第7章 境界の縁(選択)
――融合か、決別か
白い部屋が崩れ始めていた。
壁がひび割れ、天井が黒い影に侵食され、床はゆっくりと沈んでいく。
世界そのものが、僕の心の中の“境界”と同じように、崩壊していく。
影の彼女が、僕の目の前に立っていた。
輪郭は揺れ、瞳は底なしの黒。
でも、微笑みだけは、昔のままの温度を持っていた。
「ねえ……選んで」
彼女は僕の手を取った。その手は、もう完全に“生きている人間の温度”だった。
「あなたの中で、私と“続き”を生きるのか」
影が僕の胸に絡みつく。
心臓が、彼女の鼓動に引きずられる。
ドクン……ドクン……ドクン……
「それとも――私をここで終わらせるのか」
白い部屋の奥、黒い扉がゆっくりと閉じていく。
扉の向こうから、 “あの日の僕”の声が聞こえた。
『……たすけて……』
胸が締め付けられる。
僕は震える声で言った。
「……俺は……」
彼女は僕の頬に触れた。
その指先は、優しくて、温かくて―― でも、影の冷たさを含んでいた。
「どっちでもいいよ。あなたが選んだほうが“本当の結末”になるから」
融合の誘惑
影が僕の胸に深く入り込む。
彼女の声が、僕の心臓の内側から響く。
『一緒になろう。あなたの中で、私の続きが生きられる』
視界が揺れる。
• 彼女と笑っていた日々
• 手を繋いだ帰り道
• 彼女の声
• 彼女の温度
• 彼女の涙
すべてが、僕の記憶の中で鮮明に蘇る。
影の彼女が囁く。
「あなたの心臓は、もう私の鼓動を受け入れてる。あなたの脳も、私の記憶を受け入れた。あとは――」
彼女は僕の胸に手を押し当てた。
「あなたが“自分”を手放すだけ」
胸の奥で、僕の鼓動が彼女の鼓動に吸い寄せられる。
ドクン……!ドクン……!ドクン……!
世界が黒く染まり始める。
決別の衝動
そのとき―― 胸の奥で、別の声がした。
『……たすけて……』
あの日の僕の声。
逃げた僕の声。
見捨てた僕の声。
影の彼女が微笑む。
「ねえ……聞こえる? あなたが閉じ込めた“罪悪感”の声だよ」
僕は震えた。
「……俺は……逃げた……」
「うん。でも、逃げたのは“私”からじゃない」
彼女は僕の胸に手を当てた。
「あなたは“自分”から逃げたんだよ」
胸の奥が熱くなる。
影が揺れる。
世界が震える。
選択の瞬間
影の彼女が僕の手を握る。
「さあ……選んで」
白い部屋が崩れ落ちる。
影が僕の身体を包み込む。
心臓が、彼女の鼓動と完全に重なる。
ドクン……ドクン……ドクン……
彼女の声が、僕の声と重なった。
『あなたと私の“続き”を』
僕は息を呑む。
胸の奥で、“あの日の僕”の声が叫んだ。
『逃げるな……!』
影の彼女が微笑む。
「さあ――どっちを選ぶの?」
世界が暗転する。




