機嫌を損ねるのもよくないと判断してソフィリアは彼の言うとおりにしてその場を去った。

 部屋を去る際にソフィリアの目端にはマナの軌跡が見えた気がして驚くが、埃か何かだと思いそのままスルーする。なぜなら彼女にはゲートがなく、マナの視認はできないのだから。



「いいか? もっかい言うから必ず覚えろ。まず最初に来る試験科目は体力テスト、これはただの持久走だ。1000メートルを1分の休憩はさんで2セット。その直後に魔法のテストになる。多分だけど持久力が減った後にどれくらいのマナを吸収して行使できるかを見るための試験だろうな。二人の組の総合点数がこの試験の得点だ。この結果次第で2年生への進級の加点になる、わかったか?」


 と、クレーシアは熱弁に語るが当のソフィリアは上の空だった。体調がまだ芳しくないのとさっきの部屋の事が気がかりでとても集中することはできなかった。

 だからクレーシアがソフィリアの名前を呼び先のことを確認してきたときに彼女は驚きのあまり妙な声を出して反応する。そしてかろうじて「大丈夫です」とか細い声を出して答えた。


「ならいいけど」


 ソフィリアは全く聞いていなかったのでよくはないが、大事なことは言っていなかったはずなのでここは無視をすることにした。


 ソフィリアとクレーシアは観客席の下側におり、その左後ろ後方の上の席にエレニアとニーナは座っていた。頭上からソフィリアとクレーシアの会話を聞いていた二人は若干心配そうに見つめている。


「大丈夫かなソフィ」


 エレニアの言葉にはニーナは反応を示さない。

 この時は彼女もソフィリアの心配はしていたが、試験に対する緊張でエレニアの声が聞こえていなかっただけだ。

 ソフィリアから投げられたお守りも今は彼女が身に着けていた。試験の成功を祈って。無くさないようにと首から下げてブレスレットのように吊り下げている。それを両手で握りしめて心の中で言う。


(頑張るから、おかあさん)


 各々の不安と緊張が入り混じる今試験。

 A組の試験もいよいよ終わりだ。この試験はそれぞれの組が一つずつ行われていく。総勢18名で9組に分けられる。1組が大体20分程度の試験時間に設定されている。前半に持久走、後半の時間でマナのテストだ。マナをどれぐらいの効率で吸収できるかで本人の能力は決まる。今の段階で疲弊した後にマナの吸収を行うことで適性を見極めて今後のカリキュラムに組み込まれることが目的となっているわけだ。


 だからクレーシアが言っていた進級に直結するというのもあながち間違いではない。

 それによって受けられる科目のレベルも違ってくるので、当たり前といえよう。なので進級に関係ないと手を抜いていると後々自分に帰ってくるのがこの適性試験だ。


 エレニアとニーナの番が3番目、ソフィリアとクレーシアが9番目だ。なので一番最後、最期の締めとして二人は参加することになる。


 13時。定刻になった。当たりが一気にざわつき始める。いよいよ開始だ、ソフィリアは立ち上がると同時に静かに生唾を飲みこんだ。























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