第97話 反攻の時
老猟師からもたらされた情報を基に、レオンとアレクシスは、慎重に、しかし迅速に、反攻作戦の立案を進めていった。
「敵が、獣道にまで、手を伸ばしているということは——」レオンは、地図を広げながら、分析を続けた。「本隊の補給が、相当、逼迫している証拠だ」
「この機を逃さず、決定的な一撃を、加えるべきだな」アレクシスも、同意した。
二人は、前線指揮官、そして、本隊の司令部とも連携を取りながら、具体的な作戦を、練り上げていった。
「正面からの、大規模な攻勢ではなく、敵の補給拠点を、直接、叩く」レオンは、提案した。「南方戦線での、経験が、ここでも、活きるはずだ」
「老猟師殿の協力で、敵の背後に回れる、別ルートも、把握できている」アレクシスは、付け加えた。「このルートを使えば、奇襲も、可能だ」
この作戦案は、司令部に提出され、慎重な検討の末、正式に承認されることになった。
「レオン殿の兵站分析、そして、レーヴェン卿の部隊運用——両名の連携による、この作戦に、期待する」
司令官からの言葉に、レオンとアレクシスは、改めて、気を引き締めた。
作戦実行の夜、レオンとアレクシスは、少数精鋭の部隊を率い、老猟師の案内で、険しい獣道を進んでいった。
「この先が、敵の、主要な補給拠点だ」
老猟師が、暗闇の中、小声で、方角を示した。
「ありがとうございます」レオンは、深く感謝を込めて言った。「あなたの協力がなければ、この作戦は、成功しなかった」
「わしの土地を、荒らされたくないだけだ」老猟師は、ぶっきらぼうに答えたが、その言葉には、確かな信頼が、感じられた。
一行は、慎重に、敵の補給拠点へと、接近していった。
「……想像以上に、手薄だな」
アレクシスが、周辺を観察しながら、そう呟いた。
「敵も、まさか、この道から、攻められるとは、思っていないはずだ」レオンは言った。
「作戦開始だ」
アレクシスの合図と共に、部隊は、一斉に、行動を開始した。奇襲は、見事に成功し、敵の補給拠点は、大きな混乱に陥った。
「物資、確保しました!」
「敵の守備隊、投降しています!」
次々と届く、好報に、レオンは、確かな手応えを感じていた。
「この拠点、徹底的に、無力化する」レオンは、指示を出した。「持ち帰れない物資は、処分してくれ。敵に、再利用させるわけにはいかない」
作戦は、想定以上の成果を上げ、一行は、速やかに、撤収を開始した。
「見事な、成功だったな」撤収の道中、アレクシスが、レオンに言った。
「老猟師殿の協力があってこそだ」レオンは、改めて、感謝の気持ちを込めて言った。
この補給拠点への奇襲は、敵軍に、決定的な打撃を与えることになった。
「敵、主力部隊の、撤退を、開始した模様です」
数日後、前線本部に届いた報告に、陣地全体に、確かな安堵の空気が広がった。
「本当に、撤退するのか」レオンは、念を押すように、確認した。
「はい。補給の限界に達し、これ以上の進軍継続が、不可能と判断したものと、見られます」
レオンは、この報告に、これまでの、長く厳しい戦いが、ようやく、一つの区切りを迎えようとしていることを、実感していた。
「この地域での、防衛戦、我々の、勝利ということだな」アレクシスが、確認するように言った。
「ああ」レオンは、静かに頷いた。だが、その表情には、単純な喜びだけでなく、これまでの戦いの重みを、噛み締めるような、複雑な感情が、浮かんでいた。
「多くの犠牲が、出たんだろうな、双方に」
「戦争である以上、避けられないことだ」アレクシスは、重い声で言った。「だが、お前の兵站と戦略が、犠牲を、最小限に抑えたことも、事実だ」
レオンは、その言葉に、静かに頷いた。南方戦線で学んだ、「勝つことより、兵士を生かすこと」という信念——それが、この、東方の厳しい戦いにおいても、確かに、実を結んでいた。
この局地的な勝利は、すぐに、帝都の軍務省へも、報告された。
「この成果、戦争全体の、大きな転換点になるかもしれないな」
アレクシスの言葉に、レオンは、改めて、これからの展開に、思いを馳せていた。
険しい山々に囲まれた戦場で、一つの大きな戦いが、終わりを迎えようとしていた。だが、この戦争そのものが、本当に、終わりに近づいているのか——その答えは、まだ、見えていなかった。
東方の空に、新たな希望の光と、そして、まだ残された、長い道のりへの予感が、同時に、広がり始めていた。




