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23話 晩餐

 恐らく夢を見ていた。曖昧な表現なのは自分の視点の映像ではなく誰かが何かをしている光景を見ている夢だったからだ。


 姉妹らしき人物たちが泣きながらなにか話している。それらがどんなことを言っているのか聞き取ることはできなかったが、その一人は今にも死にそうなくらいの量の血を出していたのが印象的だった。


 何かを手に取り、妹らしき人物に渡す。アクセサリー品だろうか。それを受けとった女性は、泣き崩れ、そこで夢は終わった。


「*******、だから・・・***」


 聞き取れない、どうしても。何かすごく大事なことを言ってるんじゃないのかと不安になり聞き取ろうとするが、かなわない。


 聞き取れなかった言葉が、覚醒するまでの時間も脳をぐるぐると回る。

 なんて言っていたの?そう聞きたいが、夢には戻れない。


「ソフィちゃん?起きて、ご飯だって」

「・・・・・お姉ちゃん?」

「なに寝ぼけてるの。私だよ、アンジェリーナ」

「・・・・ニーナさん・・・すみません」

「ソフィちゃんの寝起きってそんななのね。ちょっと新鮮かも」


 変わらずニコニコと笑う彼女は「みんな待ってるからね」と言って部屋を後にしてしまった。

 当たりはすでにまっくらで、少し肌寒い。いつの間にか眠ってしまっていたらしく、すっきりとした意識で脳が覚醒を始めていた。


「あ、あとみんな部屋着に着替えてるからソフィちゃんも着替えてきてね」


 顔だけ出してニーナはそう言ってきた。そういう彼女もかわいらしいピンクっぽいパーカーに、短パンという女の子の部屋着らしい格好に変わっていた。裸足で廊下を駆けていく音が部屋の中にまで伝わってくる。


 そうか。ローブのまま寝てしまっていた。制服はしわになってしまい、少し汗臭いかもしれない。部屋の明かりになる魔法器具が壁にあったのでそれを押す。くぼみ式のボタンを押すと、部屋の中は一気にカッと明るくなる。


 ソフィリアはダル気な体を起こして荷物の中をあさる。家から持ってきた下着や部屋着、ある程度の私服の奥に眠る、最大にかわいいと自負している部屋着を用意する。まぁ母親が買ってきたものなのだが・・・。


 ローブを脱ごうとしたときに何かが地面に落ちる音がする。そこに視線を向けると、ブローチらしきものが転げ落ちていた。


「これって。倉庫で間違えて拾ったブローチ・・・。返すの忘れてた・・・」


 青色に光る輝石は相も変わらずきれいに光を吸収して反射していた。

 とりあえずブローチは机に上に置いて、ローブもベッドの上に放り投げる。しわにはならないように全体的に伸ばしておいておく。こうしておけば寝ていたせいでついたしわもなくなるだろうという願いを信じて。


 黒いトップスを羽織り、下は簡単なスウェットに着替えて部屋に出る。

 暗い廊下ではあるが、ほんのり見える広場からの明かりで視界は良好だ。変わらず右の部屋には入室禁止の張り紙だけが張られている。


(早くいかないとハブられてしまう・・・。急がないと)


 焦燥からくる気持ちで自然とソフィリアの足取りは早くなる。軽い駆け足の元急いで食堂へ向かう。大階段を降りると、何かを片手に持ちながら食堂へと向かう人物と目がかち合う。いきなりりの遭遇に耐性のないソフィリアは一瞬硬直する。それを意に介す様子もないその人物、男子生徒は口を開きこう言った。


「みんな、待ってるよ」

「あ、は、はい。今行きます」


 明らかに先輩なのに、はじめましての一言くらい言えばよかったと彼が食堂に消えてから後悔する。もう少しこの階段の隅っこで後悔を繰り返したいところだが、これ以上待たせるのは流石にやばいと思ったソフィリアは、その勢いのまま食堂の扉を開けた。


「あ、こっちこっち!ソフィちゃん!」

 

