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豪商生まれのただの平民士官【帝国改革記】  作者: 橘秀斗
帝都・改革編

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第96話 消耗の兆し

 狭隘な区間での持久戦が始まってから、三週間が過ぎていた。


「敵の動き、以前より、明らかに鈍くなっています」


 偵察部隊からの報告に、レオンは、確かな手応えを感じていた。


「予想通りだな」レオンは、地図を見ながら言った。「未開拓の山域への展開、相当な負担を、強いているはずだ」


「それでも、完全に、撤退する様子は、ありません」アレクシスが、慎重に付け加えた。


「簡単には、引けないんだろう」レオンは、推測した。「中央からの、強い圧力があるはずだ」


 二人は、この膠着状態の中でも、油断なく、防衛体制を維持し続けていた。だが、長期にわたる持久戦は、帝国側の部隊にも、確かな負担を、及ぼし始めていた。


「物資の消費、予想より、やや早いペースです」


 補給担当の部下からの報告に、レオンは、改めて、計算を見直した。


「山岳地帯での、長期駐留——想定していた以上に、消耗が激しいな」レオンは、険しい表情で言った。


「補給線、まだ、十分に機能しているのか」アレクシスが、尋ねた。


「ぎりぎりのところだ」レオンは、正直に答えた。「南方戦線の経験を活かして、分散配置は、うまくいっている。だが、この状態が、あとどれだけ続くか——」


「長期化すれば、こちらも、限界が来る、ということだな」


「ああ」レオンは、頷いた。「敵の消耗を待つという戦略、こちらの消耗との、競争でもある」


 この厳しい状況の中、レオンは、改めて、物資の効率的な運用を、徹底することにした。


「食料の配分、これまで以上に、慎重に管理する」レオンは、部下たちに、指示を出した。「無駄な消費を、徹底的に、見直してくれ」


 同時に、レオンは、現地の地理に詳しい、山岳地帯の住民たちとの、協力関係の構築も、進めていった。


「この辺りの、山菜や、野生の食材——うまく活用できれば、物資の負担を、軽減できるかもしれない」


 レオンは、南方戦線での経験——地元の人々との信頼関係が、いかに重要かを、改めて、思い起こしていた。


「山の民の、協力を得られれば、心強いな」アレクシスも、この方針に、賛同した。


 数週間かけて、レオンは、現地の数少ない住民たちとの、信頼関係を、少しずつ、築いていった。


「あんたたち、無理に、俺たちの土地に、踏み込んでこないんだな」


 ある老猟師が、レオンに、そう話しかけてきた。


「必要な分だけ、いただければ、十分です」レオンは、丁寧に答えた。「それに、あなた方の暮らしを、脅かすようなことは、したくありません」


「……変わった軍人だな」老猟師は、意外そうな顔をした。「まあ、悪くない態度だ」


 この小さな信頼関係は、やがて、貴重な情報をもたらすことになった。


「敵の部隊、北側の、未開拓のルートでも、動きがあるようだ」老猟師が、ある日、そう教えてくれた。


「北側、というと?」レオンは、すぐに、地図を確認した。


「この辺りの山は、わしらしか知らない、獣道がいくつもある」老猟師は言った。「もし、敵が、そういう道まで、使おうとしているなら——かなり、追い詰められている証拠だろうな」


 レオンは、この情報に、確かな手応えを感じた。


「敵、本当に、限界が近いのかもしれない」


 この情報は、すぐに、アレクシスへと共有された。


「敵が、獣道にまで、手を出しているなら——」アレクシスは、険しい表情で、しかし、どこか、確かな期待を滲ませながら言った。「これは、大きな、突破口になるかもしれないな」


 レオンとアレクシスは、この新たな情報を基に、改めて、戦略を練り直し始めた。


「敵の、限界が近いなら、こちらから、決定的な一手を、打つべきかもしれない」レオンは、慎重に、しかし、確かな決意を込めて言った。


「南方戦線での、撤退戦とは、逆の状況だな」アレクシスも、頷いた。「今度は、こちらが、攻勢に転じる番だ」


 険しい山々に囲まれた戦場で、長く続いた持久戦に、ついに、大きな転機が、訪れようとしていた。


 レオンとアレクシス、そして、現地の人々との、確かな信頼関係——それらすべてが、この、重要な局面において、大きな力となろうとしていた。


 東方の空に、これまでとは違う、新たな展開への、確かな予感が、静かに、広がり始めていた。

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