【ある警察官の手帳】噂の数は、数字に出ない
御厨要という男が、娘が行方不明になったと、署に相談に来た。
小学生が行方不明──未成年の失踪は、どんな理由であれ軽視できない。私は真剣に話を聞いた。
だが、御厨という男は、随分と横柄だった。自分の説明不足を棚に上げて、「もっと動いてくれ」だの「手がかりはないのか」だのと迫ってくる。こちらが質問しても「分からない」「知らない」「妻に任せていた」そんな返答ばかり。
言葉を選ばずに言えば、父親としての責任を果たしていない男、という印象が強かった。
とはいえ、娘の失踪そのものは、彼の態度とは関係なく重大な案件だ。彼の態度には苛立ちも覚えるが、娘を捜す気持ちだけは本物だろうし、こちらも手を抜くつもりはない。
私はデータベースを確認し、過去の行方不明者の記録を洗い直した。
そこで、ひとつ気になる点があった。
サーカス団が巡業した地域では、必ず行方不明者が出るという噂があるようなのだ。
もちろん、行方不明者なんて他の地域でもどこでも発生する。サーカスが来た町で出たとしても、偶然と言われればそれまでだ。警察のデータベースを見ても、突出して不自然な点はない。
だが、そういったネット上の噂を拾っていくと、どうも届け出のない失踪が多いように感じられた。
「サーカスを見に行った友人が帰ってこない」
「あの団長はなにか隠している」
「公園にいつもいたおじいさんが急にいなくなった」
書き込みの信憑性は低い。だが、数が多い。無視できる量ではない。
私は警察官としての職務とは別に、個人的に、トニー・フレンズ・サーカスという団体に興味を持ちはじめていた。ただ、署内でこの話をすると、噂に振り回されるなと笑われる。
公式な記録に残っている行方不明者は、あくまで届け出があったものだけだ。届け出がなければ、数字には残らない。
数字に残らなければ、事件にはならない。
だが、私は知っている。数字に出ない行方不明者は、確かに存在するのだ。