 扉を開けると中からは大勢の談笑の声とまばゆいほどの明かりが視界に飛び込んでくる。

 大勢と言っても10人もいかない程度の小規模な人数だが、ソフィリアからすると3人を超えてくるとそれは大人数になってくる。


 そして手を振り自分を呼んでくれているニーナの元へ急ぐ。食堂と聞いてもう少し広いかと思っていたが、案外そうでもなく、ひと際大きい長テーブルに椅子を並べて、食卓をかこっているような状態だった。大家族のような家庭だったら毎日こんな光景なのだろう。イメージするとそんな感じだ。


 ニーナが椅子を引いてくれて、そこに座る。長テーブルを上から見て左側、手前からイオルノ、ソフィリア、ニーナ。一番奥に見たことない女の先輩。右手にジルバレン、空席になっていてその奥にまた知らない別の女の先輩がいた。そして、入り口から一番近いテーブルの手前。そこにはあの公園エリアで取り押さえられていた先輩がいた。


「あ、君は執行部の人たちを連れてきた一年生―」

「いえ、すみません何のことだか全く見当がつかないです。人違いかと思われますが」

「え、そうかな?いやでも君のローブほかの一年生と違って印象的だったから覚えて」

「いえ、違うと思います。夕日もかなり照ってましたし気のせいかと」

「そう、かな。そうかもしれないねごめん」

「ソフィちゃんそこまで饒舌に話せるならいつもしたらいいのに・・・・」


 ニーナがあきれ顔でそう言う。


「ちなみに私たちもうフィリック先輩に謝ってるからね?もうばれてるから」


「申し訳ございませんあの時のご無礼をどうかお許しください・・・!なんでも、なんでもしまうので・・・・!どうか」


 ソフィリアは観念したのか、額をテーブルにこすり当て、必死に懇願する。それを見た取り押さえられ先輩ことフィリックは苦笑しながら「大丈夫だから、顔上げてくれよ」と言っていた。が、それがよほど面白かったのかジルバレンが大声を上げてテーブルを叩きながら笑い転げる。


「こいつ、めっちゃ面白いな・・・!夕方にあったときは変な奴かと思ってたけど想像以上だぜ」

「あんたにだけは言われたくないと思うけど」

「エミリは黙ってろ、つか俺は変じゃねぇし!」


 ジルバレンの隣に座る女性、恐らく先輩であるエミリと呼ばれた女性はダル気に彼の問答を受け流し、それを横目に視線はソフィリアのほうへと向ける。


「あたしはエミリー・アリベルル。2年生よ、ソフィリア? だったわよね? これからよろしく」

「は、はい。ソフィリア・アズベルトです・・・。不束者ですがよろしくお願いします」

「いや嫁入りか。確かにジルの言ってる通り面白い子かも」


 ふざけたつもりはないのだが、エミリーも一緒になって笑い始めてしまった。ソフィリアとしては一緒に笑ったほうがいいのか、抗議したほうがいいのかわからず、ただただ気まずそうに苦笑いを浮かべて過ごす。

 そんな中、隣に座っているイオルノが横から言葉をはさむ。


「こらこら、ソフィリアさん困ってるじゃない。ただでさえ初日で緊張してるんだからあんまり意地悪しないで。無視していいからね? ソフィリアさん」

「大丈夫です。お気遣いすみません」

「いいのよ、この寮は変な人多いから。副寮長も含めてね」

「否定はできないけど・・・。本人の前で言うかな」


 副寮長という単語に反応したのは手前に座っていたフィリックだ。頭を掻きながら反論しているようだが、イオルノはあまり相手にしていない。


 話を聞いている限りだと、副寮長はフィリックが任されているらしい。このメンバーの中では頼りになるのだろう。せっかく案内で来てくれていたのにあんなことをしてしまってソフィリアは内心申し訳なく思う。ただあれのおかげでローブについても深く詮索されることもなかったので、ありがたいという気持ちも少なからずあったりする。


「ニーナさん、エレニアさんはどこへ?」


「大浴場に行ったきりで、帰ってこないの。多分そろそろ帰ってくる頃合いだと思うけど」

 空席はおそらくエレニアの席。大浴場を満喫しているのか、よほどのいい施設なのだろう。あとで入るのが少し楽しみになってくるソフィリア。だけど、それとはまた別で、気になっていることがあった。


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