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34話  校内事件

 私は正しいことをした。そう思ってる。

 多分クレーシアが言っていたことは嘘っぱちだ、ニーナさんが友達だった私の悪口を言うはずがない。そんなこと中学を合わせればこの一年間近くにいてわかることだ。


 どうして彼女の手を拒絶したのか。そんなこと、彼女のことを想ってに決まってる。


 入学式初日、私はあの場所、校門前で彼女にクレドであることを明かし、それでも私はここで変わりたいということを言った。宣言した。そしてそれを彼女も承諾してくれて近くにいたのだ。


『まぁそういう声もあるけど、実際僕も違和感あるなとは思う。だってソフィリアさんとアンジェリーナさんて、真反対の人間だから。一緒にいるのって結構違和感』


 でも、最近思うようになった。私がそばにいることで、彼女にとって大きなマイナスになっているのではないかと。

 あの人の魔法適性はすごいものだ。実技も全体で10位以内で突破している。そんな人がクレドの隣で学園生活を送っているのは確かに違和感だ。


 今でこそまだ私がクレドだということを知られていないから悪い噂はないものの、技能試験が終わった後、揶揄される光景は容易に想像できる。


 最初の中学の時のように。


 そうなれば彼女はよくても私が耐えられない。人気者で綺麗で、完璧なニーナの隣に私がいてはいけない。


「あれ、なんで泣いて・・・」


 涙が出てしまい止まらない。19時過ぎ、食堂はみんなの声で盛り上がっている。窓を開けているのでそれが鮮明に聞こえる。それが今自分が孤独なのだということがわかり胸が締め付けられる。


 自分で決めた末路なのに涙なんて出てほしくない。


「変わりたいっていう気持ちを盾にして、結局逃げることしかできないんだ」


 一人で自問自答してまた泣く、それだけを繰り返していた。


 扉がたたかれる音をして肩を震わせる。

 声がする、イオルノだ。


「ソフィ。大丈夫? ハンバーグクルルが作ってくれたからここに置いておくね。温かいうちに食べて、食べ終わったら元の位置に置いててくれればいいから」


 いらないと言いたかったが、嗚咽を走らせるばかりで声は出ない。

 結局、3年間何も変わっていない。変えられていない。


「それじゃあ、また明日ね」


 イオルノは長く話すことはなく早々に立ち去った。ありがたい、これ以上嗚咽を堪えるのは厳しかった。

 明日も学校だ、つまらない日常へ逆戻り。


「休もうかな」


 無意識のうちにそんな考えを抱いてしまった。








 午後8時、同日。

 食事を済ませた寮生は、イオルノ、ジンは食器洗いを。その他のメンバー、アイシャとニーナを除いて談話室で会話していた。


「あれどうなったの、喧嘩?」


 クルルが聞いていいものかと険しい顔をしてエレニアに尋ねる。彼女はソファに腰を下ろし、体操座りをしながらプリンを頬張っていた。


「わからないですけど、喧嘩なんじゃないですかね」


 口をもぐもぐさせながら彼女はそういう。クルルが「リックは何か知らないの?」と聞くと、彼は考えながらこういった。


「俺のせいかもしれない、放課後彼女に少し助言をしたんだけど。うまくいかなかったのかな」

「最初はまだ普通の痴話げんか?だったんですけど、途中からニーナがめちゃくちゃ怒って収拾つかなくなったって感じです」

「ニーナさんが怒るって相当ね」


 エミリーは縫物をしながらソファに座り言葉をはさむ。

 それぞれがソファに座っているが、そのどれもがどういう解決方法があるのか模索しているようで、あまり会話は弾まない。食堂ではニーナに気を使ってジンとイオルノが盛り上げてくれていたが、実際今日はお葬式のような雰囲気だ。


「でも、やっぱり当人同士で話すほかないんじゃないかな。一度ニーナさんにも話を聞いてみたほうがよさそうだし」


 ファドリックがそう声に出すと、クルルも「同意」といって手を上げる。

 そのほかの人間もあらかた彼に賛同した。


「というか、そのクレーシアって子かなり悪い子なの? ファナレクト家の人なのよね?」


 エミリーがエレニアに向かってそう質問する。エレニアは苦い顔をしながら彼の話を持ち出すと、早々に悪口大会のようになってしまった。クルルが途中でこう言葉をはさんだ。


「そんなに嫌いなんだね、エレニアさんは・・・」

「嫌いというか、同じクラスということだけでも嫌ですね」

「でもファナレクト家といえばあまりいい噂をきかないな。それもこれも長男のジャックスのせいなんだけど」


 ファドリックが暗いテンションでその人間の名前を口にする。


 ジャックス・ファナレクト。現在は5年生で上級貴族の身である彼は元から実技と座学に関しては好成績を残していた。が、他校との暴力事件や学校内での人間関係のトラブルの多さ、そして悪い噂の30以上が事実であるという問題から停学処分を食らうことも多い問題児だ。


