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35話 試験前日

 それから数日が経った。試験はついに明日。今日は休日だったので基本的に生徒はいない。

 しばらく不在だったヴィアトリクスの姿もこの日はあり、ソフィリアは休日にも関わらず学校へ赴いたことに嫌気を覚えていたが、彼女の姿を見て少し元気が出た。


 しかし彼女もかなり忙しいようで、更衣室で怒られたアルドーラという先輩と急いでどこかに走って行ってしまった。ソフィリアは声を掛けようとして上げた右手をそっと下ろし、目的の場所へ急ぐ。


 目的地は職員室だ。ローズに会い明日の試験についての話をするために。一昨日、ペアが最終的に組めなかったソフィリアとクレーシアが自動的にペアとなった。彼とはあれ以降一言もしゃべっていない。なのでクレドだということを彼には明かせないでいた。いくら成績に関与しないと言えど、なにも言わないまま当日に臨むのは少し嫌だ。


 だからこうして彼にお願いをしに来ている状態だ。ローズに言って彼からクレーシアに言ってもらえればそこまで波もたたないはずだ。


「あの・・・ローズ先生、いますか?」


 職員室を開けるとドッとコーヒーのようなにおいが鼻に突く。中学時代でも感じたあるあるはここにも顕在していたようだ。


「ローズ先生ならいつもの場所でさぼってるんじゃないかな。今の時間帯だと」


 手前にいた先生が優しく教えてくれる。確かこの人は1年Aの担任のレムリア先生だったはずだ。交流する機会はなかったが、ローズがいない数日の間この人がB組の担任をしてくれていた。本人曰く唐突に言われたことに腹を立てていたが、きちんと職務は全うしてくれていた。


「いつものってどこなんですか?」


「今日は休日だから・・・あれよ。戦術広場ってわかる? あ、まだ1年だから行ったことないのね。中央区の大階段あるでしょう? そこのまた奥に地下につながる階段があってそこを降りていくと戦術広場の廊下が出てくるから、多分そこの突き当り右奥の倉庫置き場でさぼってると思うわ」


「なるほど、わ、わかりました・・・。ありがとうございます」


「あいつに会ったらさっさと戻ってきて仕事手伝えって言っといてくれる? 前B組を任せたときの仕事がまだ片付いてないから。あいつに全部やらせる」

「あははは、失礼しまぁす」


 良くない感情が芽生えているようで、ソフィリアはこっそりその場を後にした。


 戦術広場。地図には載っていなかったがそんな場所もあったのかと思う。大階段のさらに下に階段があるのも知らなかったが、そこでさぼっている先生にも衝撃だ。あの人が教室以外で仕事してるの見たことない気がする。


 階段を降りると一気に暗くなり、小さい天井の明かりだけが光源となる。夜にここに来るとなると多分かなり怖いだろう。風が奥から来て肌を刺すがかなり冷たい。相当広いエリアなのだろう。ソフィリアは壁伝いに慎重に階段を降りていく。


 降り切ると言っていた通りかなり広い廊下に出る。駆け足で右奥を進んでいくと、いびきのする音が聞こえ、それを頼りに彼女は急いだ。


 彼は確かに倉庫置き場で寝ていた。ご丁寧に人ひとり入れる隙間を壁奥に確保して布団まで敷いている。天井は100センチほどしかなく、簡単な物入のような空間のようだ。いびきの音がなければここを見つけるのは結構難しかったと思う。


「先生、起きてください先生」

「あ・・・? なんだお前、俺の昼寝邪魔しやがって・・・? 殺すぞ」

「ひっ?!」


 突然の殺害予告にゆすっていた両手を離ししりもちをつく。


「あ、お前か。悪い、なんだ?」


 怖い怖い、DV男の典型的なパターンだ・・・! きついことを言った後には優しく接する的な。依存関係に現れる一種の洗脳行為・・・! これはまずいのでは。


 なんて変なことを考えていると、彼はあくびをして背伸びをする。


「明日の試験の事か? どうせそうだろうな」


「はい、内容は—」


「知ってるし言わなくてもいい。お前の体質の事だろ? 心配するな、明日の実技はお前の分は別で用意してる。言っておくが体力テストは普通にやるから覚悟しておけよ」


 目をこすりながら彼はソフィリアに向かってそう言う。

 かなり怖い印象だったが、やはり根はいい人なんだと感じる。サボってるけども。


「ありがとうございます・・・! よかった・・・」


「でも俺は明日急遽別の用事で試験に立ち会えなくなったから、アローラ先生に引継ぎはしてある。あの人も元々攻撃魔法専攻だったからな、多分大丈夫だろう。一応お前からも言っておけよあいつには」


