19話 フレリア・ダズリーン
「あ。新しい服・・・」
思い出して部屋の奥にかけていくソフィリア。奥の机に綺麗にたたまれているローブと制服があり、それが三セットあった。恐らく一着だけだと今持っている二着のものと違いが出てしまうので、すべて用意してくれたのだろう。となると、渡された新品のローブは倉庫にしまう羽目になってしまう。
「サイズはちょうどよさそう・・・?袖が長いかな・・・。なんか、いいにおいする」
新しいローブを見て嬉々するソフィリア。今着ているローブを脱ごうと羽織っていたロングカーディガンを脱いで机に置く。そのあとにボロボロになったローブを脱いで一旦下着になった。
その時、何かがローブのポケットから落ちる音がした、何かとみると布の袋に入った何かが袋越しから何となくシルエットが出ている。何かの石のような、ひし形のような模様が、袋から浮き出ていた。
この袋は恐らくアリーナ倉庫で本と一緒に棚から落ちてきたものだろう。何かの拍子にポケットに紛れ込んでしまったのだろう。入っていたことにも気づかず、ここまで持ってきてしまったらしい。
「どうしよう・・・。今あそこに戻るわけにもいかないし、もし誰かに知られて退学にでもなったら・・・」
盗難罪に掛けられて母の泣く姿が目に浮かぶ。そんな事態は何が何でも避けなければいけない。とりあえず中身が何かを見るために袋を開けて中を見やる。
のぞくと、青い何かがこちらを見ていた。手に取りだすと、出てきたのは手のひらよりも少し小さいブローチのようなもので、枠ぶちの中に青色の石がはめ込まれている。部屋の明かりに反射して石が綺麗に彼女の瞳に映る。
「綺麗」
ソフィリアは無意識にそうつぶやいていた。
石の中に映る自分の顔が、何かに吸い込まれていきそうな。そんな違和感も覚える。
とにかく、これを返そう。そう思ってソフィリアは一旦机に置く。
次に彼女は与えられたローブに着替えた。着替える際に、ふとローブの襟あたりに名前が書かれてあった。
「フレリア・ダズリーン・・・? 前の持ち主さんかな・・・」
実際に名前があると本当に中古なんだなと感じる。だが、匂いが臭いこともなく、逆にいい香りがするので今は特に気にしないことにする。どこか懐かしい匂いにも思えた。
着こなしてみると、やはり袖は長かったがそれ以外は特にそん色なく、普通に使えそうな代物だった。誰かの使っていたものなので新品のローブとは肌触りが違うが、妙に着心地はよく感じた。
そこでチャイムが鳴る。時計を見ると13時。確か4限目が始まる合図だったと記憶していた。流石に2時間以上姿を消していたので、ニーナが心配しているのではないかと思い立ち、急いで支度する。
机に置いてあったブローチはとりあえずローブの内側にある胸ポケットに放り込み、あとで返却することにした。もともと来ていたカーディガンとローブを手に取り、急いで部屋を後にする。
(どうしよう先生になんて言い訳しよう・・・。でもローズ先生事情知ってるみたいだったから、許してくれるかな?というか今誰が1年Bの担任してるんだろう・・・・。ニーナちゃん心配してくれてるかな・・・、そもそも戻ってこないわたしを見捨てて友達と楽しくしてるんじゃ・・・そして、わたしの居場所はまた無に返るのでは・・・・)
「あがががががががががががががが・・・・・・・・・・」
いつの間にか中央区と一年生棟の間の連絡橋でうずくまっているソフィリア。妄想がこんな時にはかどってしまい、五分ほどここで立ち往生してしまっていた。
すでにあれから時間もたち、今更課業が始まっている今の時点で教室に入るのは至難の業だ。それに加えさっきの妄想のせいで被害が拡大する。
「お前・・・・こんなとこで何やってんだ・・・?」
「今自分の愚かさと未熟さに悲嘆して、死んでます」
