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12話 道化師の策略

「ソフィちゃん遅いなぁ」


 同時刻、つまらない教師陣の自己紹介が終わり、現在は学園の歴史についての話になっていた。スケジュールにはこんな予定がないのだが、なぜかこの歴史についての話が異常に長い。

 ニーナとエレニアはさっきと同じようにアリーナ上側の通路に座って入学式の模様を見ていた。ここで見ていたら怒られるかと思っていたが案外気づきにくい場所にあるらしく、特に咎められることはなかった。


 下は生徒がアリーナいっぱいになるほどに詰められており、ソフィリアならすぐに卒倒しそうだなと、ニーナは思う。


(大丈夫かなソフィちゃん。またどこかで倒れてないといいけど・・・)


 医務室の先生が同伴だったとはいえあのソフィリアだ。先生にすら動揺しておかしな行動をとりかねない。もしそうなっていて道端で倒れていたら・・・。


(いやいや考えすぎだってアンジェリーナ・・・! 今は入学式に集中しよう!)


 顔を二度、パンパンとたたいて気合を入れる。その一連の行動を横でエレニアが訳も変わらず見ているが、ニーナはそれを一切気にせずに舞台のほうへ再度視点を向ける。


「ねぇ、あの子同じクラスの子じゃない?」


 突然エレニアが左方向を指をさしてニーナに言う。彼女も言われた方向を見ないわけにはいかないので、舞台から目をそらして左方向をみる。

 同じように通路の柵に体を預け、つまらなさそうにいている男が一人いた。


「あの子、今朝の・・・」

「知り合い?」

「知り合いってわけじゃないけど、教室で隣になって―」


 一瞬今朝のことも言おうかと思っていたが、肝心のソフィリアがいないのに彼女に黙って今朝の話をするのもいかがなものかと思い、口が止まる。ニーナの言葉を待つエレニアには、若干言葉を濁しつつこう答える。


「遅刻したときにも通りかかったの、名前はわからないけど」

「あのさ、人のことじろじろ見て話しするのやめてもらえないかな」


 一瞬誰の声かわからなかったが、通路にはこの三人しかいないので、その声の主は紛れもなく左にいる男子生徒のものだと理解する。


「しゃべった?」


 エレニアが凝りもなくニーナにぼそっと語り掛けるが、それも彼の耳には入ったらしく、舌打ちをしてからこちらにわざわざ体を向けてこう言葉を放った。


「聞こえなかった?こそこそ話すのやめてもらえる?」

「別にこそこそ話してたわけじゃないわ、同じ教室だよねって話してただけで別に―」

「内容のこと言ってるわけじゃないし、内容なんて聞こえてるし。わざわざ人のいないこんなところにまで来て君たちがいたんじゃ割に合わないよ」


 エレニアの必死な言い訳も彼は全く聞き入れず、彼女も頬を膨らませてむっとする。

 ちょっと怒っているなと、ニーナは横目に見て感じた。


「言わせてもらいますけど、別にあんたのことなんて誰も気にしてないからね! ニーナも私もあんたみたいな根暗眼中にないし」


 ちょっとどころではなく、かなり怒っているなと感じた。

 エレニアの挑発的な言葉に彼もイラっとしたのか眉間にしわが寄る。それをしめたと見たのか、エレニアも彼のほうに足を延ばし距離を近づける。


「そんな話をしているんじゃない。これだから低級な庶民は困るな、話にならない」


「あんたは貴族かもしれないけど、ここではそんなこと関係ないから!魔法で競って、その結果で優劣が決まる。あんたは成績不良でも貴族だからボクは君たちと違うんだぁとか言って言い訳するつもり!?」


「お前、ボクの家を冒とくしたのか・・・? 僕がファナレクト家の人間だと知っての物言いか?」

「あんたがファナレクトだろうがフナレルトだろうがここでは関係ないって言ってるの。わかったら家に帰って父親にでも媚び売ってたら?」


 かなり状況がヒートアップしつつあり、さすがのニーナも焦り始める。下の生徒の何人かがこの痴話げんかに気づいているようだ。大事になる前にこの二人を止めないと・・・。

 そう思ったニーナは最早手の届きそうな距離まで詰めているエレニアの前方に顔を出して、静止するように呼び掛ける。


「エレニアちゃんストップ!これ以上はダメだから! みんな見てるし、喧嘩もよくないよ、ね!」


「大体、お前入試成績値いくつなんだよ。実技科目でも座学でも20以内にお前の名前なんてなかったぞ。よほどその頭の中には小さな脳しかついてないんだな」


「はぁ? 言っておきますけど入試の問題なんて中学の応用で魔法とは関係ないから!少なくとも座学は! ていうか、あんたの兄さんの悪い噂知ってるよ? ファナレクトって言ったら、ジャックス・ファナレクトしかいないもんね」


 エレニアのその言葉で彼の言葉は止まる。目を見開いて、エレニアの顔をじっと見ているだけだ。左手をローブのポケットに入れてそのまま動こうとしない。言葉がやみ、ニーナは喧嘩がやんだと安堵し、背中を向けていた彼の方向に体を向ける。

 アリーナ内は次の名目に移ったらしく、司会係が大きな声でこう発していた。


「みなさんお疲れ様です。先生がたの退屈なお話、さぞ疲れたでしょう!これからみなさんが見たこともないような華麗なショーが始まりますので、こうご期待ください!」


 生徒たちは司会の盛り上がり様にざわめく。つまらない時間だけだったせいか、彼の大きな声だけでも生徒たちの眠りはある程度回復したらしく、椅子に座って寝ている生徒や、ずっと話していた生徒も一気に舞台に注目が行く。


「では始まります!!ハープネス魔法学園生徒会による、魔獣討伐劇です!!!!!!」


 ガコン!!と大きな音を立てて、舞台の床が開かれる。一気にアリーナ内が暗くなり、照らされたライトだけが唯一の光源となる。


「え、あれ・・・・魔獣じゃね・・・?」

「嘘・・・!なんでこんなところに」

「学園内は安全って言ってただろ・・・?何かの幻影だろ」


 下で見ている生徒たちは、床から出てきた四体の異形に目を疑いそれぞれがそれぞれの思惑で舞台に見入っていた。


「ギャルルウウウガアアァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」


 ヤギの頭のような形をした魔獣二匹が同時に叫ぶ。その勢い、声、迫力で舞台の近くにいた生徒は完全に我を失い、椅子から立ち上がり逃げ惑う。あるものは後ろに立つ人間を押しのけて逃げ、失神しかけるものもいれば、機転を利かせ魔法を行使しようとする者もいた。


「一年生の諸君。うろたえるな」


 だが、その3秒後。一人の人間の声がアリーナ中にこだました。


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