 そんな彼だが才能自体は敬意を表するもので、スポーツも万能で社交性もありコミュニケーション能力も豊かだ。そんな彼がどうしてここまで学校に居座り続けているのか。

 それは貴族であるから、一択に限る。


 ハープネスは一部の上級貴族から支援金という形で助力してもらっている立場だ。そしてファナレクトはその出資先のメイン。毎年運営にかかわる5分の1を出資されている。なので。ジャックスの素行を見て見ぬふりをするしかない、というのが現状になってしまっている。


 彼も3年ほど前までは善良な生徒だったらしいが、ある2年前の事件で一変してしまったらしい。


「その事件って何なんですか?」

「そうか、今の新入生は知らないのか。表沙汰にはされなかった事件だからな・・・」


 ファドリックはクルルとエミリーを交互に見回していき、何かの合図をとる。


「これは学園外には持ち出さないでほしいことなんだけど」


 という前置きをして、彼は語った。


 2年前、いわゆる校内事件と言われている事件が起こったのは12月だった。

 当時の生徒会長だった生徒が何者かによって殺害、そしてその遺体をアリーナの舞台上に磔にされた事件。当時は星降祭という校内の大規模季節イベントが執り行われており、その一大イベントの催しとしてアリーナの舞台を借りた天体観測をするものがあった。


 そこで当時の生徒会は出し物としてアリーナの舞台下から上昇リフト装置を使ったキャンプファイヤーを行うのが伝統だった。大規模な装置に加え、大掛かりな準備が必要だが、これがあっての星降祭というものだった。


 だが、キャンプファイヤーの中に当時の生徒会長が監禁されていた。木製の棺桶のようなものがありその周りに薪をくべ、観客からはわからないようにしていた。そのまま火がつけられ、事態に気づいた生徒会メンバー、当時の教師陣がすぐに消化し中を確認したが、すでに灰となっていた生徒会長らしき人物の遺骨があった。


 当時は事故とされていたが、調査の末殺人と断定され、その翌年5月に犯人であったある宗教教団であった男が捕縛された。


 以降、これは校内事件として在校生を震え上がらせ、類を見ない傷跡を残した。


「宗教って部外者ってことですよね・・・?どうやってそんな真似を」


「わからない。とりあえず、それがあってからだな。ジャックスの様子が変わったのは。多分、相当生徒会長と仲良くしてたから、かなりショックなんだろうな」


 ファドリックはカーテンを閉めるついでに外の様子を見るようにして伺う。特に外には何もないはずだが、チラチラと外を確認する。


「ちなみに、当時の生徒会長って誰の事なんですか?」


「名前、気になるか。多分知らないだろうけど」


 振り返りざまにファドリックはそう聞き返し、再度ソファに腰を下ろした。


「はい、一応」


「ヴィアトリクス・シャルロードだよ」


 刹那、扉から声がしてエレニアは飛び上がる。


 顔だけのぞかせているのはジルバレンだった。食器洗いが終わったのか汗をかいた様子でこちらを見ていた。


「え?! 今の会長も同じ名前ですよね・・・? もしかして今の会長って幽霊かなにかなんですか!?」

「馬鹿ジン!!一年生を怖がらせるんじゃない」


 ジルバレンの後方からイオルノの声がして彼の頭にげんこつが落ちる。

「いた!?」という声とともに彼は再び食堂に消えていった。


「悪いな、あいつの面白くもない冗談だ」

「あれどうにかならないのかなぁ? 僕たちはいいとして一年生にまで悪い影響与えそうで怖いんだけど」

「同感ね」


 ファドリック、クルル、エミリーの順に悪口を言われる彼。かわいそうだが自業自得だ。


「生徒会長の名前だね。当時5年生だったフレリア。フルネームはフレリア・ダズリーンだったか。正義感が強くて、立派な人だったよ。本当に残念だった」


 クルルが代わりにこたえてくれて、エレニアは聞いてもなおやはり知らない人物だったみたいでパッとしない顔を浮かべる。


「本当にいい子だった。昔から明るくて、ほんとうに、いなくなってしまったのが残念でならない」


 妙な言い回しをするファドリック、彼は顔を俯かせて一人でそう嘆いた。




























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