26話 思いがけない試練
「選択授業何にするか決めた?」
エレニアの楽しそうに質問する声が横から聞こえてくる、その質問は恐らく自分に向けられているものだと思ったソフィリアは顔を向けて反応する。
「いえ、まだなにも」
「あたし?あたしは魔法治癒と魔法化学は必修にするかなぁ」
「そう、なんですね」
「え、決めた理由?それはだって魔法化学の担任のアローラ先生めっちゃイケメンだから。魔法治癒は変な老人だから嫌だけど、治癒術専門を極めたいからね」
「あの、わたしなにも聞いてないんですけど・・・」
「え?」
「・・・え?」
「アローラ先生のどこがいいかって?それはあのさらさらな髪とか身長高いところとか―」
「・・・・ううぅ」
エレニアの暴走にソフィリアは目をつむる。なぜなら泣きそうになったからだ。
変な人とは思っていたが、寮で一緒に暮らすようになってから、片鱗だけ見えていたものが全貌まで見えるようになり、ソフィリアは彼女のペースを完全につかめずにいた。ニーナが彼女の親しくしている以上エレニアとの友好関係は必然的。黙っていればかわいいのに、とソフィリアは心の中でつぶやく。
「エレニアちゃん、ソフィちゃん困ってるから」
「あ、ごめん」
「大丈夫です」
ニーナのフォローによりエレニアの蜘蛛の巣から放たれたソフィリアは、一切顔を合わせることなく、うつむいたままそう言う。
4月13日、14時56分。6限目が始まるまで4分を切り、三人は最奥の右側の机に並んで座り談笑していた。教卓から見て右からソフィリア、ニーナ、エレニアに並ぶ。
この一週間であらかた各授業のレクリエーションも終わり、選択授業の選定が終わりかける生徒が増えてきたころ合い。多くの生徒はこの学校へ来た理由として学びたい学問がある生徒が大多数なため、教室内の会話を聞いていてもすでに決めた生徒も少なくない。ソフィリアのようにここまで迷っている生徒も稀だろう。
基本は座学部門と実技部門の授業に分かれる。座学は大体ソフィリアも受けたいものは決めている。エレニアではないが、魔法化学は絶対受けるつもりだ。魔法行使をできずとも化学となれば道具を使っての実験や補助などもできる。将来的にも就けない職ではないので学んでおいて損はない。
問題は実技。実技の授業は大まかに分けて体術と行使術の鍛錬、そして先ほどエレニアが言っていた治癒術の三つに分けられる。一見魔法を行使する行使術と治癒術は似ているが、実際は結構違うみたいで。行使術と体術を担当しているローズがこう授業で話していた。
「実技に関しては慎重に選べ、俺が担当している体術と行使術は基本的に日常生活で使う便利魔法から、相手を行動不能にもできる攻撃魔法、命を守る防衛魔法を教える。別の科目である治癒術に関しては俺は専門外だ。なので、治癒術の道を究めたいやつは、魔法治癒術の科目を受けることだな。行使術と治癒術は全く異なる科目だから気を付けておけ」
昨日の五限目だったからあまり覚えてはいないが、そんなことを言っていた気がする。
体術ならまだしも行使術となればソフィリアは完全にお手上げだ。受けないという選択肢もあるが、一人だけそんな行動をとればかなり悪目立ちしてしまう。この学校の生徒は流動的な人間が多いだろうから、座学しか受けない生徒など目の敵にされかねない・・・。
「どどどどどどうしよう・・・・。どうすれば・・・・」
「ソフィちゃん?な、なんでそんな壁を見つめながら頭を打ち付けているの・・・?」
「はっ・・・、すみません。少しめまいが」
「それは多分頭を打ち付けていたからだと思うけど・・・大丈夫?」
ニーナが天使のような微笑みでそう心配そうに気にかけてくれる。ソフィリアは大丈夫ですとしか言うことができず、そのままうつ向いてしまう。
「きっとソフィも受けたい授業が多すぎて混乱してるんだよ」
エレニアが身を乗り出してニーナの肩辺りから顔をソフィリアに向けてのぞかせる。それを横目でソフィリアは見てみるが、さっきの会話がトラウマとなり目が合わせられない。
授業が始まるまで二人はそのまま世間話みたいなものをして過ごしていた。その間ソフィリアは会話には参加することはなく、真面目に授業について考えていた。
実際問題、実技に関しては拒否という形をとるようにしようという結論に至る。だって魔法が使えないのであれば無理なのだから。しょうがない。人には得意不得意がある。それをきちんと見極めてこそのハープネスに通う人間と言える。私は座学で入学したのだから、実技になんて頼らなくても卒業できる。そうだ。きっと大丈夫。
この時、ソフィリアは珍しく自信に満ちていた。
「えー、先日話していた選択授業の締め切りは来週中だ。まぁ大半の生徒は出しているが、まだ出していない奴もそいつらと意見交換とかしろよー。あと、いないとは思うが座学実技両方必修科目だから、座学だけもしくは実技だけは選択不可だからな」
6限目が始まり五分程度、ローズが教室の教卓に立ち、そう語る。
!!!!!!!!!?????????????????????????
ソフィリアの思考が完全に破壊された瞬間だった。




