22話 太陽神ニーナ
「ごめんね。変な人で基本あーだからあまり気にしないで」
「はぁ」
ニーナは困惑した顔でそう答える。彼女も彼のペースにはついていけなかったようで疲れた様子を見せた。
「先輩、この談話室では行使術の練習をしてもいいんですか?」
エレニアは間髪入れずそんな訳の分からない質問をする。それに対してイオルノも即答する。
「だめかなぁ、危ないし監督先生もいないから」
「体術とかも」
「だめ」
「じゃあ魔獣をペットとして飼ったりとか、研究とか」
「ダメに決まってるじゃない・・・! え、なにあなたジンの妹かなにかなの?」
「なんでですか? 違いますよ」
今日知り合ったばかりだが、少しだけエレニア・ガーターという少女についての知識がついてきた。基本この子は魔法に対しての興味や、自分が興味をもった分野に対しては饒舌で、疑問も多いが、基本アホなのだ。直接言う度胸はないが、多分結構アホだ。そんな人間にダメもとで治癒術を行使されていたと思うと身の毛がよだつ。
「ちなみに俺の妹は1年C組だから」
「まだいたの?早く自室で待機してて」
「はい」
出ていったはずのジンは扉から顔だけ出してそれを言うとそそくさと1階の自室に戻っていった。怒涛のカオスな出来事にまたもため息をつくイオルノを見て、ニーナはこう提案した。
「少しだけ休まれては?先輩のお体が私たちには一番大事なので、ご無理は禁物かと」
「アンジェリーナちゃん・・・。ありがとう、でも大丈夫、慣れてるから」
慣れているという言葉でソフィリアは妙に納得してしまった。ジルバレンという先輩の言動を見る限りああいったやり取りが日常なのだろう。そしてエレニアがかましたナチュラルクレイジーな言動も彼女にとっては日常。そう言いたげな気がした。
「ソフィリアさんだったよね?」
「は、はい!!!」
突然の呼び出しに彼女の声は裏返ってしまった。ふふと笑いかけるイオルノだったが、逃げ出したい気持ちでソフィリアはつぶされてしまう。
「ソフィリアちゃんは食べ物何が好き?」
「たべもの・・・、大抵なんでもいいですけど、肉系が特に好きですね」
「いいね、肉!今日はかなり大盤振る舞いだから夕飯楽しみにしててね。うちの料理長の腕はすごくいいから」
「料理長まで雇ってるんですか?」
壁の材質を見るため壁に手を当てていたニーナが振り返りざまにそう聞く。
先輩は「料理長って言ったけど、ただの生徒よ」とそれを否定する。
「クルルって2年の子がいるんだけどかなり料理が得意でね、こういう日には腕によりをかけて作ってくれるの。今は買い出しに行ってるはずだからじきに戻ってくるはずよ」
「みなさんいろんな特技があるんですね・・・。私もお手伝いすることがあればなんでもしますね!」
ニーナが元気にそう答えて、エレニアも賛同する。少し遅れてソフィリアもその声に続くが、その声音は小さいものだった。だけど、はっきりわかるくらいにイオルノはソフィリアの声にも反応してくれて、彼女自身安堵する。
「よし、それじゃあお待ちかねのお部屋案内だね。私たち女子組は二階にある部屋を使ってます。今この寮には3人女子がいるから、一年生含んで計6人だね。私が201。後の二人は202と203使ってるから204から206、空いてる個室どこでもいいから好きに使ってね。あと、魔法空便で3人の荷物来てて一応204にまとめておいてるから持っていってくれる?」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」
ニーナは礼儀よくお辞儀をして礼を言う。それに続きエレニアとソフィリアも「ありがとうございます」といった。
「寮長の仕事だから気にしないで、204の鍵はこれね。あと2つの部屋の鍵は中にあるからそれを使って。それじゃあ、私はあのバカ副寮長を連れて帰るから、何かあったら・・・・あー、頼りになるかわからないけどジンに言って。もしなにかされたら、その時は魔法行使していいから」
「どれだけ信用されてないのよ彼・・・」
エレニアも同情を込めてそう憐みをこぼす。その言葉に否定も肯定もせず、あはははと苦笑するイオルノ。彼が昔に何かしたのであろうことは容易に想像できた。
