32話 葛藤する幼き子
4月27日、16時半。中央区付近。
私、アンジェリーナはある人を探していた。
友達のソフィリアという女の子だ。彼女は中学時代からの知り合いで、この学校に入学したあたりから交流が増えてきた。
交流が増えたのはいいのだが、最近は少し様子がおかしい。
私が話しかけても以前のような彼女らしい反応がない。いつもはおどおど?しながらも懸命に私との会話に参加してくれていた。だけど今はそもそもあまり会話をしてくれないというか、避けられているような気がしてならない。
気のせいならいいけど、今日だって放課後すぐにいなくなるし、夕食だってクルル先輩に直接行って自分だけ自室で食べてるみたいだ。
彼女から交流を避けているとしか、思えない。
『ソフィリア? 別に普通だと思うよ? 少なくとも私はなんともないけど、喧嘩でもしたの? ていうか、クラブ抜けてから放課後暇でさぁ。ニーナどっか暇つぶせるところしらない?』
エレニアにはそう聞いて心当たりはないとのことだったが。彼女に対してはいつもどおり接しているらしい。だけど私とエレニアが二人で話しているところに彼女が来ることはない。前までならそんなこと、なかったのに。
「やっぱり何かしちゃったのかなぁ、あたし」
「どうしたのニーナ、こんなところで」
中央区の大階段の隅っこでため息をついていると、後ろから男から声を掛けられる。
ナンパかと思って振り返ったが、寮の先輩のフィリックだった。この男は公園で風紀執行部に取り押さえられていたので第一印象こそ最悪なものの、この二週間近くですごく優しく親身な先輩だということはわかった。
「リック先輩」
「いつものコンビじゃないね、喧嘩でもした?」
「ああぁ、やっぱり先輩もそう思いますか・・・」
私自身喧嘩したなんて感覚ない。喧嘩なんて生まれてしたことないし、仕方だってわからない。もちろん喧嘩したとして仲直りの仕方も。大体喧嘩したことになっているのも少し納得がいかない。なぜあの子は何も言ってくれないのか、よくわからないでいる。
「ニーナの場合だと行き違い系だと思うけどね」
「行き違いなんですかね、ソフィちゃん何も話してくれないからわからないんです」
クレドのこともそうだったけどあの子は色々考えすぎな節がある。
それをコンプレックスにしていたことも最近知ったばかりだ。ましてやそれも自分からではなく私の誘導的な質問で答えたようなものだし。
あまりに感情を出してくれないので、流石に今の状態がどうなっているのか把握できないのだ。
「ちゃんと話したの?」
「いえ」
「どうして?」
「話してくれないですから」
「それは本人から直接聞いたの?話したくないって」
「そういうわけじゃありませんけど。避けられてるので」
「避けてるから、ニーナはもういいかってなってるってことか」
「そういう言い方は嫌です。私だってあの子と仲良くしたい気持ちはありますから」
顔をゆがめる私を見ても先輩の質問は止まることを知らない。
「だったら言えばよくない? 仲良くしたいって本人に」
「先輩はわからないですよ、女の子同士のことなんて。色々あるんですから」
「それを言うのは卑怯だと思うな」
「何がですか?」
私は思わずイライラしてそう聞き返してしまった。歪み切った私の目に映ったのは、いつもの先輩だ。ニコッと笑い安心感を与えてくる表情。
「ニーナは相手がソフィリアだから仲良くしていたんでしょ? それとも別の理由で仲良くしてたの? 彼女が孤立してしまうんじゃないかとか、または別の何かの理由で」
「・・・!!」
なんで、私が逃げていた理由を当ててくるのか。この先輩はなぜこうも笑ってずかずかと人の心に入ってこれるのか。
「それは・・・」
即答できないでいる自分に嫌気がさす。
いつだって私には友達がいて、喧嘩なんてする子もいなかったし、話ができないような子もいなかった。相手の気持ちがわからないときなんてなかったのに。
今は自分の気持ちがわからないでいる。どうして私がここまで彼女にこだわるのか。
