【報道デスクの局長のメモ】長期休暇願
御厨が変わりはじめたのは、娘さんが行方不明になった直後からだった。
もともと無口で、必要以上に感情を表に出す男ではなかった。が、あの日を境に一層なにを考えているのか分からない顔になって、みるみる痩せていった。
目の下には深い隈。髪は整えられず、スーツも皺だらけ。それでも仕事だけは休まなかった。いや、休めなかったのだろう。彼は記事を書き続けた。なにかに取り憑かれたように。
そんな御厨が、ある日の夕方、俺のデスクに長期休暇願を置いた。
「休みをいただきたいんです」
声は掠れていた。俺はついにきたか、と頭を垂れた。
「娘さんの件で、心労が重なっているもんな。しばらく休んだほうがいいだろう」
しかしそう言うと、御厨は首を横に振った。
「いえ。ロンドンへ行きます」
一瞬、意味が理解できなかった。
「……ロンドン?」
「はい。調べたいことがあるんです」
なぜ、今、ロンドン? 娘さんの捜索を放り出して、なぜ急に海外へ?
そう問いかけようとしたが、御厨の目を見て、言葉が喉に詰まった。彼の目は、焦点が合っていないようで、しかし何かを強く見据えているようでもあった。
「御厨、お前、今は……海外に行っている場合じゃ……」
「行かないといけないんです」
声には、妙な迫力があった。変に我の強い態度を前に、ますます心配になる。
「おい、御厨。お前は疲れてる。おかしなことを言ってないで、体を休めろ」
「長期休暇の申請、捺印をお願いします」
御厨は、そうとだけ言った。
俺は困惑した。彼がなにを考えているのか分からなかった。だが、俺がなんと言おうと彼のロンドン行きが決して揺らがないのだけは分かる。
まるで、誰かに命じられているかのように、遠いロンドンに心を飛ばしている御厨を見て、俺は折れた。判を手に持ち、改めて御厨から受け取った届に向き合う。
それから休暇の申請理由記入欄を見て、ぎょっとした。
この男はもう限界なのかもしれない。
御厨は、どこへ向かおうとしているのか。その先になにが待っているのか。
いずれにせよ、俺には御厨を止められそうにない。




