17話 道しるべ
「行ったな」
ヴィアトリクスは肩をふっと下ろしてソファに座り込む。
それに続くようにアルディオラはヴィアトリクスの向かって右方向にあるソファに腰かけ、深いため息をつく。その隣にマリアが付き、ファドリックはヴィアトリクスに向かって立ったままこう言い放つ。
「会長が謝ることなかったのでは・・・?実際魔獣が学園に現れたのは異例中の異例ですし、それを看過できなかったのは風紀執行部の連中の落ち度ですよ」
「そうだな。だが、結局この学園の総責任は私にある。学園長よりも顔が利くこの学園では、私の放った言葉が学園の道しるべになる。そんな人間が入ってきたばかりの一年生の目のまえで責任転嫁の真似などしてみろ。この学園に入ってきた一年生みな含め、学園生徒全員に申し訳が立たないだろう」
「一理あるかもしれませんが、すべて会長の責任になるのは、納得できません・・・!」
少し怒ったように意見する彼に、ヴィアトリクスは目を見開き軽く笑いかける。
「すまない、君も成長したなファドリック。入ったばかりのころは横柄な態度で一時はどうなるかとヒヤヒヤしていたが。頼もしくなったものだ」
「そんな・・・・、俺なんてまだまだですから」
「そんなことないわよ、小さいころから見てきた私が言うんだから間違いなく、リックはこの一年で成長したわ」
マリアが面白おかしくそう言い、ファドリックは照れるように左側のソファに座り込んだ。それがまたおかしくヴィアトリクスは苦笑する。
「結局俺は子ども扱いですけどね」
「ふふ。さて、時間もない。アルドーラがいないが、少し先刻の話をしよう。みんな、課業があるのに時間を割いて申し訳ないが、もう少しだけ付き合ってくれ」
その言葉で、スルーを決め込んでいたローズも壁から離れ、生徒会メンバーの元へ近づいてきた。さすがの生徒会のほか三人の顔にも緊張が走る。
ヴィアトリクスはまず魔獣の襲撃があったこと、そしてそこに偶然居合わせて重傷を負ったソフィリアを助けたことなど、ソフィリアとヴィアトリクスの二人しか知りえない情報を話した。
「あの子は本当に不憫な子ね。入学早々、魔獣に襲われるなんて」
マリアは低い声音でそうつぶやき悲嘆にくれる。それに反応するようにアルディオラもこう言った。
「でもどうして魔獣が学園に7頭も放たれたのか・・・何者かが手引きしているのか、だれか怪しい人物を見ていないか?」
ヴィアトリクスとローズはそう言ったアルディオラに視線を送る。ほかの生徒は考え込み、思い出すようにして考えふけるが、そんな人物に誰も心当たりなどない。
「こんなところで情報もなしに犯人捜しなんてするものじゃないか。とりあえず、そのあとの入学式。ローズ先生の固有魔法、繰魔術で魔獣を確保したのち、私はこれを利用しようと考えた。まぁこれは私一人の考えではなく、アルディオラにも意見してもらった案だがな」
「ちなみに俺はアリーナ下の舞台裏に集めるよう言われただけで、何も聞かされてなかったからな。まったく、教師の扱いがひどいもんだ」
ローズは不機嫌そうにそう吐き捨てる。ヴィアトリクスは彼に一言謝罪をしてそのあとに経緯も語った。
「あの時は逆に状況がわからないほうが都合がよかったですから。そして、先生の繰魔術を使って仕掛けたのが」
「あの茶番だったってわけだな」
ヴィアトリクスの言葉の後に嫌味にローズが言葉を重ねる。その動作に違和感を感じたのかマリアは彼のほうをじっと睨むようにして視線を送る。ローズはそれを意に介さずに、目を閉じて腕を組む。
ヴィアトリクスはそのまま言葉をつづけた。
「茶番と言っても本物の魔獣だ。あれを使うことで一年生には迫力ある『学園の本業』を体験させることができた。普通に処分してもよかったがやはりもったいなくてな。これは活かせないかとアルディオラに相談したんだ。うまくいって生徒の心はつかめたし、魔獣の恐ろしさも肝に銘じられただろう。改めて、ありがとうございました。ローズ先生」
「いやいや、生徒会長様のお役に立てて何よりです」
言葉は丁寧に反応するが、その態度は変わらず横柄なローズ。そこで掛けてある時計が鳴り響く。13時のチャイムだ。昼休みが終わり、これから4限目が始まるというタイミングになっていた。
「あわよくばこの事件の首謀者があの見世物で現れると思っていたが、そううまくはいかないな。ローズ先生によればこの学園には魔獣の気配はないが、ゲートはまだ健在だ。しばらくの間、アリーナ倉庫は立ち入りを禁止にしなくてはいけない」
「もし魔獣が入ってくるとなれば、警備も強化しなくてはいけませんね」
ヴィアトリクスにマリアも賛同してそう発言する。それにヴィアトリクスもうなづき、同調する。
「この件は正式に私が魔法教育連盟に赴き事態を報告する。皆はいつも通りの仕事に戻ってくれ。くれぐれも、危険のないように。ファドリック、アルドーラには君から伝えておいてくれないか? 今の件を」
「え?おれがですか?」
「ああ、君とアルドーラは同じ学年だから話す機会もあるだろう。何かと仲がいいし、頼む」
「仲は良くないけど、会長の頼みということであれば。はい、大丈夫です」
ファドリックは渋々了承して、ヴィアトリクスもその様子にうなづいて安堵する。
「じゃあ、この件はくれぐれも内密に頼む。ソフィリアのことも見かけることがあれば様子を見てあげてほしい。彼女はこの事件の目撃者でもあり被害者だ。彼女のような生徒を増やさないためにも、我々が抑止力となる必要がある。生徒会始まっての困難な案件だが、頑張ろう」
会長の励ましの言葉にほかの生徒は一致団結して返事をした。
入学式初日 魔獣のゲートを介しての侵入に成功。例の協力者のおかげもあってか、ゲートの生成者が誰かはヴィアトリクスも分かっていない模様。
ローズ・キズメルの繰魔術で魔獣は討伐されたが、収穫あり。
現在、ヴィアトリクス・シャルロードは魔獣戦でマナを酷使し、数日はまともに魔法を行使できない。
暗殺決行は、三日後の14日推奨。
また、今回の件で目撃者一名。おそらく新入生であるソフィリア・アズベルト。調べによれば彼女はクレド症を患っており、まともに魔法を行使できないようだ。放っておいても退学になるだろうが、不安因子なのは違いない。早急に対応すべし。
以上—報告終了。




