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28話 裏の勧誘

「ニーナさんはクラブとかには入られないんですか?」


「うーん、入ろうとは思ってるんだけどね。一旦全部のクラブ見てから決めようかなって。一応体験クラブは今月末までだから余裕あるし」


「全部って、37のクラブ全部ですか・・・?」


「? そうだけど、だめ?」


 そう首をかしげるニーナだったが、ソフィリアは「そういうわけではないですが」と言葉を添える。


 基本ソフィリアは彼女と一日中行動を共にしているわけではない。入学式以降、移動授業の際は一緒に行動はするし、ランチや昼休みの時間なども基本ともにいる。放課後も寮が一緒な関係で帰ることも多い。


 だが、それ以外の時間にクラブの体験入部をしているとなってくると、彼女の時間はソフィリアとは違い無限にあるのではと錯覚する。どれだけ体力お化けなのか、この子は・・・。


「太陽神ニーナ。恐ろしい・・・」


「なんかすごく不名誉な名前つけられてる気がする・・・。ソフィちゃんはどうするの?クラブ」


「わたしは・・・、多分入らないです」


「なんで?」


 食い気味にそう質問してくる彼女の瞳の中に、ソフィリアの困惑した表情が映りこむ。


 入りたくないわけじゃない。だけどこんな人付き合いが苦手な人間を迎えてくれるところなんてないだろう。そんな先入観で、ソフィリアは答えていた。こんなネガティブな理由で彼女が納得するはずはなく、理由を聞かれたところで別の理由を答えられる余裕はソフィリアにはなかった。


「なんとなくです」


「そっかぁ。自由だしね、ソフィリアさん頭いいし、勉強とかに充てたいもんね」


 ポジティブにそう解釈をしてくれたニーナに、ソフィリアは廊下を歩きながら首を思い切り縦に振り回す。その大げさなアクションにニーナは笑みを浮かべてこう言った。


「なんか、ソフィちゃんの事段々わかってきた気がする」


「そうですか?」


「うん、ちょっと変なところあるけど」


「う」


 先ほどエレニアにおかしい人呼ばわりされただけに、このタイミングでのニーナからの変な人認定は少しだけ傷ついた。別に気にはしないが、それよりもソフィリアは自分といてニーナは本当にいいのかという気持ちで胸がいっぱいだった。


「冗談冗談。そんな顔しないで、嘘だから!それに私こうやって放課後ソフィちゃんとブラブラしてるの結構好きだし」


「お気遣いいただきありがとうございます・・・」


「ああぁ、今日ケーキおごるから許して?」


「・・・・はい」


 多分寮での夕食に今日はケーキが出るというエレニア情報を前提とした提案なのだろう。いらないと言いたかったが、ケーキ二個という誘惑に勝てず、うなづいてしまったソフィリアは後になって後悔した。


「これからどうする?もう帰る?」


「この時間帯って、だれが寮にいましたっけ」


「えーっと、ジル先輩かな?」

 

 ジルバレンは、寮の生徒の中でも変人よりな人間とソフィリアは認識している。エレニアの次に挙動が予測できないので、ソフィリアは彼がいる日は基本森をうろつくか自室に閉じこもる日々を送っていた。


「帰りたくないです」


「そんなにイヤ・・・!?結構いい人だよ・・・?話してみたら」


「話すことができないので・・・」


 その言葉で妙に納得してしまったニーナ。それ以上彼について言うことはなく、中央区につながる連絡橋を歩く二人。


 その角にある階段、そこに何かを探すように踊り場にひざまずいている先生がいた。


「アローラ先生、そんなところで何をしているんですか?」


「びっくりさせないでくれよ・・・。いや、ちょっと探し物をね」


 よほど驚かせてしまったのか、汗もかいているアローラが立ち上がり、汗をぬぐいながらそう言って顔を上げる。


「君たちは帰るところか?」


「はい、そうです。大丈夫ですか?すごい汗ですけど」


「え、ああぁ問題ないよ。学校には慣れてきたか?ローズ先生が担任なら間違いないだろう」


 話題の切り替え方にコミュ力の高さが伺えるアローラ。汗を拭きながらも生徒に心配を掛けまいとわざと元気よく接してくれているようだ。その意図をニーナは察したあとに、ニコっと笑いこう返答する。


「すごく厳しいですけど、いい先生だと思います。授業もわかりやすいですし、今日だって中学校の時に習った分野の復習だったんですけど、唯一理解できなかったマナ原子の因子理論の数式がやっと今日理解できました」


