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戻ってきた彼女は、僕の知る彼女ではなかった 記憶をなぞる“何か”が、部屋の中にいる 忘れたはずの声が、玄関の向こうで呼んでいる  作者: かーすけ


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最終章 影の終わり、心の始まり

 ――美しくて、怖くて、静かなラスト


 世界が崩れ落ちる中、僕は影の彼女の手を握っていた。

「さあ……選んで」

 彼女は微笑む。その笑顔は、優しくて、温かくて―― でも、底がない。

 胸の奥で、僕の鼓動と彼女の鼓動が完全に重なっている。

 ドクン……ドクン……ドクン……

 影が僕の身体を包み込み、世界が黒く染まり始める。

 僕は息を呑んだ。

「……俺は……」

 影の彼女が囁く。

「一緒になろう。あなたの中で、私の続きが生きられる」

 胸の奥が揺れる。心臓が、彼女の鼓動に引きずられる。

 でも―― そのとき。

 胸の奥で、別の声がした。

『……逃げるな……!』

 あの日の僕の声。

 見捨てた僕の声。

 罪悪感の声。

 影の彼女が微笑む。

「ねえ……聞こえる? あなたの“弱さ”の声だよ」

 僕は震えた。

「……違う……」

「違わないよ。あなたは私から逃げたんじゃない。自分から逃げたんだよ」

 影が僕の胸に深く入り込む。

 世界が黒く染まる。

 僕は叫んだ。

「違う……違うんだ……!」

 影の彼女が僕の胸に手を当てる。

「じゃあ―― どうしたいの?」

 世界が完全に暗転する。


 主人公の選択:融合でも決別でもない


 暗闇の中で、僕は彼女の手を握り返した。

 強く。

 はっきりと。

「……俺は……お前を“忘れない”」

 影の彼女が目を見開く。

「……え……?」

「でも――お前の中で生きるんじゃない。俺の中で“続き”を生きるんだ」

 影が揺れる。

 世界が震える。

「お前の影に飲まれるんじゃない。俺が、お前を抱えて生きる。お前の痛みも、お前の孤独も、  お前の死も、全部、俺が背負って生きる」

 影の彼女の瞳が揺れた。

「……そんな……そんなの……できないよ……」

「できる。俺が選ぶのは――“お前と一緒に生きる”じゃない。“お前を抱えて生きる”だ」

 影が崩れ始める。

 彼女の輪郭が揺れる。

「……やだ……消えたくない……あなたの中にいたい……」

 僕は彼女の頬に触れた。

 その指先は、 もう影ではなく、 温かい涙で濡れていた。

「消えないよ。俺が忘れない限り、お前は俺の中で生き続ける」

 影の彼女が震える声で言った。

「……それって……私の“続き”……?」

 僕は頷いた。

「そうだ。お前の続きは、俺が生きる」


 影が光に溶けていく。

 彼女の姿が薄れていく。

「……ありがとう……あなたが……私の“続き”なんだね……」

 最後に残ったのは、彼女の声だけだった。

『さよならじゃないよ。だって、あなたが生きる限り……私は、ここにいるから』

 光が弾けた。

 世界が戻る。

 僕は、自分の部屋で目を覚ました。

 胸の奥で、ひとつの鼓動が静かに響いていた。

 ドクン……

 それは、僕の鼓動だった。

 でも―― その奥に、微かに重なるもうひとつの温度があった。

 彼女の影は消えた。

 でも、彼女の“続き”は僕の中に残った。

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