表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/20

第六試合 キックボクシングVSムエタイ 2

 天美は首相撲を振りほどくと、中途半端な間合いを承知で、右のミドルキックを放った。

 壊れた膝での、遅く、甘い蹴り。こんな情けない打撃は、いつぶりだろう。

 ムスタファンはそれをカットもせずに脇腹で受ける。

 天美の狙い通りだった。

 天美はその蹴り足を地面に下ろし、体を一気にムスタファンへ引き寄せた。そして――


(斬る!)


 天美が小さく、鋭く、肘を振りかぶる。狙いはムスタファンの額である。

 しかし、天美が肘の間合いへ入る瞬間の踏み込みは、ムスタファンに測られていた。

「蹴りの間合い」の次には「パンチの間合い」があり、「パンチの間合い」の次には「肘・膝の間合い」がある。逆に言えば、そこまでを乗り越えなければ肘の間合いには入れない。

 ムスタファンは、天美がパンチの間合いに入った瞬間、予備動作なしでワンツーを放った。


 タタンッ。


 小さく乾いた音がして、天美の顔面が弾けた。

 天美の、力を失った右肘が、ただ余勢のままに虚しく空を切る。


 ――とっ、捉えたア! キックボクサー天美の顔を、一般に手技はあまり重視されないはずのムエタイのパンチが、カウンターで捉えました!

 ――おい、天美が止まってやがる! 危ねえぞ、何しろムエタイのパンチは必ず――


 ジョニイの実況も、我終院の叫びも、言葉になる暇もなかった。

 ムエタイのパンチは必ず、キックのコンビネーションと共にある。

 カウンターで意識を飛ばされた天美の頭、その左側面に、ムスタファンのハイキックが深々と突き刺さった。


 バギインッ!


 吹き飛ぶキックボクサーが試合場の床に沈むよりも早く、審判の声が響く。

「勝負あり! それまでッ!」


『け、決着! キックボクシングの寵児、敗れました! しかも、……ま、まともに有効打をムスタファンに入れていません! 何という、何という圧勝だ、ムスタファン・加羅!』

『いや。必ずしも、そうまで実力差があるとは言えねえ』

『そうでしょうか!? しかし、結果として……』

『天美の野郎は、最後までムスタファンをどこか舐めてたよ。これまでムエタイと散々やってまあ大体こんなものだ(・・・・・・・・・・)という見切りがあったんだろうが、それをムスタファンが遥か上回りやがった。それに天美が早く気付いてりゃあな、あんなに間を握られることも、手足をぶっ壊されることもなかったろうよ』 

『間ですか!? 間とはいったい!?』

『今の試合のVTRを見てみろ。そらしょっぱなのここだ、天美が右膝をやられた時だ』

『そうでした、この天美のミドルをムスタファンが膝で撃墜したのでした!』

『ムスタファンの野郎、完全に天美の間合いを把握してやがる。恐らく、平面的な技術ではてめえが天美に劣ると踏んだんだろう。そこで、ムエタイならではの打たれ強さでもって、細かい技術を気にせずに被弾覚悟で序盤から踏み込んで行った。天美の間合いを潰そうとしたんだ。それを察知した天美は、てめえのミドルの間合いを堅持しようとした。そのせいで、ムスタファンは正確に天美が好む間合いを見て取りやがった。そこで飛んでくるミドルに膝を合わせるのは、難しくなかったんだろうよ』

『確かに、最初からムスタファンはグイグイ前に出ていましたね……ムエタイなのにミドルから入らないことに、会場も驚いていました!!』

『それがあまりにも上手く行って、天美の膝は殺せた。戸惑う天美にムスタファンが最初の首相撲仕掛けて、左腕やられたところで勝負はあったろう』

『なるほど……天美が正確に敵の値踏みを出来ていれば、別の結果もあり得たと』

『天美のテクニックと反射神経が生かされてりゃ、別どころか逆の結果もあり得たぜ。だが、それをムスタファンがさせなかったってことだ。しかし何もンだ、あのムエタイ野郎。戦い方といい、あのワンツーの精度といい、恐ろしい育ち方してるじゃねえか』


第六試合

Kムスタファン・加羅(から)

L天美水仙(あまみすいせん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