13話 羨望の矢
次にライトにあてられたのは、白のマントに白のローブを基調とした真っ白な女性。さらっとした長髪はなびき、ライトの光で反射し可憐に跳ね返る。
魔獣の注目はその生徒、ヴィアトリクスに移り生徒たちも立ち止まる。
「あれ生徒会長だよね」
「なんでここに?ていうかこれなに?」
「し、なにか話すぞ」
混乱する生徒、訳も分からず立ち尽くす皆々に、彼女はこう語りかける。
「私はこの学園の生徒会長、ヴィアトリクス・シャルロード。これから見せる魔法はこれから6年間君たちが時間を掛けて、会得していく魔法だ。時間もかかり、鍛錬も必要な過酷なものとなるだろう。だが、今から披露する魔法を見て、ぜひこれからの学園生活で苦しい、逃げたいと思った時の勇気、憧憬の礎になってほしいと思う!」
彼女はマントをぱっと広げ、後方へ舞う。魔獣、そのうち一体が彼女のほうへ近づき、激高する。近くの生徒がまたも驚くが、ヴィアトリクスの姿にくぎ付けとなり逃げようとはしない。
「まずは、一年生のうちに会得する攻撃の中級魔法であるセブンス・アローだ」
彼女はセブンス・アローと再度口にする。彼女の右手には赤色の魔導輪がはめられており、そこから白色の七つの矢が出現する。それらは彼女の周りを囲むように浮かび、まるでヴィアトリクスの指示を待つ妖精のように見えた。その光はあたりも明るく照らし、周りの生徒たちの表情もはっきり認識できるほどだ。
「この七本の矢は基本的に防衛用でも使える。例えば、二本のみ矢を放って動きを封じることもできる。やってみようか、足を貫け」
彼女の力強い言葉で二本の矢は回転している矢の群から抜けて魔獣の足に突き刺さる。
魔獣の痛そうな叫びが甲高く鳴り響き、後方の通路側にまでその勢いは迫ってくる。
魔獣の血が床に滴り落ち、立っているのも辛そうな表情でヴィアトリクスを睨みつけていた。
「今のがセブンス・アローだ。次に行こう」
その無残すぎる光景に、生徒たちは唖然としていた。その光景もヴィアトリクスは想像通りといったような面持ちで、生徒たちにこう諭す。
「残酷と思ったか?かわいそうと思ったか?そこまでする必要があったのか?そう思うこともあるだろう。この子たちも攻撃してこない、反撃すらもせずただ見ているだけ。だがな、君たちは2年生の夏が明けてから実際の魔獣を想定した防衛訓練が実施されるようになる。その時には今私がこうしているように残酷な場面に幾度となく、遭遇することになるだろう」
「でも、魔獣にだって命があるんだ!こんなに残酷なやり方で殺される必要があるのか!」
一人、ヴィアトリクスの目の前にいた男子生徒が抗議する。ヴィアトリクスも声を上げられるとは思っていなかったのか、少し驚いた後に彼に向かって発言する。
「というと?」
「・・・・! えっと。魔獣も自分たちが生きるために必死なんだと思います。僕は、魔獣を含めた動物が好きなんです・・・! 小さいころに危険だと言われていた魔獣に命を救われたことがあります。だから、殺す必要があるのか僕は・・・疑問、です」
最後ははずかしくなってしまったのか、彼は赤面しながら言葉を終わらせた。俯きながら彼女の反応を恐る恐る待っているが、彼女は微笑みながらこう答えた。
「君の感性は正しい、立派な心持ちだと思う。だがな、実際に魔獣に殺されているものは年間で何万人といる。魔獣にも確かに命がある、だがそれは我々人間も同じだ。彼らの命を尊重することも確かに大事かもしれない。だが、そのせいで君の大事な家族、友人、或いは大切な人が殺されたらどうだ・・・? 魔獣には言葉も通じなければ、理性や感情もない怪物だ。実際この学園でも、過去に魔獣によって殺された生徒も何人もいるし、私が救えなかった生徒も、いる。だがな、一年生。これだけは言える・・・。それは―」