「同情?」
「っ! それは違います!!」
「なんで言い切れるんだ? わからないんだよね」
「それは・・・。でも、可哀そうだなんて思って私はあの子と接していたわけじゃ・・・」
同情? ずっとあの子を見てきた、席の後ろからずっと。一人だった。一人で寝たふりして、彼女が興味ありそうな会話を後ろでしていたけど、結局あの子から話してくれることはなかった。
クレドだから、私はあの子に《《かまってあげてるのか》》? そんなはずない、そんな腹黒い人間になった覚えないよ。あの子の事を、私は知りたいと思って、私は—。
「ニーナさんから彼女に向かって、彼女のことを聞くことはあったの?」
「・・・え?」
「彼女の好きな食べ物、趣味、性格、得意科目、苦手な食べ物、嫌な動物、嫌いな科目、今までの人生、生きてきた中で彼女が何を想って何を感じていたのか。ソフィリアという人間が何に感動して何に怒るのか。君はあの子に対して何かしてあげたのかい? 与えてあげた?」
「・・・私があの子に対して・・・?」
『わたしは・・・、多分入らないです』
『なんで?』
『なんとなくです』
『そっかぁ。自由だしね、ソフィリアさん頭いいし、勉強とかに充てたいもんね』
『なんか、ソフィちゃんの事段々わかってきた気がする』
『そうですか?』
クラブの事で話した二週間前の会話。
あの子がクラブに入りたくない理由、聞かなかったな。なんでだろう、興味がなかったから?
私の中の感情が複雑化した。何が正しい思いで、何が正しい感情なのか。
「それも含めて話してみたほうがいいじゃないか? あの子と」
「そう、かもしれませんね・・・」
色々と考えすぎて頭が混乱してきた。もう色々とどうでもよくなってきた。
私という人間は、どこに真があるんだろうか?
「ここからだと思うよ俺は」
ふと、彼は優しい声音でそうつぶやく。
顔を上げると、いつもの笑みを浮かべた顔。だけど、その表情はいつもになく真剣に見えた。
「ここで自分の感情を交錯させて、彼女に向き合ってみてそこで初めてお互いの感情が交差するんじゃないかな。俺も一人前に何が正しいかなんてわからないけど、先輩から言わせてもらえれば、向き合うことから逃げないことが、この学園で這い上がる理屈の一つに入ってくると思うよ」
彼は言う。逃げるなと、逃げず向き合うことで真の人間の価値は生まれると。
どうしてここまで彼は強いのだろうか、わからないけど。
「やってみます。成功するかわからないけど、ソフィちゃんと一度話してみます」
「それがいいと思う。なに、失敗してもB寮のみんながいるさ。喧嘩したらそれはそれでビッグイベントだな!」
「その言葉は余計ですけど・・・」
だけどその言葉で私の肩の荷も下りた気がする。重く考えていたことも、こうやって吐き出してみるとそんなに思い詰めることでもないのかもしれない。
「ありがとうございました! 私、やってみます」
「うん、じゃあ気を付けて。俺はまだやることあるから帰れないけど、今日の夕飯はソフィリアさんも一緒に食べよう」
「はい!!」
私は一目散に大階段を駆け下りていく。
きっとこれが私のこの学校に入っての初めての挫折になるかもしれない。
だけど、ソフィちゃんが入学初日に勇気を出して私に言ってくれたように、私も彼女に対して言わなければならない。
私は、あの子の友達なんだと。
「リック、少し言葉強すぎない?」
「そうか? 俺はいつもこんな感じだと思うけどな。こいつ時々マジで怖いときあるもん」
イオルノ、ジルが階段の踊り場下から顔を出す。彼女の足音はもう彼方まで走り去ったようだから、見つかる心配もない。
「でも、ごめんね? リック。嫌われ役みたいになっちゃって」
「いいさ、これも一年生、B寮のためだ。あとはもう、彼女たち次第だな」
失敗しても俺たちがいる。それは紛れもない事実だ。
あの時の俺たちみたいに、きっと彼女たちもぶつかって解決するはずだ。
そうですよね、フレリアさん。




