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16話 事件ののち

「一体何を考えているんですか、あんな無謀な・・・一歩間違えればとんでもないことになってたんですよ!」

「いいじゃねぇか、結局うまくいって犠牲者もいなかったんだ。生徒会の威厳も示せて万々歳だろ」

「ファドリックは黙ってて!今私は生徒会長と話をしてるの!」


 男と女の大声でソフィリアは目が覚める。知らない天井を見上げるような体勢で、どこかのソファに寝かされているのか頭の下は柔らかい皮の素材で心地がいい。布の掛け布団を体に敷かれたままで、とりあえずソフィリアは何も言うことなく待機する。というか、状況がわからず声が出せなかったといったほうがいいか。


 ローズ先生と生徒会メンバー五人。ソフィリアも含んで計7人は、中央区の最上層にある生徒会執務室にいた。大声で話しているのがアルドーラ、それを呆れた顔で止めていたのがファドリック。ヴィアトリクスは会長用の皮椅子に腰かけ、机に両手を置いて意見を言うアルドーラを腕を組み、聞いていた。


「会長、一から説明してください!今回の事の顛末とこの学園に何が起こっていたのかを」

「そうだな。もちろん話すつもりだ。巻き込んでしまった一年生にも謝罪もしなければいけない」


 その言葉で、ローズ以外の人間の視線が一気に彼女に集まる。目をつむり寝たふりをしているソフィリアはその様子に勘づき、肩を震わせる。それがここにいる先輩たちに気づかれていないことを望みつつ、必死に時間が去るのを待つ。


「いつまで気を失っているのですかね、この子は」


 アルディオラが心配そうにソフィリアを見つめる。アルドーラは何かぶつぶつと言っていたが、特に気にする人間はいなかった。ファドリックがポケットに手を突っ込みながらソフィリアの眠るソファに近づいてくる。その足音が近づくにつれて、ソフィリアの鼓動の音も次第に比例して大きくなっていた。


「大体、入学初日だってのにこいつも災難なことだな・・・。俺だったらショックで学校やめてるところだぜ」


 ソファの背もたれに腰かけ、必然的にソフィリアを見下ろす位置になる。彼の視線が自然とソフィリアの眠る顔と並行する。


「いつまで寝たふりしてるアズベルト。起きろ」


 突如、ローズが壁に背を預けて腕組した姿勢のまま、めんどくさそうにそう叫ぶ。名前を呼ばれ、条件反射で彼女は返事を勢い良くしてしまう。その影響でソファの近くにいたファドリックを驚かせてしまい、彼は勢いよく床に転び落ちてしまった。


「すすすす、すみません・・・・!!寝たふりとかするつもりはなくて、その、えっとすみません本当に、死んでお詫びを・・・!!」


「いやいやしなくていい、君に死なれたら私とマリアの努力も水の泡だぞ・・・」


 ヴィアトリクスは苦笑いをしながらそんなことを言って励ます。なぜかソフィリアはソファの上に正座の姿勢で腰かけ、肩をこわばらせながら言った。


「あの、ここはいったいどこなんでしょうか」

「我が生徒会の活動拠点である執務室だ。中央区のてっぺんにある施設だからめったに来る機会はないだろうな」


 ヴィアトリクスは立ち上がり、ソフィリアのほうへ近づいてくる。歩きながらそういうと、彼女はソフィリアの隣、あいているソファへ腰かけた。突然隣に座られたことに衝撃を受け、申し訳なさそうに立ち上がろうとするが、それはヴィアトリクスに静止される。


「そこでいいさ、まだ傷も完全に癒えているわけではないんだ。じっとしていなさい」

「わかりました・・・」


 これ以上何か言うとまた何かしでかしそうなのでソフィリアはそのまま言われたとおりにソファにじっと座る。


 一時の沈黙が流れる。皆々はヴィアトリクスの顔を見ており、彼女の発言を待っているかのように待機する。当のヴィアトリクスはソフィリアをじっと見つめ、ソフィリアが我慢できずに声を上げようとしたときに、彼女はソフィリアの目の前でさっと頭を下げて謝罪した。


「この度は、本当に申し訳なかった」

「え・・・え!?な、なんで先輩が謝るんですか・・・、命の恩人なのに」


 周りの生徒会の人間たちは、ソフィリアの慌てる素振りに同調することなく、どこか悲しげな表情のまま、ヴィアトリクスを見ていた。謝罪自体には驚くような反応はなく、皆が黙って彼女の言葉を聞く。


「確かに魔獣の撃退をしたのは私だ。しかし、一般生徒の命を危険にさらし、事態の収拾が遅れたのは生徒会長である私の責任だ。大変申し訳なかった」


 長い白髪が床に向かって垂直に伸びる。ソフィリアはどう反応したらいいのかわからずうろたえているだけだ。ほかの生徒会メンバーもいつの間にか立ち上がり、ヴィアトリクスの後ろでそれぞれが頭を垂れていた。


「そんな・・・! わたしはこうやって生きてますし、大体道に迷ったわたしの責任ですから・・・! 顔を、上げてください」

「そうか、君は優しいんだな。ありがとう、その気持ちには感謝する。だが、責任を取るのは私だ。本当に悪いことをした。すまない」


 顔を上げてもなお彼女は真剣な表情のままソフィリアに低い態度で弁明を述べる。アルディオラはヴィアトリクスの隣にきて、こうつぶやく。


「会長だけの責任ではありません。あなたのサポートできなかった私の責任です」

「クオン。ありがとう、そう言ってくれるだけでうれしいものだ。さてソフィリア、一つ君に提案なんだが」

「は、はい」

「君のローブ、魔獣の襲撃で修復が不可能なレベルになってしまった。入学早々に申し訳ないが、よければ学校が管理してある別の制服を譲渡しようと思うんだが構わないだろうか? もちろん費用は掛からないし、そのまま受け取ってもらって大丈夫だ」

「いいんですか?」


「もちろんだ、ぜひ受け取ってくれ。まぁ新品ではなくもともと在籍していた生徒のものだからおさがりにはなってしまうのだが。如何せんこの時期はローブの在庫が不足しているらしく新品が用意できないんだ。それでよければ」


「ありがとう、ございます。お言葉に甘えて」


「決まりだ、アルドーラ。彼女を第二更衣室にまで案内してあげてくれ。そこに用意がある」

「わかりました」


 アルドーラはふてくされているようにも取れる表情を浮かべたまま、ソフィリアの近くにまでくる。上級生のこわもての顔を間近で見てソフィリアは肩を震わせる。大丈夫、生徒会の人だったらみんなヴィアトリクスさんのように優しいはずと暗示をかけて、立ち上がる。


「ついてきてください、第二更衣室は一階にあります」

「は、はい」


 何かの書類を大事そうに胸に抱えるアルドーラは、そのまま生徒会執務室の扉を器用に開ける。その慣れた手つきはいつもこの動作をしているのかと思わせるもので、スムーズな流れだ。


「アルドーラ」


 不意に出る際に、ヴィアトリクスが彼女の名前を呼んだ。


「はい?」

「・・・・頼んだぞ」


 不気味な間のあとに、彼女はそう一言だけ放った。ソフィリアは何のことかと二人を見て回るが、二人の表情だけ見ても当然わかるはずもなく、アルドーラの後を追うようにしてソフィリアも執務室を後にした。


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