「じゃあ、行ってきます。もうすぐ暗くなるからあまり外に出ちゃだめだからね」
そんな母親身が溢れる言葉を残して、イオルノは屋敷を後にした。
「少し寝たいかも」
エレニアはあくびをしながらそうつぶやく。言われて気づいたが、ソフィリアもかなり眠気が来ていることに気づく。一連の事件があった後、ろくに休んでいない。今までの人生でここまで疲れた1日はなかったのではないかと思うほどに激動の1日だった気がする。あくびにつられてソフィリアもあくびをしてしまう。それをニーナに見られてしまい、ソフィリアは「すみません」となぜか謝る。
「なんで謝るのよ。ソフィちゃんも眠そうだからここで一回解散しようか。とりあえず荷物とるのと部屋決めしよ」
鍵を握りしめ、一番に部屋をでるニーナ。それにエレニア、ソフィリアと続き大階段を昇っていく。
人が3人横に並んで歩ける程度の幅の廊下に入る。左側から201とあり、右から204で始まっていた。ニーナは鍵を穴に差し込み、右に回すとガチャと音を鳴らして扉が開かれる。
中は6畳ほどの広さで、割と寮の寝室にしては広いほうだった。勉強机とベッドがあり、クローゼット、下にはふかふかなじゅうたん。夕日がベッドの上にある窓からこぼれ出ており、かなり雰囲気はいい。
「へぇ、結構広いじゃない」
エレニアは満面の笑みを浮かべながらそう言ってベッドに体を飛び込ませる。若干埃が舞うがそんなことどうでもいいといったようにベッドを堪能する。
「しかもふかふか。外見は論外だけど内装はいい感じね」
「それ先輩には言わないでねエレニアさん・・・・」
苦笑しながらそう指摘するニーナ。エレニアは「わかってるよ」と言いつつも本当に話を聞いているのか心配になるレベルに満喫していた。
入って左のクローゼットの右側。荷物が置ける空間に3つ荷物が丁寧に置かれていた。これが魔法郵便で届いていた3人の荷物だろう。一人だけかなり大きいので、空間ぎりぎりに入っているようだが。
「あたしこの部屋にする」
エレニアが身勝手にもそんなことを言いだし、ニーナは提言する。
「エレニアさん、みんなの意見も聞かないで勝手に決めるのはよくないよ。ちゃんとソフィちゃんの意見も聞かないと」
「わたしは別に・・・。どこでも大丈夫です」
「本当? ならまぁ、いいか」
「やった」
他の部屋も見ていないのに本当にいいのかと思うが、それを言う元気も度胸もないのでそのまま荷物を手に取り扉を開ける。
「ニーナさん」
「なに?ソフィちゃん」
「わたし206号室でもいいですか? 奥のほうがひっそりと暮らせて安心なので」
「理由がかなり悲しいけれど。うん、いいよ。じゃああたしは205号室だね。また夕飯の時に起こしに行くからソフィちゃんも寝てていいからね」
天使のごとく、そう言って送り届けてくれるアンジェリーナ。ソフィリアには彼女の言葉一つ一つがまぶしすぎて目がくらみそうなレベルだった。その輝きは窓から漏れる夕日の光よりも明るく、温かいものだ・・・。本当にまるで太陽のような人間だなと感じる。
「太陽神ニーナよ・・・」
「え、な、なにどうしたの急に。まだ体調悪い・・・? 大丈夫?」
「あ。すみません何でもないです・・・。ソフィリア部屋に戻ります」
少しでもお礼のつもりで言った比喩が完全に滑ったのでそのまま黙って退場する。
廊下を進むとすぐに206号室に到着する。向かいの部屋はもちろん203号室だ。まだ誰もいないのか部屋からは物音ひとつしない。
そして、目に留まったのは206号室の隣、扉に張り紙で大きく「入室禁止」と書かれた部屋が目に入る。
部屋番号は張り紙で見えないが、恐らく207号室なのだろう。なぜこんなことをしているのかわからないが、少し気味が悪かった。なにか吸い込まれるような、少しでも触れればそのまま持っていかれそうな不気味な感覚だ。
「早く、寝よう」
この気持ちは疲れからくるものだと信じて、彼女は部屋に入る。荷物を置き、窓にあるカーテンもすべて締め切る。
ベッドに横になり、ニーナとエレニアの話声が聞こえてきていたが、すぐに意識は虚空に持っていかれ、重い瞼をソフィリアはすぐに閉じてしまった。