中央区のほうから来たのはローズ、ソフィリアの担任だった。恐らく生徒会のメンバーとの話も終わり、課業に復帰できるようになったのだろう。こんなところで出くわすのは不幸かそれとも幸運か。今のソフィリアにはわからなかった。
彼はうずくまるソフィリアの様子を見るためにしゃがむ。彼なりにケガが治っていないのではないかと心配してくれているのだろう。それがわかり、流石のソフィリアも自暴自棄の状態から回復して、勇気を出して彼の顔を見る。
「仮病なら蹴るぞ」
「・・・・・・あがががががががががががが」
「あーもうめんどくせぇな・・・。あれだろ、教室入るの気まずいんだろこの状況で」
まさかの理解者の出現にソフィリアの表情は一気に明るくなる。その移り変わりが唐突すぎて彼も驚いたのか顔が引きつってしまう。
「わかりますか・・・!?」
「わからなくもないが・・・、お前感情の起伏が気持ち悪いほど激しいな」
「すみません」
「事情が事情だ、とりあえず今代わりに見てくれているアローラ先生にはちゃんと気分が悪くなって医務室に行って、そこから今帰ってくることを伝えてる。ほかの生徒もそれを承知だから気にするな」
「わかりました・・・。行きます」
「よし、午前は人生最悪な日だっただろうが、午後はいいものにしよう」
「先生・・・・」
かすかではあるが、ローズの姿が今白馬の王子か何かに見えたのは気のせいだろうか。ソフィリアの理解者がこんなにも近くにいたとは、盲点だったとしか言いようがない。
「行くぞ」
「はい」
勇気を出して足を進める。朝通った連絡橋はあんなにもあっという間だったのに今はかなり長く感じる。それもそうだ、朝は遅刻して早く教室にという状況だったが、今は正直行きたくないという思いが強い。
そしていつの間にか教室の中にいた。意識が妄想世界から狩り戻され、背筋が凍る音がする。いや音はしないな気のせいだそれは。
教室はいつもの、というか朝見た景色と何ら変わらない。しいて言うなら席は自由なので各々勝手に座っていて、朝見た順番とは打って変わっている。やはり多くの人間が分かり合えたのか、二人組や三人組など、すでにグループは分けられているみたいだ。必死にニーナの姿を探す。見つける前に、彼女の右に立っていた先生が声を上げた。
彼のほうを見る、彼は恐らくローズが言っていたアローラだろう。その教師は今朝に見た慌てて廊下を駆けていたセンターパートの先生だった。彼はローズに近寄り、笑みを浮かべてこう話す。
「ローズ先生、今ちょうど話し終えまして。私はこれで失礼しますね」
「助かりました。すみませんね、私も用事が立て込んでて」
明らかに作り笑いのローズの表情を横目にソフィリアはどうしたらいいかわからずただただ立ち尽くす。この謎の時間すごく怖い。みんなが見ている。なんならあの時の彼より酷いかもしれない!なにこれやだ、早く座りたい。
「なにやってんだ、早く友達のところ座れ」
「えっと、どこかなぁ・・・」
自分でも気持ち悪いほどの様子でひたすらにニーナを探す。
いた、右奥から二番目の席にいた。ただ、誰かと楽しく話しているようでソフィリアには目もくれていないようだった。その事実が彼女の胸に深く突き刺さり、意識が吹っ飛びそうになる。
想像していた最悪な状況に今、陥っていたのだ。
「先生」
「ん?なんだ」
「気分が悪いので帰ります」
「なんでだよ」
呆れた顔でそう言うローズ。だが、ソフィリアの心は砕かれる寸前だった。
「あ、ソフィちゃん!!こっちこっち」
奇跡が起きた。右手を大きく上げてソフィリアを呼ぶ声がする。まさしくそれはニーナものもで、満面の笑みでソフィリアに合図を送ってくれている。
「先生!気分良くなったので帰りません」
「蹴るぞクソガキ」
ソフィリアは息を吹き返したように階段を上がりニーナの元へ急いだ。奥にはすでに誰かが座っていたので通路側の席に座る。
(あいつ、シャルロードが命はたいて守る価値があったのか疑問になってきたな)
彼は言葉にせずともそう感じてしまった。




