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14話 裏側

 場面は少し変わり、入学式の舞台裏で行われていたやり取りに移る。


 時刻は11時20分。入学式開始から20分が経過し、教師陣の自己紹介も終わり、現在は施設案内の話などを先生方が行っている最中だった。

 アリーナの舞台裏。ここに生徒会メンバーの四人と一年Bのローズの五人が待機していた。当初入学式で生徒会がパーソナリティを務める予定だったが、さまざまなトラブルの末こうやってただ裏で待機しているような状態となっていた。


「いつまで俺たちはここで待機してればいいんですか」


「言われたよね、会長が戻ってくるまでは一時待機、いつでも戦闘ができる用意をしておくようにという言いつけを、もう忘れたの?」

「お前には聞いてない。俺はアルディオラさんに聞いてんだよ」

「何その言い草。いっつもそうやってあたしのこと煽って楽しい?そういうところ直したほうがいいよ」

「なんだと・・・?」


 口の悪い男が黒髪の女子生徒に向かってそんな言葉をはく。口の悪い男子生徒はファドリック・シーラグリフ、三年生で生徒会メンバーだ。


 煽り口調の物言いだった女子生徒はアルドーラ・ティネク、同じく3年。彼とは高校からの付き合いだが馬が合わずいつも喧嘩している、いわゆる犬猿の仲というやつだ。


「やめないか二人とも、いつトラブルが起きてもおかしくない状況なんだ。下手したら死人もでかねない非常事態、ただでさえ危険な状態の上会長まで来ないとなると、我々が最悪を想定して動かなければならない。気を引き締めろ」


 副会長であるアルディオラが蛇のような威圧的な視線を二人に浴びせ、その言葉で二人は委縮する。ぼそっとすみませんと謝罪をして、それぞれがまた真剣な面持ちで黙り込む。


「喧嘩はすんだか?アルディオラ、わざわざ俺を使って何のショーをするつもりなんだ?その引き立て役のヴィアトリクスの姿もないが。これで魔獣が暴れだしたら俺の監督責任になるんだが」


「すみませんローズ先生。予定であれば会長も到着して本題にうつるつもりなんですが。なにか会長の身にあったのですかね」


「あいつもあいつで何を考えているんだか。言っとくがあと五分だ。それまでに戻ってこなければ集めた魔獣は俺が殺す。なんならそれが一番効率的で利口な方法だ」


 ローズは髪をポリポリと搔きながらそうぶつぶつと言う。


 この舞台裏はちょうどアリーナの舞台の真下にある。彼らがいるのは真下の空間の一番右端のスペース。普段は更衣室として使われている狭い空間で、イベントの際キャストの着替え室としても準備室としても使っている。五人もいればかなりせまっくるしいが、わざわざ広い舞台下ではなくその端のこの部屋にとどまっているのには理由があった。


「やっとおとなしくなりましたね」


 アルドーラが舞台下につながる扉に耳を当ててそうみなに報告する。それを聞いたローズはドヤ顔をかましつつこう発言する。


「まぁな。俺の繰魔術そうまじゅつにかかればあんな魔獣ごとき一瞬で操れる」

「そんなに便利な固有魔法なのに。固有承認、申請しないんですか?」

「アルドーラ、俺にそんな甲斐性があると思うか?めんどくさい審査に時間かかる。してなんの得がある?」

「損得の問題ではなく、固有魔法を使うのであれば固有承認をしていないと魔法律違反に―」

「あーはいはい正論ね、そうだなそうだ。法律違反になるな。アルディオラ、どう思う?」

「ノーコメントで」

「副会長も先生側なんですか? おかしいですよ、魔法を教える立場の人間が法律の一つも守ってないなんて!」


 アルドーラが赤面しながらそう激高する。ファドリックはまた始まったといううんざりした顔を作り、立てかけてあった椅子に腰かける。

 アルディオラは人差し指を口の前に出して、彼女に駆け寄る。突然迫られた勢いでアルドーラは転びそうになるが、ちょうど壁に背中があたり軽く音がして止まる。


「静かに。ここに魔獣がいることは学園長以外知らない。ここで外の人に知られれば一気に大騒ぎになる。そうなれば入学式も会長の思惑も水の泡だ。わかるな?」


「は、はい。すみません」


「君がローズ先生に憤りを感じるのはわかるが今はよしてくれないか? あとでいくらでも叱責はうける。だからここは僕に免じて」

「副会長にご迷惑がかかるのなら別に私は・・・。こちらこそ大きな声を出してしまってお申し訳ありませんでした」


 急に潮らしくなってしまった彼女は静かに謝罪する。ローズはその間二人を一瞥するように見ると、そのまま壁のほうに寄りかかって腕を組む態勢で体を預ける。ファドリックは軽く笑みを浮かべながら彼女に向かってこう発した。


「謝るくらいなら最初から噛みつかなければいいのによ、お前のそういう正義一番っていう態度本当に虫唾が走るぜ」

「ファドリック」


 アルディオラは低い声で彼の名前だけを言う。その言葉があまりにも冷たく、余裕をかましていたファドリックも焦りを感じたのかはっとした表情を浮かべる。アルディオラが彼を見る視線に耐え切れなくなったファドリックは、視線を床に落として一言だけ。


「すみません」

 その一言で、アルディオラはニコっと笑っただけでそのままアルドーラのもとを離れてローズの元へ近づいて行った。


 その時、上の階につながるらせん状の小さい階段につながる扉が開かれ、そこから一人の生徒が現れる。


「会長到着しました!」

「やっとか。待ちくたびれたぞ」


 ローズは彼女の到着を見るなり、嬉々とした表情を浮かべる。

 彼女はマリア・アッシュネビル。生徒会メンバーの最後の一人で三年生。ファドリックとは幼馴染で、彼の暴走は基本的に彼女が止めるような流れが多い。そんな彼女は、会長ヴィアトリクスの帰りがあまりに遅いため探しに出ていた。


「無事だったか?」


 アルディオラは心配そうな顔でそう言って近寄る。彼女はその質問に首を縦に振りながら反応するが、そのあとに怪訝な表情を浮かべながらこう話した。


「ただ、会長と一緒にいる生徒が重傷で・・・」

「生徒?誰だ」


 アルディオラは変わらず慌てた顔で質問を立て続けにいう。質問漬けにされ、さすがに息が切れかけているマリアを無視して、ローズは更衣室から飛び出る。急な行動に驚いたマリアは軽く驚いたリアクションを取り、道を譲るようにして体を逸らす。


 階段からはすでにヴィアトリクスの姿があり、肩を組んでいた生徒は、ローズもよく知っていた生徒の姿だった。


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