「わかりました。あ、あとレムリア先生から伝言が」

「待て、それ以上は言うな。俺は何も聞いていないから、そのまま帰るんだ」

「え、でもそれだと私が怒られ—」

「行くんだアズベルト。試験の事なしにするぞ」


 やっぱりこの人最低だ。自分の保身が一番なんだなと感じた。


「怒られたら正直に全部言いますからね・・・」

「ああ、んじゃあ俺は寝るから。帰った帰った」


 手をぶんぶんする彼はそう言って再び布団に寝転んだ。

 今思ったが、ここを休憩所にするには少し悪環境ではないか?ジメジメするし風は遮断されるし、蒸し暑い。夏はかなりきついだろう。ソフィリアはいつか自分もここでさぼろうと考えたが、それらを考えてやめにした。



 同日、19時前。ソフィリアはクルルから夕飯をもらいに食堂を訪れていた。

 あれからというもの、ニーナとは口を聞いていない。ほかの先輩やエレニアから大丈夫かと心配の声をもらったけど、適当にごまかした。


 どうしても食堂だとニーナと遭遇するため、こうして早めの時間にクルルに頼んで自分用の食事を手配してもらっている。自分にだけこんなことをしてもらって申し訳ない気持ちがあるが、それのせいで食堂の空気が悪くなるのは嫌だ。


 だけど、配膳されるときにクルルは気になることをぼやいた。


「ニーナも君も、似た者同士って感じるけどね」

「私がですか・・・?ニーナさんとなんで」

「あの子も今は自室で食べてるよ、それも僕の食事には手を付けず自分で買ってきたものを食べてるみたいだね」

「どうしてそんなこと・・・」

「さぁ?よくわかんないけど、君だけ食堂で食べないからあの子も意固地にでもなってるんじゃないの。はい、今日はハンバーグ」


 そう言われてお盆に大きめのハンバーグを乗せられる。


「またハンバーグなんですか? せ、先輩ハンバーグ好きなんですか?」

「いや僕は別に、ただソフィリアさんあの子と喧嘩した日結局ハンバーグ食べてなかったでしょ。折角作ったのに、一口も手をつけないでさ」

「す、すみません申し訳ありません・・・命をもってお償いを・・・!」

「いやいやしなくていいから! 舌かみ切ろうとしないでよ?! え!? こんな人だったっけソフィリアさんて! めちゃやばい人じゃん!!」


 確かに彼と話すことはこれが初めてかもしれない。少なくともこんな至近距離でここまでの時間はなしたのは初めてだ。


「ありがたくいただきます・・・」

「ああ、でもそのハンバーグ作ったの—」

「クールール???」


 冷たい声が食堂入り口から聞こえてくる。

 イオルノがニコニコした暗い笑顔で立っており、彼の名前を呼んでいるのは彼女だった。


 クルルは肩を震わせるようにして驚き、「なんでもないです!!」とだけ言ってご飯を注ぐ。


 イオルノはソフィリアに近づいてくる。何を話されるのかと思ったが内容は明日の技能試験についてだった。


「明日、頑張ってね。ソフィもニーナもエレニアも、全員いい結果が出るように祈ってるわ」

「ありがとう、ございます・・・。精進します」

「うん」


 それだけ言って彼女は食堂を後にした。



 部屋に戻るついでに、隣のニーナの部屋を見る。

 扉が開いており、中が見える。喚起でもしているのか、扉を器用によけて廊下を進むが、扉を超えて進んだ直後ニーナと軽くぶつかってしまう。


「ごめんなさい―」

「すみません―」


 お互い謝ったときに目が合い、微妙な雰囲気が流れる。

 先に視線を逸らしたのは意外にもニーナのほうで、床に視線を落とした。


 ソフィリアは気まずさに耐え切れず、そのまま駆け足で自室へと向かう。


「待って」


 突然呼び止められ、彼女は静止する。


「えっと、その。そのハンバーグ、ちゃんと焼けてるか見て食べてね。それだけ」


 そう言って彼女は自室に戻ってしまった。あまり顔色はよくなかったように見える。ちゃんと食事はとれているのだろか、なぜ彼女がクルルの食事に姿を出さないのかわからない。


 それより、さっきのはなんだ? なんで彼女がクルルの作った料理の出来を気にするのか。彼の料理が前に当たったとかそういうのだろうか。一応ソフィリアは食べるとき慎重にハンバーグの出来を確かめて頬張った。


 特大サイズのハンバーグは、言葉にはできないほどに美味しかった。




















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