第六試合 キックボクシングVSムエタイ 2
天美は首相撲を振りほどくと、中途半端な間合いを承知で、右のミドルキックを放った。
壊れた膝での、遅く、甘い蹴り。こんな情けない打撃は、いつぶりだろう。
ムスタファンはそれをカットもせずに脇腹で受ける。
天美の狙い通りだった。
天美はその蹴り足を地面に下ろし、体を一気にムスタファンへ引き寄せた。そして――
(斬る!)
天美が小さく、鋭く、肘を振りかぶる。狙いはムスタファンの額である。
しかし、天美が肘の間合いへ入る瞬間の踏み込みは、ムスタファンに測られていた。
「蹴りの間合い」の次には「パンチの間合い」があり、「パンチの間合い」の次には「肘・膝の間合い」がある。逆に言えば、そこまでを乗り越えなければ肘の間合いには入れない。
ムスタファンは、天美がパンチの間合いに入った瞬間、予備動作なしでワンツーを放った。
タタンッ。
小さく乾いた音がして、天美の顔面が弾けた。
天美の、力を失った右肘が、ただ余勢のままに虚しく空を切る。
――とっ、捉えたア! キックボクサー天美の顔を、一般に手技はあまり重視されないはずのムエタイのパンチが、カウンターで捉えました!
――おい、天美が止まってやがる! 危ねえぞ、何しろムエタイのパンチは必ず――
ジョニイの実況も、我終院の叫びも、言葉になる暇もなかった。
ムエタイのパンチは必ず、キックのコンビネーションと共にある。
カウンターで意識を飛ばされた天美の頭、その左側面に、ムスタファンのハイキックが深々と突き刺さった。
バギインッ!
吹き飛ぶキックボクサーが試合場の床に沈むよりも早く、審判の声が響く。
「勝負あり! それまでッ!」
『け、決着! キックボクシングの寵児、敗れました! しかも、……ま、まともに有効打をムスタファンに入れていません! 何という、何という圧勝だ、ムスタファン・加羅!』
『いや。必ずしも、そうまで実力差があるとは言えねえ』
『そうでしょうか!? しかし、結果として……』
『天美の野郎は、最後までムスタファンをどこか舐めてたよ。これまでムエタイと散々やってまあ大体こんなものだという見切りがあったんだろうが、それをムスタファンが遥か上回りやがった。それに天美が早く気付いてりゃあな、あんなに間を握られることも、手足をぶっ壊されることもなかったろうよ』
『間ですか!? 間とはいったい!?』
『今の試合のVTRを見てみろ。そらしょっぱなのここだ、天美が右膝をやられた時だ』
『そうでした、この天美のミドルをムスタファンが膝で撃墜したのでした!』
『ムスタファンの野郎、完全に天美の間合いを把握してやがる。恐らく、平面的な技術ではてめえが天美に劣ると踏んだんだろう。そこで、ムエタイならではの打たれ強さでもって、細かい技術を気にせずに被弾覚悟で序盤から踏み込んで行った。天美の間合いを潰そうとしたんだ。それを察知した天美は、てめえのミドルの間合いを堅持しようとした。そのせいで、ムスタファンは正確に天美が好む間合いを見て取りやがった。そこで飛んでくるミドルに膝を合わせるのは、難しくなかったんだろうよ』
『確かに、最初からムスタファンはグイグイ前に出ていましたね……ムエタイなのにミドルから入らないことに、会場も驚いていました!!』
『それがあまりにも上手く行って、天美の膝は殺せた。戸惑う天美にムスタファンが最初の首相撲仕掛けて、左腕やられたところで勝負はあったろう』
『なるほど……天美が正確に敵の値踏みを出来ていれば、別の結果もあり得たと』
『天美のテクニックと反射神経が生かされてりゃ、別どころか逆の結果もあり得たぜ。だが、それをムスタファンがさせなかったってことだ。しかし何もンだ、あのムエタイ野郎。戦い方といい、あのワンツーの精度といい、恐ろしい育ち方してるじゃねえか』
第六試合
Kムスタファン・加羅○
L天美水仙●