「そりゃすごい。因子理論はかなり難しい分野で専門性も高いからな。俺も昔は苦しんだ記憶が強くてトラウマだ。今も教える身になって理論数式の応用を勉強しなおす時間が増えて、ひーひー言ってるよ」


 テンポの良い会話が踊り場で繰り広げられる。理解の域を超えたコミュ力の二人を見て、ソフィリアは立ち尽くすほかなかった。だが、流石の先生といったところか、ニーナだけでなくきちんとソフィリアに対しても話題を振り、孤立させないように働きかけていた。


「ソフィリアだったよな?君は座学一位で入学したと聞いてるけど、よほど頭がいいんだな」


「え!?ソフィちゃんそんなに頭よかったの?!」


 アローラの告発により、ついにニーナにばれてしまった自頭の良さ。元の学校では成績順で公式に張り出されることもなかった。そしてソフィリアも勉強ができることを自慢なんてするはずがないので、ずっと成績がトップだったことは自分だけが知る秘匿事項だった。何よりも話す相手もいないし、入学してニーナに話す機会もなかったのでこの場で彼女は驚くはめになってしまったわけだ。


「すみません」


 なぜか謝罪を行うソフィリアに、アローラは笑いながら指摘をする。


「なんで謝るんだよ。頭がいいのはソフィリアの魅力だからな、胸を張っていいんだぞ?」


「言ってくれればよかったのにぃ。今度勉強教えてね、ぜったい!」


「は、はい」


 目が回りそうになっているソフィリア。しかし、すぐにまたもアローラは話題を変えて話し始める。このテンポの良さは会話に慣れていないソフィリアにとってまさに試練。そこからは傍観者として君臨するほかなかった。


「ところでな、お前たちと仲のいいエレニアがうちのクラブによく顔出してるんだ」


「エレニアがですか?てことはアローラ先生って魔法薬学の顧問なんですね」


「そうだよ?知らなかったのかい?ひどいなぁ。これでも授業のレクリエーションで強調してアピールしてたんだけどなぁ。人員確保するために」


「それ、タブー行為じゃないですか?」


「あ、今の聞かなかったことにしてくれ・・・。また校長に怒られちゃうから」


「了解です、おっちょこちょいなんですね、アローラ先生って」


「そういうこと言うか?よく言われるんだからよしてくれよ・・・!」


 消えたい・・・・、二人の会話を邪魔しないようにだけ徹するソフィリアは、一瞬の気持ちに負けてそんなことを願ってしまった。


「話が脱線してしまったな・・・。すまん、そうエレニアがよく来てて二人は彼女と仲いいだろ?よかったら君たちにも来てほしいなって。いやならもちろんいいんだけどさ。魔法薬学は学んでいれば将来の仕事にもいい影響を与えてくれるし、しかも今世紀の大発明になるかもしれない特薬を開発中なんだ。五年生が中心で開発してるから補助という形にはなるが、ぜひ・・・」


 ニーナは真剣に話を聞いているが、横のソフィリアに至っては居心地が悪そうな、暗い表情をしている。その理由は二人の邪魔をしないようにという彼女なりの配慮の形ではあったが、彼からすればつまらない話に付き合わせてしまっていると感じて、早々に話を切り上げる。


「すまない、こういった勧誘もNGだったことを忘れて熱弁してしまった・・・。まぁ、気になったら西区の校舎の二階にある第二薬学研究室で毎日活動してるから、ってこれも勧誘になるのか???あーもうよくわかんなくなってきた」


「あはははは、いいですよ。ちょうど二人とも暇だったんで。いいよね?ソフィちゃん」

「え、あ、は、はい。はい大丈夫、です」



 まさかニーナから承諾するとは思っていなかったので、そう言われて思わず了承してしまう。正直そんな上級生のいる異世界には行きたくないのだが・・・・。言ってしまった手前、もう断ることはできなさそうだ。


「ありがとう!君たちが来てくれればエレニアもきっと喜ぶだろうね。俺はこれから用事があるからいっしょに行けないけど、部長には俺から話を通しておくよ。それじゃあまた授業でな!」


 満面の笑みを浮かべながら彼は階段を駆け上がっていく。連絡橋へは行かず、中央区の上に用事があったのか、一気に立ち去ってしまいすぐに姿は見えなくなってしまった。


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