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20話 不審者?

 課業後、今日は授業などもなくローズの話が終わるとそのまま解散の段取りとなった。


 ハープネス魔法学園は創設されてから200年以上が経つ歴史ある学園だ。1から6年生の間で魔法の力を培い、それを元に魔法薬学に通ずるものや魔獣の研究にいそしむ人間。また魔獣や魔法を使って悪逆非道の限りを尽くす集団から国を守る防衛省に入りその力を発揮する人間も少なくない。この学園に入学した者たちはどれもそんな「魔法」という分野において最大限自分の力を発揮できる職に就く。


 土地壺は全部で20キロ㎡。何十の施設で構成されたこの学園は巷では小さな要塞ともいわれているほど巨大で強固なもので、侵入者がいようものなら直ちに風紀執行部という攻撃術にたけた生徒たちが集まった組織に屠られる。執行部の生徒たちも学園での地位を築くために実績を上げようと個人が奮闘している、それが風紀執行部という組織の実情だ。


 だから、ソフィリアたち三人が寮に向かっている途中に見かけた執行部による制裁は、あまりの見慣れない光景に唖然とした。


 中央区から出てさらに学園の奥、200メートルほど進んだところに大きな噴水公園エリアがある。芝生に囲まれたその広大な土地で、執行部数人掛かかりがある生徒を取り押さえている途中だった。芝生の上で男子生徒に跨る大柄な男。緑のマントをしているので恐らく三年生だろう。その周りに今にも攻撃魔法を行使できるようにと身構える二年生の生徒たち。


「なにしてるんでしょうか・・・」


 ソフィリアは不安げな声で立ち止まりエレニアに問いかける。彼女はこの学園の組織やルールに対しての知識があるらしく、寮に向かう途中も何かと気になるものがあればニーナが片手間に質問していた。エレニアは「あーあれはね」と、あまり気の進まないような態度でつぶやく。


「風紀執行部の活動だね。多分あの生徒は何かしら悪いことしたんじゃない?それで今取り押さえられてる状況だと思う」


「悪いことって?そんなに重い悪いことしたの?」


 ニーナが食い気味にそう言ってエレニアの顔を伺う。それに嫌がる様子もなく、エレニアもそのまま言葉をつづけた。


「そんな大層なものじゃないわ。どうせいたずらとかカンニングとかしょうもないことよ」


 最後にため息をついてエレニアは足を進めた。それに続くニーナとソフィリア。

 あの執行部の人数の多さには少しソフィリアは違和感を覚えるが、今何か考えてわかることでもないので二人の後について行った。


 夕方に近づき、紅に染まり落ちかけている太陽の光がソフィリアの視界を覆う。その光は影を生み、進む三人の姿を地面に照らす。道を進む人間全員の影ができ、そのどれもが恐らく寮に向かっている者なのだろうと勝手にソフィリアは想像する。

 道はアスファルトで舗装され、ローファーで踏むと心地のいい音がなっている。きちんと整備されているのだろう、この学園のどこを見ても汚いところなんてない。一見するととても平和でなんでもない日常がそこにはある


 だが、ソフィリアは考える。午前にあったこともそうだし、今の公園エリアでの執行部の対応。この学園は平和の裏には何かの存在があるような気がして。今回の件は内密にということがヴィアトリクスの意向だ。彼女もソフィリアに対してそんな申し出をするのは遺憾なのだろうが、立場上仕方ないと言える。第一ソフィリア自身、今回の一件を二人に話すことはしないつもりでいた。信じてもらえるものでもないだろうし、なにより現実味がない。言う理由も今のところはないし、黙っているのが吉と思っていた。


 だからなのか、ニーナにこんな質問をされたときにはかなり返答に困った。


「ソフィちゃんの制服ってなんていうか、少し痛んでるよね」

「え・・・、そうですか?」


「確かにそうかも。私とニーナさんの制服は結構繊維もしっかりしてるけど、ソフィリアさんのはなんかおさがりっぽい感じがする」


 エレニアまでもがニーナの言葉に賛同して慌てふためくソフィリア。

 なぜか返答に困り手を左右に動かすソフィリアに、反応を困らせる二人。立ち止まりさらにはまじまじと制服を見られる。


「よく見たらマントも汚れてる・・・?」


 エレニアは目を細めてソフィリアのマントに近づいてそういう。

 どうにか言い訳を考えていると、道の奥から一つ大きな影が近づき男の声であいさつを掛けられた。


「こんにちわ。君たち新一年生だよね?」

「そうですが、あなたはどなたですか・・・?見たところ二年生とお見受けしますが・・・」


 ニーナは警戒しながらもきちんとした受け答えでそう反応する。


 身長180センチはあるであろうその青年は、青色のマントを羽織いラフなTシャツ一枚という簡素な格好をしていた。ニコッと笑う彼の表情は柔らかい。おでこを広く見せ黒髪を上げているその髪型は清潔感すら感じさせる。それが相まったせいか、逆に警戒してしまう。それをエレニアも感じ取り、少し攻撃的な態度でこう発言する。


「あなた何者?先輩だからってナンパも許されるなんてことないんだけど」

「え、ナンパ?そんなまさか。僕なんかがそんな大層なことできるわけないよ。僕はただ―」

「いやそんな格好の先輩ろくでもない人しかいないでしょ。制服も着こなさない、新入生に平然と声を掛けてくるし名前も明かさない。そんな人不審人物にしか見えないわ」


 そのまま勢いを止めることなくエレニアは彼に詰め寄る。5メートルほど距離をとって話していた彼も接近されるとは思っていなかったようで、一気に詰められた拍子に三歩後ずさる。


「ちょ、ちょっと。僕はただ君たちを―」

「言い訳は無用!ソフィリアさん、公園エリアにいた執行部の人たち連れてきて!不審者がいるって」

「は、はい・・・。わかりました」


 ソフィリアはエレニアにそう指示され喜んで来た道を戻る。なんかよくわからないが制服の話題から話を逸れさせることができたのは幸いだった。不審者では明らかにないであろうあの青年には申し訳ないが、生贄になってもらうしかない。心の中で謝りながらソフィリアは走り去った。


「ちょっと困るよ・・・。前にも執行部にお世話になりかけたところなんだから・・・!」

「ほら見たことか。やっぱり常習犯じゃない、ニーナさん。もし危なくなったら魔法でどうにか逃げて」

「えっと、エレニアさん。多分その人悪い人じゃないと思う」

「いや悪い人でしょどう見ても。こんなちゃらけた格好の人間が普通な人の訳・・・!」

「連れてきました!!!執行部の、方たちです・・・!あ、あの人が不審者です!」


 後方から続々と現れた生徒たちは、執行部の腕章を左腕に掲げ、すでに戦闘態勢に入っていた。


「いやほんと待って!何もしてないし僕はただ寮へ案内しに―」


 彼が何かを言おうとしていた矢先に執行部が彼の元へ覆いかぶさっていく。短い悲鳴と断末魔が聞こえたが、それからは音沙汰が一切なくなってしまった。その光景が地面に映る影になっているが、まるで何かの魔獣のようにそれらはうごめく。


「あとは執行部の人たちに任せていきましょ」


「えーと、大丈夫かしら・・・」


 エレニアがニコニコとほほ笑み歩みを進める中ニーナは執行部に取り押さえられる彼の背中を見て心配そうに見つめる。ソフィリアはただただ次に制服のことを聞かれたらどう言い訳しようということだけしか考えていなかった。



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