27話 サボりたい理由
ローズが授業を進める中も、ソフィリアの頭の中は選択科目の授業をどうしたらいいものかという考えでいっぱいだった。
授業は中学の復習の最中で、座学だけは得意としているソフィリアは聞かずともすべて頭に入っている。ニーナはかなり真剣に聞いており、ローズの言葉の一つ一つのポイントを的確にくみ取りノートに板書する。一方のエレニアに関しては机に突っ伏し寝ていた。ソフィリアが中学時代に乱用していた寝たふりをして休み時間をやり過ごしていたものとは違い、確実に睡眠を目的としたものだった。
うまいことノートを壁のようにして立てかけ、ローズからは見えないようにして寝ている。その器用さはどこか羨ましくもあるが、ソフィリアは特に起こそうという意識もなく思考に没頭していた。
壁に目をやりながら考えていると、前方の生徒二人の話声が聞こえてくる。盗み聞きに幾らかスキルを割り当てているソフィリアは、片耳だけ彼らの会話を得ようと聞き耳を立てる。
「いよいよ二週間後だな、技能試験。なんか対策したか?」
「いや、まぁ成績には響かないらしいし、大丈夫じゃない?それに魔法行使の適性調べるだけらしいから別に気張る必要もないだろ」
「そうなのかなぁ。でもペア組むらしいし適性試験だけでそんなことするか?」
またしても彼女の思考は破壊されることになった。
適性試験?なんだそれは。そんなものスケジュール表にはなかったはずだ。
選択授業に割いていた思考をすべて聞き耳に割り当てて盗み聞きに集中させる。
5月1日午後の授業に、二時間の枠を割いて行われる初回技能試験。一年生の際に初めて行われる要は実力テスト。戦術広場というこの学園の地下にある試験や実技の授業でだけ使われる施設で行われるもので、その結果は成績には影響はしない。基本は担任の先生に一任されるこの試験。ペナルティなどはないものの、その結果に応じてアドバイスや特別課題が与えられた年もあったみたいだ。
普通の生徒ならば、そこまで気負う必要のない簡単なイベントではあるが、ソフィリアにとっては最初の関門と言っても過言ではない。
クレドだということはあらかじめ学校側に申告してこの学園を受験し、奇跡的に合格を果たしてここにいる。だが、それが理由でソフィリアにだけ特別扱いされるなんてことは、この学校の特質上ありえない。それにプライバシーの保護で基本的にこの学園の責任者にしかこの情報は伝えられていないらしい。なので、恐らくローズもこのことを知らないだろう。知っているのは学園長のオルトティアという人物と、あと副校長のローランドやニーナぐらい。あとあの怖い生徒会の人にも教えたか。
(それに二週間後って・・・、最悪前日に三時間ぐらい水風呂に入ってなんとか風邪ひいて病欠ということで欠席にできないかな)
ローズの授業など頭に入らず、ただひたすらにどうすれば明日の試験を免れれるか。この一時間はそれに没頭した。
6限目も終わり、放課後へ。エレニアは睡眠から覚醒し、大きなあくびをしながら背伸びをする。周りの生徒もリュックに教科書類を入れて早々に立ち去る。
ニーナはまださっきの授業の要点をノートに整理しているようで、ノートと変わらずにらめっこをしていた。几帳面な性格だとノートのまとめ方を見るだけでわかる。ポイントの随所随所に後から見ても分かるよう付箋を貼っていたり、色を変えて見やすくしているようだ。
彼女に試験のさぼり方を聞こうとしていたが、流石にそんな真剣な様子を見てしまっては声を掛ける気にもならない。仕方ない、と言ってしまえば失礼かもしれないが、寝起きのエレニアに席を立ち声を掛けた。
「エレニアさん」
「ん?あ、おはよう。いやぁよく寝た」
「来月の技能試験の事ってエレニアさん知ってたり、しますか?」
「技能試験?ああ実力テストの事? もちろん、それがどうかした?」