刹那、さきまでぐったりとして低い嗚咽を発していた魔獣が一気に咆哮をまき散らしながら彼女の元へ噛みかかる。周りの生徒もその出来事に反応が遅れ、ヴィアトリクスが殺されたと思い顔を手で隠すものまでいた。それは、意を決して抗議をした生徒も例に漏れることなく。
だが、魔獣は彼女のもとへたどり着くことなく命果てた。残りの矢が魔獣のこめかみにすべて突きささり、力絶えて床にドスンと音を立てて崩れ落ちる。
ヴィアトリクスはその一連の出来事に、目を向けていることはなかった。そのままじっと彼の目を見てこう言い放つ。
「君の大事な心持ちで、大事な人が殺されるのを黙ってみることだけはするな。油断したら奴らは今みたいに一気に殺しにかかってくるぞ。自分の手ですくえる命、それを取りこぼしてまで魔獣に対する敬意が大切なことは決してない。弱きものの命を魔法で守る、それがこの学園で魔法を学ぶ生徒の使命だ。その線引きをどこまでするか、君はこの学園で学ぶといい。意見、感謝するぞ。一年生」
最後に再びニコッと笑みを浮かべて彼の元を立ち去る。
そこで生徒たちが一気にワー!!と騒ぎ始めた。はたから見ればなにかの暴動が始まったのではないかと勘違いされるぐらいの騒ぎ用に、さすがのヴィアトリクスも困惑していた。
「あの人、すごいね・・・」
ニーナは鳥肌が立つほどに彼女の言葉にしびれていた。エレニアはなぜか満足げに「そりゃこの学園のトップだからね」とはしゃいでいた。
「すごいよね、ファナレクト君」
「そっちの名前で呼ばないでくれる?」
ニーナが様子見も込めてファナレクトに言うがまだ少し怒っているようで機嫌が悪そうだった。これ以上気分を害さないことだけを意識して、彼女は言葉を選びつつも会話を試みる。
「上の名前知らないから・・・。なんて言うの?」
「クレーシア。ただのクレーシアだ」
ただの、という言葉には引っかかったが、素直に教えてくれた彼に一度安堵するニーナ。そのまま彼の気持ちを落ち着かせようとさらに言葉を投げかけた。
「さっきのあの人すごかったよね、かっこいいし尊敬する」
「別に、多分あれ幻影魔法の一種だろうからあの人が傷つけられることはないよ。だから全然すごくない、くだらない遊びだ。こんなのがこの学園の入学式だなんて、正直がっかりだね」
「ああ、あはははは。でも結構みんな盛り上がってるみたいだよ?」
「馬鹿な生徒はあれぐらいの程度の知れたお遊びに夢中になれるくらいが丁度いいんだろうね。僕には魅力なんてまったくわからないけどさ」
「クレーシア君」
突然低い声音で放たれたニーナの呼びかけに、一瞬彼は困惑した態度で彼女のほうを一瞥する。彼女の顔は少し曇ったもので、にこにこと笑う彼女にしてはかなり怒っていたほうだった。
そんな彼女は、彼の目をじっと見てただ一言だけ言った。
「ほかの人たちにそんなこと言ったらだめだよ」
「なんで?」
「自分の人間的価値も下がるから」
「・・・・・別にいいよ、そんなこと」
顔がかすかに歪み下に視線を落として俯いくクレーシア、それ以上彼が何か言ってくることはなかった。彼女もはっとして彼になんて無礼なことを言ってしまったのかと後悔する。
そのあともヴィアトリクスの講演は続き、そのあと20分にわたる時間で魔獣はすべて討伐され、同時に新入生全員の注目を搔っ攫い幕を閉じた。




