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18話 本音

 ソフィリアとアルドーラは生徒会執務室を出た後に一階にまで下っていく。

 その間に急いで走っていく生徒たちがいたが、アルドーラがそれらを注意しながら進んでいき、間近で生徒会の仕事を見ることができていることに彼女は感激していた。


 ソフィリアの服装は、今は黒色のロングカーディガンを着せられ、ずたずたに裂かれたローブの上にきているので他の生徒に見られても不審に思われることはない。


(なんであいつ一人だけ違う服着てるのとか思われてないかな。いきってるって思われて目でも付けられたら最悪だな。上級生からそんなことされたらもう生きていく自信ないし)


 だが、目の前に歩く先輩が彼女の安心となっていたことも語らねばなるまい。

 生徒会メンバーである彼女の傍にいれば、ソフィリアがほかの生徒からいじめられることもないだろう。そうなったとしても彼女が止めてくれるはず・・・。その安堵感があったので、ソフィリアはいつもよりも気持ちを楽にすることができていた。


「ここよ、入って」

「あ、ありがとうございます」


 大階段を降りて、階段の下あたりに更衣室があった。ここは女性専用なのか、扉にあるプレートが女性のものだった。


 早速中に入ると、かなり広くロッカーは200以上あり、その間には長い椅子が敷かれ、階段下にあるスペースの部屋とは思えないほどの規模となっていた。


「す、すごい広さですね・・・!こ、ここでなら昼休みにお弁当食べててもばれなさそう」


 ドンッと勢いよく扉が閉められる。その大きな音に驚いたソフィリアは肩をビクッとさせて急いで後ろを振り返る。


 さっきまで優しそうだった先輩の剣幕は微塵もなく、明らかに怒った表情を浮かべていた。

 変わらず胸に大事そうな書類を両手で持ち、扉のほうに背中を預けて立つような姿勢になっていた。まるでソフィリアをここから出さないかのような意図とも取れるその姿勢に、ソフィリアは身の危険を感じた。


(何か怒らせることした・・・!?)


 なんとも言えない空気感の中、沈黙が流れる。

 アルドーラは俯いていた視線をちらっとこちらに向ける、視線が合ってしまったソフィリアは咄嗟にバッと顔を俯ける。


(こ、殺される・・・?!)


 今にも卒倒しそうな気持ちの中、アルドーラの口が開かれて言葉が出る。


「あなた、なんでアリーナ倉庫になんていたの」


「アリーナ、倉庫ってあのおっきなところ、ですか?」


「そう、あなたがいなければ会長の作戦では誰も傷つくことはなかった。倉庫も外側から魔獣を閉じ込める魔法陣を張ってあったから奴らも出てくることなく、入学式が終わった後に生徒会が残りの魔獣を始末する算段だったのに。まぁこれは会長から聞いたものだったけど。というか、あなたよく風紀執行部の見張りをすり抜けて中に入り込めたわね・・・?どんな手を使ったの」


 ソフィリアは真剣に彼女の話を聞いていたが、まったく理解できなかった。魔法陣?見張り? そんものどこを見てもなかったと思うのだが、彼女は何か勘違いしているのかそんな話をソフィリアに淡々と話す。事実と違うところがいくつかあるが、指摘してまた睨まれたら怖いので、ソフィリアはそのまま何も言わずにじっとしている。


「あなた、学校やめたほうがいいわ」


 突然そんなことを言われてソフィリアは硬直してしまう。

 今なんて言われたのかい一瞬理解できなかった。


「な、なんでですか・・・?」

「わかりきってるでしょう、会長の邪魔をして、あなたのせいで二次被害が出るところだったんだから。ここにあなたみたいな人がいても、時間が無駄なだけだわ」

「そ、そんなことは・・・」


 彼女は恐らく、ソフィリアがいたせいで生徒会長の実績が脅かされたことに対して憤っているのだろう。ソフィリアからしてみれば完全に被害者はこちらなので反論する余地は大いにあるが、ソフィリアはそうはせず考える。


 こんなやり方は正直同情を誘うようで嫌だが、今の本音を言うことが一番の策だと思い、彼女はこう口にした。


「私、私は・・・、クレド症です」


「・・・・・そうなの?」


「はい、だから魔獣が目の前に来た時に何もできないまま死ぬんだなって思って、怖いっていうよりも情けないっていう感情のほうが強かったです・・・。でもそんなときに先輩が来てくれて、命を救ってくれました。私は、今までの私を変えたくてここに来ました。魔法が使えない私でもできることがあると、恩人に諭されて」


「でも子供の戯言に付き合ってあげるほどこの世界は甘くない。現実、会長がいなかったらあなたはとっくに死んでる。クレド症のあなたは何もできずにね、そんなあなたが一番この世界の理不尽さに気づいてるはずでしょう」


「だからこそ、抗いたいんです」


「抗う?」


 困惑しているアルドーラは、体ごとソフィリアのほうへ向けた。

 ソフィリアは言葉を必死に選んで口に出そうとする。今朝決めた自分の生き方を、脳裏に思い出すようにして、懸命に言葉にしようと頭と口を働かせる。


「恩人は、魔法が使えない私に勇気をもらったって言ってくれました。だから、今も抗ってます。私でもできることがあるんじゃないかって、逃げないようにって、理不尽なことばかりだけど、逃げちゃダメだって。それを友達と、恩人に気づかされました」


「もういいわ」


 冷たい口調で、アルドーラはこちらに背を向けて扉を開ける。怒らせてしまったかと思いソフィリアは、はっとするが、彼女は立て続けにこう言葉をつづけた。


「奥に会長が用意してるローブがあるから。一応、サイズあってるかも見ておいて」

「あ、ありがとうございます」

「それと」


 立ち止まり、半分体が外に出ている状態で彼女は背中越しでこう言って立ち去って行った。


「さ、さっきは。試すようなこと言ってごめん・・・、応援してるから」

「え?」

「・・・・それだけ!」


 言ってそそくさとアルドーラは更衣室を後にしてしまった。

 一瞬何が起こったのかわからずに途方に暮れるソフィリア。今のは褒められていたのか怒られたのか、慰められたのか・・・、どう解釈をすればいいのかわからない内容に、頭の処理が追い付かない。ただ、変な人だったという印象が彼女の胸には強く残っていた。


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