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15話 道化の催し

「お前、ソフィリア・アズベルトか?」

「ローズ先生ご存じで・・・?さぁ、ついたぞ一年生。ここで少し休むと言い。マリアは治癒術の専門だ、すぐに傷も癒してくれるさ」


 ただ、ソフィリアはぐったりとしていて反応がない。体も完全に力が抜けており、ヴィアトリクスの肩に任せているおかげでなんとか今の態勢を保つことができていた。


「大丈夫ですか?その生徒、反応がないですが・・・」


 マリアは胸に手を当てながら言う。ヴィアトリクスは少しだけ笑みを浮かべて安心させるようにこうつぶやく。


「大丈夫だ。気絶しているだけで息もある、ただかなり重傷だ。私が止血はしたがマナが足りず痛みまでは止められても傷は癒せていない。マリア、頼めるか?」

「もちろんです。ほら、こっちに来てね。すぐに楽になるから」


 階段を降りて、そのままソフィリアの腕をマリアに任せるヴィアトリクス。その他の人間はソフィリアの痛ましい姿に言葉が出ない。ローブはずたずたになり、一年生の証だった赤色のマントも見るも無残なありさまだった。


「これは、酷いな」

「なんで、だれがこんなこと」


 ファドリック、アルドーラは運ばれ、更衣室に寝かされたソフィリアを囲み、絶句する。


「今から集中治癒術を行使します。おそらくこのレベルの傷は20分は確実にかかります。リックとドーラちゃんのマナも借りることになるけど大丈夫?」


「もちろんですマリナ先輩!!あたしのマナなんていくらでも使ってもらって大丈夫です」

「俺も大丈夫だ、マリア」

「ここじゃ先輩をつけなさい、ファドリックくん」


 軽くお叱りを受けた彼だったが、特に気にする素振りもなくソフィリアの隣に座る。

 マリアはポーチからみどりいろの輝石が入った魔道輪を指にはめ、呪文を唱え始める。


 集中治癒術は、攻撃魔法といった一つの単語を発して行使するものではなく、長い時間を掛けて治癒していく上級魔法だ。鍛錬すれば大抵の傷を治すことはできるが、大量のマナを消費する。さらに言えば集中が一瞬でも途切れるとまた一からやり直しになり、その間に使ったマナも飛散する。なので基本的に一日に行使できる回数は二回程度に限られる。そして、ソフィリアが負った傷はマリア一人のマナでは到底足りない。なのでファドリックとアルドーラのマナを借りる手筈となるのは必然だった。


「治せますか?」


 アルドーラは心配そうな顔で言うが、マリアは返答に一瞬迷い、笑みをこぼしながら自信を持って言った。


「ある程度会長が治癒してくれているから大丈夫だと思うけど、油断はならないね。でも大丈夫、任せておきなさい」


 彼女の状態を見てマリアは思う。今こそひどいが、この規模のケガを負ったときはもっと悲惨な状態だっただろう。これだけの傷の止血と痛みを緩和するとなると、恐らく同じ集中治癒術を施すようになったはずだ。もし、ヴィアトリクスがほかの人間の助けなしでここまで治癒したとなったら、それは紛れもなく人外じみた業だ。


「すごいなぁ、ほんと」


 想像しただけでぞっとするヴィアトリクスの底力。思わずマリアはそう声をこぼしてしまった。


「会長、そろそろ入学式の中盤になります。これ以上引っ張ると後々のスケジュールにも影響が」


 アルディオラは冷静にヴィアトリクスに現状を報告して指示を仰ぐ。


「そうだな。こちらの面倒で待たせて済まなかった、始めようか」

「はい、ローズ先生。お願いします・・・・ローズ先生?」

「あ、ああ。さっき話していた通りだな。わかってる、どうなっても知らないからな」


 彼はどこか上の空だったが、アルディオラに声を掛けられてやっとハッとする。


 三人は更衣室と舞台下の大きな地下空間につながる扉を開けて中に入った。

 中には魔獣が四体。よだれを流しながらこちらを凄まじい暁光でじっと見ていた。いつでも殺しにかかれるという威圧を感じて、アルディオラは足を一歩引いてしまう。


「うろたえるな、恐怖を見せれば奴らは嗅ぎ分ける。真っ先に死ぬのはお前になるぞ」

「はい。わかりました」


 ヴィアトリクスの静かな声で落ち着いたアルディオラ、足に力を入れて恐怖を紛らわそうとする。


「そうだ、クオン。君のマナを私に分けてくれないか? さっきの一年生、いやソフィリアの治癒で使ってしまってな。少しだけでも助かるんだが」

「もちろんです。僕のでよければ全部差し上げます」

「全部は困る。最悪の事態になれば、クオンの力が頼りだ」


 暗闇の中、真剣なまなざしの彼女の視線が彼に突き刺さる。中では魔獣が呻きを上げて、今もなおこっちが隙を見せないかをじっと待ち構えている。こんな悠長にできているのは紛れもなくローズの繰魔術と言われるもののおかげだ。それがなければいまごろ血の戦場となっているだろう。


「魔獣を使った実戦演習とは考えたもんだな、だが一歩間違えれば一般生徒を巻き込む大事件になるぞ。そうなれば、今からやることはただの道化師のショー。俺の魔法教員免許も永久はく奪、お前も即退学だ。運が悪ければ殺人罪で起訴され監獄行だ。」

「そうならないために、ローズ先生がいます」


ヴィアトリクスの屈託のない信頼に満ちた目がローズをとらえる。あまりに素直なその様子に思わずローズは吹き出してしまう。それにヴィアトリクスは困惑した表情を浮かべた。


「いやすまない。今までの生徒会長様でお前みたいなやつはいなかったものでな。いや、二年前にはいたか、阿保みたいに正義感ぶら下げて、保身をかえりみない馬鹿が」

「二年前というと、フレリア先輩ですね。あの方は逸材でした、私も慕っていましたが」

「お前はあいつと重なって見える。だが、あいつのようにはなるなよ、シャルロード」


悲し気な目でヴィアトリクスを見るローズは、思わず拳を握りしめるようにして感情を抑え込む。マナの譲渡もアルディオラは終わったらしく、声を上げた。


「それじゃ、はじめましょう」


アリーナの舞台へ三人は歩みだした。すべては生徒の絶望を希望へ変えるために。




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