ここまで来て言おうか言うまいか迷うソフィリアに、怪訝な視線を向けるエレニア。
だが、これはソフィリアにとっての死活問題。はぐらかして後悔するのは自分だ。
「試験を受けずに済む方法って知ってたりしますか」
「つまりさぼるってこと? ソフィリアって案外適当な性格?」
決してだるいから受けたくないというわけではない。受けられるなら受けたい気持ちはあるが、資格が自分にはない。いつの間にかさん付けすらなくなっているエレニアには「そういうわけではないんですけど」と言ってごまかした。
「ペアでって言うことなので足を引っ張ってしまっては申し訳ないなと思いまして・・・」
「ソフィリアっぽいね・・・。うーんでもペアって言っても別にあなたが足を引っ張ったって成績に影響するってわけじゃないし。相方も気にしないと思うけどな」
「ちなみに、試験内容ってどんなことするんでしょうか」
エレニアは右手を顎に添えて考えるしぐさをとる。
「詳しいことはわからないけど、例年通りなら魔法を行使するときに使う魔導輪あるでしょ?あれに使われる輝石ってマナを吸収する特性があるから、その石にどれだけの魔力を込められるかみたいなとか、あと普通に体力テストとか」
体力テストに関しては頑張ればなんとかなりそうで安心する。
ただ魔力込のテストに関しては、こればかりはソフィリアにはどうしようもなさそうで、対策という対策はなさそうだ。この科目だけ免除してもらうか、突然倒れるなどして免れるしかないだろう。
「ちなみに試験は絶対受けなきゃいけないわ。体調不良でも後日別途に試験日を設けられるし、仮病をした生徒もいたみたいだけど、退学になったみたい」
「・・・・・・・なるほど」
「馬鹿よね。期末試験ならいざ知らずこんなところでさぼって退学なんて。折角入学できたのにもったいないわ」
先代の人の気持ちは痛いほどわかります。ご冥福をお祈り申し上げます・・・。
「なんで合掌してるの?」
「過去の偉人に、敬意の気持ちをと・・・」
「なんか、ソフィリアって時々おかしいよね。もともと?」
「なっ・・・」
おかしい人におかしい発言をされ軽くショックを受けるソフィリア。エレニアはその様子を気にかけることなく、リュックを背負い教室を後にしようとする。
「それじゃああたしクラブあるから。先行くね」
「クラブって・・・あのクラブですか?」
「どのクラブのことを言ってるかわからないけど、あたしは魔法化学のクラブに入ろうかなって。先輩たちすごいのよ。普通に学校内で国家勲章物の魔法薬を開発してるのよ!?すごくない?」
「すごい、です」
「でしょ?」
まぶしすぎる瞳をソフィリアに向ける彼女のテンションは今日一高くなる。本当に好きな分野なのだろう、彼女の魔法薬学に対してのモチベーションは目を見張るものがある。その意欲はソフィリアも少し羨ましくもあった。
エレニアの姿が見えなくなることには教室内の生徒も少なくなっていた。唯一男子生徒で名前を知っているクレーシアという男の子もすでに教室内にはいない。彼のことは時々エレニアから愚痴のように悪口を聞いていた。
入学式でのことや、教室での態度、授業でペアを組んでしまったときのクレーシアの物言いにはかなり腹を立てていた。「あんたそんなんだから兄貴に追いつけないんじゃないの?」とエレニアが喧嘩を売ったときにはちょっとした口論へと発展してしまい、ローズを召喚することになったときもある。あの時は流石に肝を冷やした。
いつのまにかノートとのにらめっこをやめて身支度していたニーナは、机にリュックを置いてソフィリアに声を掛ける。
「おまたせ、ソフィちゃん。ごめんね?待たせちゃって」
「いいんです、どうせ暇なので」
「エレニアは?」
「クラブに行かれました」
「ああ例の、いいよねクラブ。いこっか」
そう言ってニーナはリュックをさっと背負い二人は教室を後にした。




