21話 B寮へようこそ!
そこから歩くこと数分。屋敷のような建物が視界に現れる。森のような場所を抜け、ある程度舗装された道は、途中で方角があっているのか心配になるほどの荒れようだった。目の前に広がるその建物も、決して綺麗とは言えな小汚いものでエレニアも本当にここなのかと右往左往していたものだ。
「道間違えた?」
「いえ、あっていると思いますけど・・・」
エレニアの希望的疑問にソフィリアは即答する。道案内をしていた彼女だったが、一番近い1年B組の寮はここしかないのをちゃんと記憶している。ここ以外の近辺に建物らしきものも見受けられないので、ここで間違いないはずなのだが。エレニアはそれを受け入れることを拒み駄々足を踏んであたりを見回す。
「なにかの間違いよね?ここが私たちの寮なんて・・・」
「中はきれいなのかもしれないし、一回入ってみようか・・・」
疑うエレニアの傍で説得をするニーナ。ソフィリアはそれを横目に周りの木々を見渡す。
木々が寮を取り囲むように建てられているその建物は、まるで何かの要塞だ。もちろんコンクリートでできているわけでも、魔法で守られているわけでもないので攻め込まれてでもすれば一瞬で瓦解するだろうが。そんな異質さをこの建物には感じられた。
昨日読んだ資料によれば、この建物はこの学園が創設された数年後に建てられたものらしい。すなわちこの建物は数百年規模でこの場所に立ち続けているというわけで、古臭いのもしょうがないのだ。途中で改装もされているみたいだが、そのぼろさは学園内でも有名らしい。だが、この寮で暮らせば将来有名人になれるというジンクスもあるようで、実際有名人がもともとはB寮生だったという話も聞く。
だけど、このぼろさはかなり想定外だ。
三人で立ち尽くしていると、屋敷の中から声がする。その人物は扉を開けこちらに気づくなり手を振り何かを言っていた。満面の笑みをうかべて手を振っているようだがこちらには何を言っているのかは全く聞こえない。
「何か言ってるけど、近づく?」
「多分悪い人ではないと思うから、私行ってこようか?」
ニーナがそう言い、颯爽と駆けていった。
すごく手を振ってくれているのにこんな問答を続けていることにソフィリアは申し訳なさを覚える。ソフィリアが見知らぬ人に声を掛けるなんて大それたことはできないので、ここは二人に任せることにした。
手を懸命に降っていたのはこの寮の寮長である2年生の先輩だった。名前はイオルノ・レミクという女性だ。茶髪の入った背の高い彼女はいかにもお姉さんといった雰囲気がある。三つ編みの髪を後ろでまとめ、クラウンハーフアップ系の髪型に仕上がっている。その髪型がいかにも先輩といった感じでソフィリアは緊張する。ヴィアトリクスとはまた違う先輩オーラだ。
「よく来てくれました! ここが2年Bと1年Bの共有寮となります。これからよろしくね3人とも!とその前に聞きたいんだけど・・・」
イオルノは眉をひそめて質問する。
「案内係で同じ2年の先輩を送ったんだけど見てない?てっきり一緒に来るものだと思ったから最初入ってきたときにわからなかったんだけど」
「あー、見てないですね」
ニーナがもしやと公園エリアであったことを言おうとすると、エレニアがそう即答する。
ソフィリアは目を右往左往させながらその状況を見守る、ニーナはかなり困惑した表情をしてエレニアの顔を凝視していた。
(このひと平気で嘘つくんだな、怖いな)
ソフィリアは心の中でそう思った。
「そっかぁ。ほんとなにしてんだかあいつは・・・。ごめんね、こんな変なところにあってわかりづらかったよね。あとであいつには罰を与えるので安心してね」
ニーナは今まで見たことないほどに申し訳ないという顔を浮かべていた。エレニアは、なぜかやってやったぜみたいな表情を浮かべ二人のほうへ顔を向けた。ソフィリアは関わりたくない一心で視線を逸らした。
玄関をくぐると、幸いにも内装はかなり綺麗になっていた。玄関の目の前には大階段があり、上の階左右につながる個室廊下へつながるようになっているようだ。大階段の下奥にも同じように廊下へつながっている。恐らく下の階だ男子用、上が女子用なのだろう。上級生と組みわけがされているかはわからないが。
「右にある扉は食堂につながってて、その奥にある地下に行く階段があるんだけど、あそこは大浴場につながるところで」
「大浴場があるんですか!?」
説明を続けるイオルノに反発して声を荒げたのは意外にもニーナだった。目を輝かせて、きらきらとした表情と視線を先輩に注いでいる。そんな後輩にも嫌な顔もすることなく笑顔で彼女は質問した。
「大浴場好きなの?」
「はいとっても!!広い浴槽で足を延ばしてくつろぐのが好きなんです」
「今日はハーブ薬草の入浴剤を入れる予定だから楽しみにしててね」
「本当ですか!?楽しみにしてます!」
この子は本当に世間渡りがうまいなと痛感させられてしまう。初対面の先輩にもこんなかわいい反応を見せられるのだから先輩からすればいとおしいだろうな。ソフィリアはその光景を一番後方で黙って見守る。エレニアはそんなことはどうでもいいのか、内装を勝手に触っていじくりまわしている。
「あんまり変なところは触っちゃだめだからね。エレニアちゃん」
「す、すみません」
「まぁ勝手に触れて怒られるものなんてあまりないけど。危険なものとか、寮に住んでる人の私物もあるかもしれないから気を付けてね」
ニコッと笑うイオルノにさすがのエレニアもふわっとした表情を浮かべる。これは確実に優しい先輩だ。ソフィリアが気を使われてあたふたする光景が目に浮かぶ。
「次は左の部屋だね。こっちは基本的にみんなが使う共有スペース。談話室みたいなところだから自由に使ってね」
中に入るとかなり広い空間が2つあり、正面にある部屋の中央には長いソファが向かい合わせで2つ。赤色のじゅうたんが敷き詰められ、奥には暖炉のようなものもある。ソファには誰かが寝ており、イオルノはため息を吐くとともにその人物の傍まで近づく。
「ジン。今日は新一年生が来るから談話室では寝ないでって言ったじゃない」
「イオ・・・、やべそんな時間かよ。昼からずっと寝てた」
くしゃくしゃの髪を搔きながら体を起こす男子生徒。おそらく彼も二年生なのだろう。青いマントを毛布代わりに使っているようだ。それが起き上がると同時に床に落ちる。
眠気眼をこすりながら立ち上がる。
「俺はジルバレン。こいつと同じ2年Bだ。これからよろしく」
「はい。よろしくお願いします、ジルバレン先輩」
ニーナが開口一番元気よくそういう。ジルバレンはそれを聞いた途端目がくらんだのか、後ずさりし、転倒しそうになる。ニーナが「大丈夫ですか!?」と彼に近寄って心配するが、イオルノのほうは全く彼を心配するそぶりはなく、深くため息をついていた。
その理由はすぐに彼の言葉で判明した。
「先輩・・・・ついに俺も後輩ができたんだな・・・。言い響きだな、先輩って。お前も思うだろイオ」
「さっさと出ていって」
冷たく反応された彼はそのまま何も言うことなく退場した。
また癖のつよい人だなと、ソフィリアは心配になる。あまり個が強いとソフィリアの居場所がなくなるのではないかと心配になるので、これ以上変な人は出てこないでほしいと願うばかりだった。




